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12.5章【ロバにスポンジケーキ】
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しおりを挟む存分に桃枝からあやされた後、山吹はふと、目の前にあるものに気付く。
……桃枝の、首筋だ。気付くと同時に、山吹は桃枝の首筋に唇を当てた。
「おいこら、馬鹿ガキ。なにしてる」
首にキスをしてきたかと思えば、舌が這い始めたではないか。桃枝はすぐに、山吹を引き離そうとした。
それと同時に、山吹は桃枝の首筋に痕を付けようと吸い付く。無論、桃枝はより強い力で山吹を引き離そうとした。
「お前、この、首筋を吸うな」
「や、っ。……白菊さん、好きです」
「──いくらでも吸え」
しかし、相手は桃枝だ。山吹が甘えれば即座に返事は『イエス』一択となる男、とも言う。
わざわざ山吹が吸いやすいようにと、襟まで下げてくれた。山吹はパッと笑みを浮かべて、桃枝の首筋に唇を押し当てる。
「男らしくて、逞しくて、カッコいいです。だけど、ボクが食い千切ったら呆気なく殺せてしまうくらい脆い部分。ステキです、とても」
「ヤッパリ離れろ」
「えっ。……こんなに白菊さんのことが好き、なのに……?」
「──いくらでも吸え。なんなら、噛んでもいいぞ」
さすがに、甘い。甘すぎる。桃枝は自覚しながらも、山吹を引き離す気が失せてしまっていた。
一度だけ溜め息を吐き、桃枝は首筋にキスをされながら、口を開く。
「お前、痕を付けたら覚えてろよ。倍返しするからな」
「えっ! ボクにも痕、付けてくれるんですかっ?」
「そうじゃねぇだろ、嫌がれ」
「イヤ、がる? ……どうしてですか?」
山吹の反応に、桃枝はガクリと脱力する。山吹にはこういった類の冗談が通じないのだと、忘れていた。
桃枝が項垂れている理由も分からないまま、山吹は桃枝から距離を取る。そしてすぐに、着ているシャツの襟をそっと下げ、首元を露わにした。
「見えるところに、痕を付けてもらいたいです」
「痕を付ける方向で話が進んでいることに対する反論は置いておくが、さすがに見えるところは駄目だろとは言わせてくれ」
「ダメ、ですか? 鏡を見て『いつでも白菊さんと一緒』って思いたいんです、けど……」
「……ッ」
モジモジと、山吹は身じろいでいる。
なぜ、こうなったのか。お互いが理解をする間もないまま、事が進んでいる気もする。
しかし、山吹がおねだりをするのなら……。
「お前の、そういうのに。……俺は、弱いんだよ」
「あっ、白菊、さ──い、ッ」
叶えるのが、桃枝という男だ。
晒された首筋に、桃枝は唇を当てる。そのまま、痕を付けるために吸い付いた。
こういったスキンシップが大好きな山吹は、すぐに瞳を蕩けさせる。
「もっと、付けてください……っ。噛んで、歯形も欲しいです……っ。お願い、白菊さん……っ」
「なんつぅか、あれだ。……煽情的、だな。キスマークなんざただの内出血なんだから、傷に変わりはない。そう理解しているし、だからこそ不謹慎だとは分かっちゃいるが、興奮する」
「えっ。……えっと、その、じゃあ……エッチ、しますか?」
「……」
「えぇっ! こっ、この流れで無言はやめてくださいっ!」
「正しくは『絶句』だ。お前の愛らしさに、送られるべき言葉が脳から絶たれた」
シャツを捲って見せつけられたお腹をしっかりと目に焼き付けながら、桃枝は表情を強張らせた。
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