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12.5章【ロバにスポンジケーキ】
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しおりを挟むちゃっかりと山吹の首筋や胸元、内腿などにキスマークや歯型を付けた後。
「そう言えば結局、お前に罰を与えていなかったな」
「こんなにキスマークは付けてもらえたのにセックスだけはしてもらえない現状も、なかなかお仕置きじみているとは思うのですが……」
「少し待て。罰を考える」
「スルーですかっ? うぅ~っ」
でも、好き。桃枝に好き勝手された後で呼吸が乱れている山吹は、高ぶりを堪えながら桃枝を見つめる。
いったい、どんな罰が与えられるのだろう。山吹は期待感と不安感を抱きながら、桃枝の言葉を待った。
すると突然、桃枝が山吹にムギュッと抱き着いたではないか。
「白菊さん? いきなり、どうしたんですか?」
「見て分かるだろ。お前への【新しい罰】を決行中だ」
「……えっと、つまり?」
すり、と。山吹の胸に、桃枝は顔を擦り付けた。
それからポソッと、実に聞き取りにくい声量で答えが送られる。
「──精一杯、分かりやすく、甘えている」
よく見ると、桃枝の耳が赤くなっていた。つられて、山吹も顔を赤くしてしまう。
思えば、桃枝は残業をしてばかりだ。きっと誰にも言わないだけで、疲れているのかもしれない。
それなのに山吹は、不慮の事故やはしたない下心で桃枝を振り回してしまった。……きっとそう告げても『そこは問題ない』と返されるだろうが。
山吹に抱き着いたまま、羞恥からだろうか。早口になりつつも、桃枝はモゴモゴと言葉を重ねた。
「どうだ、絵面的にキツイだろ。上司のこんな姿を見せつけられるのは、精神的に参るはずだ。だからこれは、お前にとって罰に他ならないだろ」
「いや、そんなことは……」
むしろ、嬉しいくらいなのだが……。そう言っては、桃枝の羞恥心を強まらせてしまうだけだろう。
これは、ある意味で桃枝の成長とも言えるのかもしれない。グリグリと額が押し付けられる中、山吹はクスッと小さく笑ってしまう。
「このお仕置き、謹んでお受けいたします」
「……あぁ」
桃枝の頭を撫でながら、山吹は微笑みを浮かべた。
頭を撫でる山吹から放たれる柔らかなオーラに気付いていながら──気付いているからこそ、桃枝は顔を上げられない。
「白菊さん、カワイイです。カワイすぎてボク、困っちゃいますよ」
「そうか。なら、やっぱりこれは罰に他ならねぇな」
「ふふっ。そうですね」
ドタバタと慌ただしいやり取りをしたはずなのに、結果的には穏やかな夜を過ごしている。二人はくっついたまま、各々が満足する時間を過ごした。
……。
……ちなみに、翌朝のこと。
「課長の、歯形とキスマーク。……ふふっ、えへへっ」
洗面所で鏡を見ながら、山吹が喜色満面な様子で笑っていた時だ。
「悪い、付けすぎた。さすがにこれは、痛々しいな」
隣に並んだ桃枝はそう言い、山吹の首筋を撫でる。山吹本人は、それでも笑顔のままだ。
「いいえ、嬉しいですよ。首を絞めた痕とかがあればもっとステキなのですが、それはまた今度ということで」
「お前……。こう言ったらなんだが、どうかしてるな」
「この良さが分からないなんて、もったいないですね。猫に小判ならぬ、課長にキスマークってことですか?」
「そこまで言うかよ……」
シロを汚してしまったことへの罪悪感はあるが、それでも嬉しいものは嬉しい。山吹は痛々しいほど痕まみれの首を鏡で見ながら、ニコニコと笑う。
「──それにしても、こんなにキスマークを付けられちゃったら襟で隠せませんね。ひとつめを付けられた時から気付いていましたが、見せつけるみたいで嬉しいです」
浮かれていたからこそ、山吹は失言に気付かなかった。
途端に、ガシッと。それはそれは強い力で、桃枝が山吹の肩を掴む。
それから桃枝は、まるで怒りを宿しているかのような鋭い目を山吹に向けて……。
「──気付いていたなら言おうか、山吹……ッ!」
「──あっ、うぅっ。だ、だってぇ……っ」
自分が全くノーマークだった【隠れるか否かの位置】に山吹は気付いていたという事実に、桃枝は赤面した。
議論の末に山吹は首を包帯でグルグルに巻かれたのだが……。山吹としては『桃枝が巻いてくれた包帯』と思うと嬉しくて堪らなかったので、あまり反省らしい反省はしなかったとか。
12.5章【ロバにスポンジケーキ】 了
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