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11章【喉元過ぎれば熱さを忘れる】
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しおりを挟む桃枝に擦り寄りながら、山吹は自らの額を桃枝の胸に当てた。
「今日だけに限らず、これからも、ずっと。……もっと、構ってほしいです。一緒に居られて嬉しいですけど、でも、ヤッパリ構ってもらえないのは寂しいです」
「そうか。悪かった」
「今そうして謝られるのは、寂しいのよりイヤです」
「相変わらずお前の注文は難しいな」
顔を上げると、すぐに桃枝と視線が重なる。同時に、柔らかい笑みを向けられた。
「別にお前を試したわけでも、ましてや、わざとでもなかったんだが。……けど、いいもんだな。お前に【俺の迷惑】なんてありもしねぇことを気に掛けられずに、こうして素直な気持ちを伝えてもらえるのは」
「もしかして、お仕事を持ち帰ったのは作戦かなにかですか?」
「それは違うって言ったばかりだろうが。照れ隠しのつもりなら、もう少しマシなことを言えっつの」
「ひゃうっ。頬を引っ張らないでください~っ」
むにむに。少し冷えた桃枝の指に頬をつままれ、山吹は情けない声を上げた。
やはり、こうして自分の気持ちを伝えることで桃枝は喜んでくれるらしい。それがどれだけ身勝手な甘えだとしても、桃枝は山吹を叱らないのだ。
どうして、そこまで優しくしてくれるのか。その理由を問えば、桃枝は『お前が好きだから』としか答えてくれないのだろう。
頬から指が離れて、山吹はすぐに眉を八の字にした。
「でも、課長がお忙しいのは事実ですよね。だから、その、ごめんなさい。課長、お疲れですよね? 今日は、部屋でゆっくりしたかったですよね……」
「いいや、全く。お前が隣にいるなら、俺の元気は無限湧きだからな」
「ボクを口説くつもりの美辞麗句でもなく、ホントの本心っぽく聞こえるから不思議ですよね」
「本当の本心だからな」
そろ、と。桃枝の手が、山吹の頬を撫でた。
「せっかくの休日だ。一人でダラダラ過ごすより、お前にこうして構う方が俺は癒されるし、充実した休日だと思える」
そんなに恐る恐る触れなくても、もう逃げやしないのに。さっきまでの遠慮なさはどこへ行ったのかと、どこか他人事のように笑ってしまいそうだ。
頭を撫でる桃枝の手を、そっと掴む。そして山吹は、桃枝の手のひらに頬を擦りつけた。
「それじゃあボクは、構ってくれるお礼に課長のことをもっといっぱい癒してあげちゃいます」
すりすりと頬を寄せる山吹を、桃枝は瞳を細めて見つめる。
「それは楽しみだな。なにをしてくれるんだ?」
答えが決まっていても、思い付きで口にしただけで答えが無くたって構わない。なぜなら桃枝は、こうして可愛く甘えてくる山吹を見られるだけで充分に癒されているのだから。
だからこれは、ただの雑談だ。少なくとも、桃枝にとってはそうだった。
しかし山吹にとって、桃枝の問いは『待っていました』と言わんばかりの餌だ。山吹の中に、答えはあるのだから。
そして、山吹がチャーミングな微笑みを向けた途端──。
「──授乳手コキでもしましょうかっ」
ピシッ、と。
桃枝の動きが、止まった。
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