恋模様シーイング

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
84 / 183
5章【時限性アニバーサリー】

13

しおりを挟む



 風呂場での行為が終わり、秋在の部屋へ戻った二人は。

 秋在のベッドに、並んで寝転がっていた。

 冬総の背には、秋在がべったりと抱き着いている。


「……秋在? せっかくプレゼントした抱き枕、使わないのか?」
「抱き枕なら今使ってる」
「いや、俺じゃなくて……俺があげた方の抱き枕だよ」
「ヤキモチ妬くくせに」
「俺が自分であげたプレゼントにヤキモチなんて妬くワケ――秋在、エスパーかよ」


 冬総は体を反転させて、秋在を抱き締め返す。

 自分が見ていないところで使われるのは、一向に構わない。むしろ、断然嬉しい。

 しかし、抱き締められる選択肢の中に自分がいるのなら……確かに、自分を選んでほしいという気持ちがあった。

 抱き締め合っていると、秋在の脚が、冬総の脚に絡められる。


「有能な抱き枕。あったかいし、幸せな気持ちになれる」
「抱き枕冥利ってのに尽きるな」
「だね」


 冬総にくっついたまま、秋在は更に距離を詰めようとした。

 冬総の胸に、頭をグリグリと押しつける。


「フユフサ。……明日の朝、楽しみにしてていいかも」
「ん? なにかあるのか?」


 不確定なように聞こえる宣言に、冬総は怪訝そうな顔を浮かべた。

 秋在は冬総の胸に額を当てたまま、答える。


「――嬉しくて、くすぐったくて、ちょっと困ること」


 まるで、ナゾナゾだ。


(嬉しくて、くすぐったくて、ちょっと困ること……か。……おはようのキス、とかか? 嬉しいし、くすぐったいけど……ご両親が帰ってきてるかもしれない中で、キス以上のことはできないからな……。よし、きっとそうだろうな……!)


 なかなかの名推理だと、冬総は自画自賛をする。


「分かった。……楽しみにしてるな」
「うん。してて」


 秋在の体を、もう一度しっかりと抱き締め直す。


「秋在、おやすみ。……今日も明日も、愛してる」
「うん。……おやすみ」


 幸福に包まれながら、冬総は目を閉じた。





 そして、迎えた翌朝。

 ――冬総は、頭を抱えていた。


「――昨日の俺を殺してくれ……ッ!」


 確かに、嬉しいことが起きている。

 なんとなくくすぐったいが、しっかりと嬉しいことが。

 しかし。

 しかし……大いに恥ずかしいことだった!

 ――焼き魚。

 ――玉子焼き。

 ――味噌汁に、白米。

 ――心ばかりの、たくあん。

 リビングに向かった冬総の前に、万全の状態で並んでいたのは……。

 ――非の打ち所がないほど完璧な、朝食だった。


「フユフサ。『いただきます』して」
「ぐぅ……ッ! イタダキマス……ッ!」


 正面に座っている秋在は、エプロン姿だ。

 めっ、と言いたげな秋在に向かって、冬総は深々と頭を下げる。


「……クソッ! 俺の秋在は最高だなッ! ……チクショウ、ウマいッ!」
「良かった。……おかわり、あるからね」
「いただきますッ!」


 冬総が生成した十三点ぽっちのチャーハンに比べて。

 ――秋在が用意した朝食は、一億点。

 それだけでは飽き足らず、エプロン姿によって母性が加算されている秋在が目の間にいるのだから。

 ――冬総は心の中で、さらに一兆点の加点をした。





5章【時限性アニバーサリー】 了




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...