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10章【疾風に勁草を知る】
44 微*
しおりを挟む桃枝の胸で泣き出して、あやされて。どのくらいか経った、その後。
「課長、お願いです。……抱いて、くれませんか」
目元をティッシュで優しく拭われながら、山吹は桃枝を誘っていた。
さすがに動揺する桃枝だが、なんの準備もしていないと言い、必死に理性を見せつける。散々傷つけて泣かせた後で抱くなんて、桃枝の良心が良しとしないのだ。
だから山吹は、斜め上の方向で勇気を出した。……それが、今現在。
「──お前、狡いぞ。俺がお前から『一緒にシャワーを浴びてほしい』なんて言われたら、断れるわけがねぇって分かってるくせに」
狭い浴槽で身を寄せ合っている現状に、繋がった。
なんだかんだと、桃枝は山吹との入浴を夢見ていたのだ。しかしその欲求を、山吹を想って堪えていただけ。
それが山吹から良しと言われたのなら、どうなる? そう、こうなるのだ。
「そう言って、ボクのお尻をキレイにしてくれたじゃないですか」
「不可抗力だ」
「ボクが『イッちゃう』って言ったら、イかせてくれたじゃないですか」
「不可抗力だ」
「二回もボクをイかせたくせにですか?」
「分かった、俺が悪かったから黙ってくれ」
湯に体を沈めている以外の理由で、桃枝の顔が赤くなっている。まさか裸の付き合い中に部下からセクハラを受けるとは、思っていなかった。桃枝はそう言いたげだ。
山吹が言った通り、桃枝は山吹の体をある意味で弄んだのだが……不可抗力だろう。そう言われたい。脱力している桃枝は、やはりそう言いたげだ。
後ろから抱き締められたまま、山吹は上機嫌そうに笑う。桃枝と過ごすこういう時間が、山吹は好きで堪らないのだ。
「ねぇ、課長。……ボクにとってセックスは、ただの現実逃避でした。抱くのも抱かれるのも、どっちも気持ちが良くて……だけど、それだけで。セックスは【快楽を伴う気晴らし】みたいなものでした」
俯いた桃枝を振り返り、山吹は微笑む。
「でも、課長は違います。課長とのセックスは、違うんです」
すぐに、桃枝は山吹の表情に気付いた。
「前戯も、ただの触れ合いも。動かずにただ黙って繋がっているだけでも。全部が全部、ボクにとって大切で、幸せな時間です」
幸福に満ちていた笑みが、徐々に赤みを増していく。
「こんな気持ち、初めてだから。上手に伝えられなかったり、変な態度を取ったりしてしまっても……笑わないで、くださいね?」
微笑みが、照れくさそうな笑みに変わって。すり、と身を寄せる山吹の甘えに、桃枝は思わずため息を吐く。
「お前は本当に、狡い男だな」
呆れたような物言いなのに、桃枝は怒ってもいなければ困ってもいなかった。
なぜなら……。
「んっ、課長……っ。いきなり、乳首触っちゃ……や、っ」
山吹の上半身を抱いていた手が、やましい下心を持って動き出したのだから。
乳首を捏ねられた山吹は、ピクリと身を震わせた。そのまま山吹は、為す術もなく桃枝の体にもたれかかる。
「煽情的なお前を見てすぐにブツを突っ込まなかった俺をベッドで褒めてもらいたかったんだが、さすがに今のは無理だ。悪いが、ここでお前を抱くぞ」
「は、ぁ、んっ。課長っ、あ……っ」
「浴室はいいな。お前の可愛い声が、よく響く。いつも以上に気分がいい」
「ぁあ、ッ」
両手に乳首をつねられ、山吹は思わず大きな声を出してしまった。
声を堪能されていると気付き、山吹は赤くなる。だが、そんな少し意地の悪い桃枝も、山吹は好きなようで。
「んっ、セックス、嬉しい……っ。お風呂で課長と、恥ずかしいエッチができるなんて……課長とのステキな思い出が、また増えちゃいますね?」
「お前本気でそういうところだからな」
臀部に、桃枝の逸物が当たる。その先端が、尻の割れ目を探していた。
山吹は一度立ち上がり、すぐに桃枝と向き合うために、座り直す。
「抱いてください、白菊さん。ボクが誰の男なのか、体に分からせてほしいです」
腕を回し、抱き着いて。山吹は桃枝の唇に、キスを落とした。
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