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3章【雨に濡れる羊を、狼が哀れむ】
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しおりを挟むすぐに、桃枝の眉が寄せられる。
「そんなこと、俺は気にしない。そもそも周りになんて言われているかとか、俺が気付くわけないだろ」
「それって、周りの人とコミュニケーションが取れていないってことですよね? 自慢げに言うことではないと思いますけど?」
山吹は哀れむような目を向けた後、いつも通りの笑みを浮かべた。
「課長が来たいのなら、どうぞ今からでも。平日の夜ならボクたちが二人でいて、しかもボクの部屋に来たとしても『仕事について説教されました』とでも言えますし」
「それは……」
「どうします? 今から来ますか? それとも……」
ジッと、山吹は桃枝の目を見る。
「──また、一ヶ月後にしますか?」
これは、嫌味だ。桃枝にも分かるように、山吹はわざとらしいほどに責めている。
クリスマスプレゼントは、素直に嬉しい。今だって、包みへの抱擁を止められないほどに。
それでも、一ヶ月もの間放置されていた事実は変わらない。覆されもしないし、中和もされないのだ。これくらいの責めには理解を示してもらわないと、一ヶ月間の山吹が浮かばれないだろう。
まさか桃枝は、シャイを拗らせているのか。それとも年末の業務に忙殺され、山吹のことを忘れていたのかもしれない。どれもこれも憶測の域を出ないが、どれもこれも桃枝らしい理由だろう。
責められた桃枝が、眉間の皺をより深くする。
「……いや。今から、頼む」
言い訳を、しない。放置の理由も明かさない桃枝を、山吹は思わず睨みそうになる。
それでも、睨まない。冷たい態度は、桃枝が好む山吹ではないからだ。
どうしてそこまでして、桃枝が傷付かない態度を繰り返そうとするのか。その割には先ほどのように嫌味を言うのは、なぜなのかも。……今の山吹には、分かりそうになかった。
「それじゃあ、帰る準備をしましょうか」
「そうだな」
「でも、その前に……」
「なに──んっ」
つんと、桃枝の唇が一瞬だけ塞がれる。塞いだ犯人は、山吹の唇だ。
「不意打ちのプレゼントが嬉しかったので、ボクも不意打ちをプレゼントです。……嬉しいですか?」
ニコニコと、無邪気な笑み。唇を奪われた桃枝は目を丸くして、山吹を見上げていた。
「……誰かに、見られたらと。そう思うと、気が気じゃないな」
「つまんない回答ですねぇ~。萎えます」
「それは悪かったな」
「だけど、課長らしいです。とてもいいと思いますよ、そういうところ。……他の人にやったら、平手打ちの一発でも食らわされるかもしれませんが」
「お前以外とキスなんざしない」
「……。……あっ、そっか。そうでしたね」
「お前、また……」
好意を向けられていると、覚えているのに忘れている。
本気で桃枝からの好意や想いを失念していた山吹を見上げて、桃枝は深いため息を吐いた。
「まぁ、別にいいがな。そういうところも、言っちまえばお前らしい」
「なんだか嫌味っぽいですね」
「褒めてはいないからな。……貶してもいないが」
苦笑を返しつつ、山吹は帰り支度を進めるために一度、自分のデスクへと戻る。
……当然、抱いたプレゼントを手放そうとしないまま。
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