438 / 466
13章【雨垂れ石を穿つ】
24 *
しおりを挟むベッドの、軋む音。
二人の、粗い呼吸。
何度も何度も喘ぎながら、山吹は現状を脳裏に焼き付けようとした。
桃枝に、こんなにも愛されている。見つめたら見つめ返され、求めれば求めるほど、応じてくれた。
自分は、自分自身ですらどうしようもないほど、桃枝を愛している。キスをされたらキスを返し、求められれば求められるほど、嬉しくなった。
自分は今、誰かを──桃枝を、愛している。この現実に、山吹は涙が出そうだった。
この【愛】が、正しいのかどうかは分からない。少なくとも山吹の両親からすると、理解に苦しむ関係なのだろう。
それでも、山吹は『間違っている』とは思わない。そう、桃枝が教えてくれたから。
人が人を愛する方法は、千差万別。両親と違っても、周りの誰と違っても、山吹はもう気にしない。
「白菊さん、大好きです。大好き、です、っ」
「あぁ、俺もだ。愛してるぞ、緋花」
想いを伝え合っている間も、桃枝は動きを止めなかった。
どこか、獣のように。桃枝は山吹の体を犯し、互いの快楽を貪る。
桃枝は眉を寄せて、快感に喘ぐ山吹を睨むように見つめた。
「クソッ。腰を、止めてやれねぇ……ッ」
実に、らしくない。桃枝が山吹の身を案じていてもなお、自分の欲望を律することができないなんて。
「あっ、ん! 止めないで、くださいっ。このまま、もっとぉ、っ」
それが嬉しいのだから、山吹だってどうかしている。
強請るように桃枝を許した後、山吹は桃枝の瞳を見つめ返す。それからゆるりと、瞳を細めた。
「もしかして、ガマンの限界ですか、っ? ……ふふっ。なんちゃ──」
「──あぁ、そうだ」
間髪容れずに、桃枝は肯定する。
「お前のナカに出したくて、堪らない……ッ」
心のどこかで、山吹は考えていたのかもしれない。
今晩こうして桃枝が誘ってくれたのは、以前、山吹が泣いてしまったからなのか。……なんて、栓無きことを。
今になってようやく、山吹はその危惧を振り払うことができたらしい。
「お願いだ、緋花」
名前を呼ばれ、手を握られ、瞳を見つめ合ったからこそ。山吹には、伝わったのだから。
「──このままもっと、俺を好きになってくれ」
きゅぅ、と。胸が、締め付けられる。見つめる先に在る桃枝の顔が、真剣そのものだからだ。
山吹は泣いてしまいそうなほど、胸をいっぱいにしてしまう。……それでも、山吹は微笑んだ。
「頼まれなくたって、ボクはそうしますよ。もう、そういう男になっちゃったんですからね」
「緋花……」
「ボクは白菊さんに対して、責任を取ります。だから──と言うのも、変ですけど」
言葉を区切った後、山吹は桃枝にキスをした。
そして、やはり山吹は微笑むのだ。
「──白菊さんも……ボクに責任、取ってください」
ピタリ、と。一度、桃枝が動きを止める。
それは山吹からのキスに驚いたのか、笑顔か、言葉か。山吹には答えが分からない。
しかし、分からなくたって良いのだ。
「言うまでもねぇよ。俺は一生をかけて、お前を大切にするんだからな」
「ふふっ。白菊さんは相変わらずですね? 一生は重たいですよ?」
「足りないくらいだろ」
「変な白菊さん」
言葉を交えて、もう一度キスをして。それから再度、桃枝は山吹の体を揺すり始めた。
「あぅ、白菊さんっ。ボクも、もう……っ」
「そうか。お揃いだな」
「もう、白菊さんの……ばかっ」
気持ちや、プレゼントや、指輪や、未来。桃枝からは大切なものを貰ってばかりだ。
それらが全て、桃枝の幸福にも繋がっていたのだとしたら……。互いの熱を感じながら、山吹は照れ隠しのようにらしくないことを考えた。
27
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる