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12章【明日ありと思う心の仇桜】
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しおりを挟む料理を作ってくれて、苦手な電車に頑張って乗っている山吹の頭をヨシヨシと撫でた後。
「なんだ? これ」
夕食を終えた桃枝はふと、テレビの前に置いてあるテーブルを見た。そして、そのテーブルの上に置かれた違和感に気付いたのだ。
食器をシンクに下げた桃枝は食卓テーブルを拭いた後、他のテーブルも拭こうとしたのだが……見覚えのない荒れ具合に、眉を寄せる。
帰宅した時には気付かなかったが、おそらく山吹が置いたのだろう。乱雑にテーブルの上に広げられているのは、チラシだ。……より厳密に言うと、裏になにかが書かれ、メモ用紙に成り果てたチラシだった。
桃枝はテーブルに近付き、チラシの裏に書かれたメモを見る。
どうやら、山吹がなにかしらのサイトを見てパソコンの使い方を勉強していたらしい。
まるで、文書作成検定の試験問題を写し取っているようだった。桃枝はテーブルに広げられたチラシを、一枚ずつ眺める。
「課長、なにか飲みませんか? ボク、喉が渇いちゃって」
食器を洗う山吹が声をかけても、桃枝は「あぁ」という生返事をするだけ。チラシの裏に書かれた文書が気になり、山吹に対して上の空だからだ。
会社名、宛先、なにかしらの案内文書……。間違いない。これは、文書作成検定の問題をホームページから手書きで写し取ったメモだ。
しかし、なんのために? 桃枝は眉間の皺をほんのりと深くしながら、チラシに手を伸ばす。
その間も、山吹は桃枝に声をかける。
「麦茶でいいですか?」
「あぁ」
「……コーヒーにします?」
「そうだな」
だが、桃枝はこんな状態だ。会話になっていないと山吹が気付くのは、言うまでもなく早かった。
「……。……むぅ~っ!」
「うわッ!」
すると、急に。桃枝の体が、ぐわんぐわんと前後に強く揺さぶられた。
驚いた桃枝はチラシに伸ばしかけていた手を引っ込めて、いつの間にか近くにいた山吹の肩を押す。
「急に揺するな。……っつぅかお前、意外と力強いんだな。惚れ直した」
「ボクと話しているのにボーッとするからですよ、バカ!」
「そんな理由で人の体を突然揺すったのか? ……くそっ。このワガママが堪らねぇ」
「なっ! ワ、ワガママ、ですかっ?」
桃枝が悶えると、対する山吹にはショックを受けられた。
しかしすぐに、山吹は開き直る。
「あぁもうそうですよっ! どうせボクは課長を好きになる前も後も変わらず面倒でワガママで手に余る困った男ですよっ!」
恥ずかしい、恥ずかしい、と。どれだけ威勢が良くても、顔を赤らめた山吹の本心は筒抜けだ。
桃枝は意識をチラシから完全に山吹へと向けて、思わず微笑む。
「いいだろ、面倒でも我が儘でも。感情が爆発するくらい、俺のことで頭がいっぱいってことなんだから」
すると余計に、山吹の顔が赤くなった。
「~っ! 変なところで妙なポジティブを炸裂させないでくださいっ! 前向きな姿勢を見てより一層惚れちゃうじゃないですかっ! 課長のあんぽんたんっ!」
「俺は喜ぶべきなのか? 落ち込むべきなのか?」
「課長のおバカさんっ! でも好きですっ!」
「喜ぶべきらしいな」
素直だ。桃枝は山吹の頭を撫でる。
真っ赤になった山吹は「どうして今ボクを甘やかすんですか!」と、またまた立腹してしまったが。桃枝が一言「お前が好きだからだが?」と答えると、そのまま黙ってしまった。
おかげで桃枝は、広げられたチラシがなんなのかと訊くタイミングを完全に逃してしまったのだが……。山吹が可愛いので、満足だった。
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