地獄への道は善意で舗装されている

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
239 / 466
8章【軋む車輪は油を差される】

13

しおりを挟む



 山吹は日替わり定食を、桃枝は唐揚げ定食を頼み、いざ実食の時。


「お味噌汁、温まりますね。お米もおいしいです」
「そうか。お前の口に合ったなら、良かった」


 味噌汁を啜り、漬け物と米を口にする。満足そうに頷く山吹を見て、桃枝は瞳を細めた。まるで、はしゃぐ子供を見守る親のような目だ。……そう桃枝に言えば、複雑そうな顔をされるだろうが。

 食事を進める山吹を眺めた後、桃枝も箸を手に取る。小さな声で「いただきます」と呟き、桃枝も唐揚げを口にした。


「……うん。やっぱり、ここの唐揚げはうまいな」
「っ! そっ、そんなのっ、ボクの方がおいしく作れますっ!」
「大声で失礼なこと言うんじゃねぇよ」


 謎の対抗意識を向けられた桃枝は複雑そうな顔をするも、すぐにしみじみといった様子で頷き始める。


「だがまぁ、確かにうまかったな。お前が弁当に入れてくれた、手作りの唐揚げ。冷めてもうまいんだから、大したもんだ」
「えっ。……ん、へへっ」
「は? なんだよ、その顔。可愛いだろうが、オイ」


 すぐさま、桃枝から頬を撫でられた。山吹は目を丸くし、撫でられた部分と同じところを拭う。


「ボクのほっぺ、なにか付いてました?」
「いや。ただ俺が、お前の頬を無性に触りたくなっただけだ」
「えっ? ……あっ、わ、分かります。ボクはほっぺも魅力的な男、ですからね」

「そうだな。赤くなった頬も魅力的だと思うぞ」
「わざわざ指摘するなんて、デリカシーがなさすぎですよ、もう」


 気恥ずかしいが、嬉しい。山吹は堪らず、はにかむ。
 すると、笑う山吹を眺めた桃枝が不意に、普段では見せないような柔らかい微笑みを浮かべた。


「良かった。お前がこうして、笑ってくれて」


 呟くと、桃枝は微笑みをそのままに言葉を続ける。


「お前、あまり【デート】とかっていう分かり易い恋人同士の関わりとか、たぶん得意じゃないんだろ。俺もお前とのデート以外は経験がねぇし、お前に嫌な顔とかさせちまったらどうしようかって思ってたんだよ」
「ボクとの、デート……」
「最近は、なんて言うか……悲しい顔ばかり、させちまってたし。だからかもな。余計に、お前の笑顔が嬉しく感じる」


 桃枝の笑顔だって、山吹にとっては貴重で大切だ。そう言うのは、簡単だった。

 だが、きっと違う。桃枝が愛おしそうな眼差しを向け、嬉しそうに言葉を紡いでいる理由は、山吹が抱く気持ちとは違うのだ。


「課長にとっての、初デートと言う貴重な経験。その相手がボクだったのは、嬉しいです。だけど、ボクが企画した初デートは、その、えっと。……下心、が、いっぱいだったから……っ」


 だから山吹は、素直に向き合う。落ち度だらけだった初デートを、桃枝相手に告白した。
 するとまたしても、山吹の頬を桃枝が指で拭う。依然として、微笑みを浮かべたままに。


「恋人相手に下心があって、なにが悪いんだよ」


 山吹が言う『下心』の意味を理解していないから、なのか。それとも、理解したうえで言っているのかは、山吹には分からなかった。

 それでも分かるのは、桃枝から向けられる愛情だ。山吹は赤面し、桃枝から顔を背ける。

 なにか、返さなくては。赤くなった顔をどうすることもできないまま、山吹は言葉を発した。


「──ボク、も。課長が相手、なら。やましい下心があっても、いいです……っ」
「──なんで『やましい』限定なんだよ」


 あまり、思った通りの返事にはならなかったが。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...