スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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2章【主体的には動かない、諧謔的なオメガ】

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 矢車は確かに、仕事ができる方ではない。

 しかしその原因は、矢車がオメガだからではない……と、松葉瀬は思っている。

 ――純粋に、矢車の【仕事に対する姿勢】の問題。


(馬鹿共が。アイツは仕事に対して不真面目なだけだっつの。第二の性で決めんなや)


 生産性のない話に耳を傾けるのはやめ、松葉瀬は自分の仕事に戻る。

 キーボードを素早く叩き、数字を打ち込む。


(俺がエリートだって言われてんのも……アルファだからじゃねェんだよ……ッ)


 矢車に対して、松葉瀬は仕事を真剣に取り組んでいた。

 サービス残業を苦とは思わず、自ら進んで行う。自分の手が空いたのなら、進みが遅れている職員の仕事も請け負った。

 ――それらを全て『アルファだから』と片付けられるのは……我慢できない。

 無駄な時間を過ごしたなと思いつつ、松葉瀬は仕事を進める。

 すると突然、予想もしていなかった台詞が飛んできた。


「なら、ベータよりもアルファだよな! ……オイ、松葉瀬~! この書類、頼んでもいいか~?」


 ――思わず、マウスを砕きそうになる。

 松葉瀬はニコリと笑みを貼りつけ、矢車たちが集まっている方を振り返った。


「呼びましたか、係長?」
「おぉ、呼んだ呼んだ! この書類の打ち込みなんだが……」
「構いませんよ。任せてください」


 椅子から立ち上がり、人当たりのいい笑みを浮かべる。

 そのまま係長から書類を受け取り、頭を下げた。

 ――内心では、溢れんばかりの憤りを抱えながら。

 そんな松葉瀬たちのやり取りを、矢車は笑顔で眺めている。


(ナカ出ししたことに対する報復のつもりか、クソが……ッ!)


 とは思っても、松葉瀬は苛立ちを、口にも表情にも出さなかった。





 係長から書類を受け取り、一時間後。

 松葉瀬は事務所に一人で残り、仕事を続けていた。

 着手しているのは勿論、矢車から回ってきた書類の打ち込み業務だ。


(あのクソメスビッチが……ッ! 会議の見学なんざ気にしねェで、足腰立たなくなるまでぶち犯してやればよかった……ッ!)


 一度のナカ出しでは、割に合わない。

 松葉瀬は真剣にそんなことを考えながら、打ち込んだデータと書類を照らし合わせている。

 持っていた書類をめくろうとしたとき。

 するりと、書類が一枚だけ……床に滑り落ちた。


「あぁッ、クソッ!」


 些細なきっかけではあったが、松葉瀬の怒りを爆発させるのには十分すぎる要因だ。

 松葉瀬は椅子に座ったまま、隣のデスクを力の限り蹴りつける。

 ――すると。


「――くふっ、ふふ……っ!」


 背後から、小さな笑い声が聞こえた。




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