スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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8章【意思表示は、可及的速やか且つ自主的に】

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 矢車は見せ付けるように、薬を掲げた。


「ねぇ、センパイ? ボクが今、コレを飲んだら……センパイって、どうなっちゃうんでしょうかねぇ?」
「……は?」
「ボクに、興奮しちゃう? ボクのこと、特別扱いしたくなっちゃうのかなぁ? それとも……?」


 掲げていた薬を、矢車はジッと見つめる。

 ――そして。


「――センパイは、ボクのこと……振れなくなっちゃうのかなぁ?」


 ――パキッ、と、薬を指で押し出し。

 ――矢車は【ヒート促進剤】を、手のひらに転がした。


「お前……ッ!」
「クズだなんだって罵るおつもりですかぁ? ヤダ、センパイったら……ボクがクズヤローだってことは、ずぅっと前から知ってたでしょう?」


 松葉瀬は今まで、人生でただの一度も……オメガのヒートを目の当たりにしたことがない。

 ――もしも、そんなものに中てられたら。

 自分がどうなってしまうのか……松葉瀬には、分からなかった。


「センパイ……世界で一番、大嫌いです」
「待て……ッ!」
「だからセンパイも。……ボクを、嫌いになってください」


 手のひらに踊らせた薬を眺めて、矢車は力無く、微笑む。


「それでも……大事な後輩だって思ってくれるなら、ボクを……助けて、ください……っ」


 そして、ついに。

 ――矢車は、薬を……自らの口に、運んだ。


「――勝手に人の意思無視すんなッ! この、クソガキがッ!」


 ――その動きを。

 ――松葉瀬は全力で、阻止した。


「く、っ!」


 矢車の細い腕を掴み、口元から無理矢理引き剥がす。

 間一髪のところで、矢車が握っていた薬は、床へ転がった。

 松葉瀬は内心安堵するも、矢車は心中穏やかではない。


「な、に……するんですかっ!」
「それはこっちの台詞だボケッ! テメェ、そんなことして恥ずかしくないのかよッ!」
「じゃあ、黙って振られろって言うんですかっ! センパイのこと、諦めろとでも言いたいんですかっ!」


 松葉瀬に掴まれた腕を、矢車は何とかほどこうとする。


「そんなのっ! そん、なの……っ!」


 どれだけ抵抗しても、松葉瀬は矢車の手を放さない。

 諦めたのか、抵抗は無駄だと気付いたのか……矢車が、力を抜いた。


「――イヤ、です……っ。全然、気持ち良く……ない、っ」


 再度。

 矢車が、ポロポロと涙を零す。


「センパイじゃないと、やだ……センパイ以外は、絶対……やだぁ……っ」


 情けなく泣き始めた矢車の手を、松葉瀬はそれでも放さない。

 それどころか。


「……こっち、来い……ッ」


 松葉瀬は無理矢理、矢車の手を引く。

 油断していた矢車は、引かれるがまま、松葉瀬について行った。


「勝手に決めつけんなよ、クソったれ……ッ!」
「センパイ、なに、何で……っ」
「いいから黙ってついて来い、ドアホッ!」


 リビングから移動し、そのまま。

 松葉瀬は寝室へ矢車を連れ込むと。

 逃げ出せないように、矢車をベッドに押し倒した。




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