395 / 466
12章【明日ありと思う心の仇桜】
20
しおりを挟む鼻をすすり、泣き出した山吹を見て。当然、桃枝は驚愕した。
「山吹、なんで……っ。別に俺は、お前を嫌ったとかそういうわけじゃなくて……」
山吹を傷つけたくなかったから、腹を割って話したというのに。
ただ数日、セックスをしなかっただけ。それなのにどうして今、山吹は泣いているのだろう。
上体を起こし、桃枝は山吹の顔を覗き込む。そうするとすぐに、静かに泣き出した山吹と目が合った。
「メーワク、かけたからっ。だからちゃんと、ガマンしなくちゃいけないのに……っ」
「山吹? お前、そんなにセックスしたかったのか?」
訊ねると、山吹は俯いてしまう。
まさか、山吹はセックス依存症なのか。瞬時に浮かんだ、疑いは──。
「白菊さんを、一番独占できるのはセックスだから。白菊さんとセックスして、ボクだけの白菊さんにしたいんです……」
「……えっ?」
一瞬にして、消し飛んだ。
「──他の人に、優しくしないでください……っ。不安なんです、怖いんです。ボク、いい子じゃないから……誰かに、負けちゃう……っ」
違う。山吹が抱えているのは、セックスができないことへのフラストレーションではない。
山吹が抱えているのは、もっともっと、根本的な部分のことなのだ。
なぜか山吹は、桃枝に嫌われてしまう可能性に──もっと言うのなら、桃枝が山吹以外の誰かを好きになる可能性に怯え始めている。
誰かと密会をした覚えもなければ、誰かと必要以上に親しくした覚えもない。桃枝からすると、山吹の不安がどこから生まれたのかが全く分からなかった。
「なにを、言って……? 俺はお前のことだけが──」
山吹の言葉を否定しようとした、その瞬間。
「──明日も同じとは限らないじゃないですか……っ!」
ようやく、桃枝は気付いた。
山吹が抱える不安は、今に始まったことではない。
『昨日は、そうだったとしても。今日も同じとは、限らないじゃないですか』
不安、なのだ。山吹は、いつも……。
昨日までは幸せで、それが今日も明日も続くことはない。それを、身をもって知っているから。
言葉を失う桃枝に乗りかかったまま、山吹は乱暴な手つきで目をこすりながら、抱えている【不安】を紡ぎ始めた。
「課長、いつも文書の作成をボクじゃない人に頼みます。ボクはあまり、仕事が早い方ではないですし、出来も要領もいい男じゃないです。だから、課長の選択は適材適所だと思います」
「は? 文書の、作成? いきなり、なんの話だ?」
「だけど、課長が自ら進んで他の人に頼るのを見ると……根拠も理屈も、全部分かっていても。進んでじゃなくても、誰かから差し伸べられた手を取って頼っていると……悔しくて、寂しいんです」
「……緋花?」
目をこする両手を、ギュッと握っている。どこか、痛々しい姿だ。
「少しずつ、管理課の人たちは課長の魅力に──優しさや良さに、気付いています。だから、仕事関係なく課長に雑談を振る人が増えているのは分かります。ホントの課長は、とても素敵で接しやすい人ですから」
「雑談? 今度はお前、なんの話をしているんだ?」
「周りが課長の良さに気付くと同時に、課長が周りの人の良さにもっともっと気付いてしまったらと思うと、怖いです。お茶をくれるとか、そういう【お仕事が関係ない話】を振る人が増えて、課長が他の人の優しさに心を揺らがせてしまったら、ボクは、ボクは……っ」
「……っ?」
言葉が、挟めない。なにを言われているのか、ピンとこないからだ。
桃枝の理解を置き去りにしているという自覚があるのか、ないのか。山吹は静かに涙を流しながら、ようやく──。
「──それに、ボク……課長と恋人同士になってから、ただの一度も【課長から】誘ってもらったことがありません……っ」
「──っ!」
ようやく、桃枝にも理解ができる言葉を告げた。
31
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる