スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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8章【意思表示は、可及的速やか且つ自主的に】

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 ベッドの上で、もつれ合い。

 松葉瀬と矢車は、お互いを抱き締め合っていた。


「ほんと、センパイってサイテーですね。どうしようもない俺様すぎて、笑えてきます」
「ベソかいてたガキが、よくもまァそんな台詞吐けるな。尊敬モンだ」
「センパイこそ、いい年して恥ずかしくないんですかぁ? そういう俺様キャラが許されるのって、ギリギリ高校生メインの少女漫画ヒーローだけですよぉ? 恥ずかしいなぁ、成人男子ぃ?」
「咬むぞクソガキ」


 矢車の首筋に、松葉瀬は顔を寄せる。

 鼻先を擦りつけられた矢車は、口角を上げた。


「どうぞぉ?」


 矢車の返事を聴いた松葉瀬は、顔を上げる。

 距離を開き、二人は互いの顔を見つめ合った。


「ボクは、センパイの番になりたかった。センパイだけのオメガに、なりたかったんです」
「へェ」
「つれないなぁ? さっきはあんなに情熱的だったのにぃ」


 これ以上離れてしまわないよう、矢車は松葉瀬の首に腕を回す。


「センパイ、お願いします。……オメガであるボクに、意味をください」


 口角を上げて、目を細めている。

 しかし、矢車は。

 ――震えていた。


「センパイとなら、オメガにとって絶望だらけなこの世界も……気持ちいいって、思えるんです。……だから、センパイ。絶望の先にある希望を、見せてください」


 回された腕から、矢車の震えが伝わる。

 虐げられ、最下層の生き物に見られ、ただただ浪費されるオメガ。

 生き恥を晒し続け、無様な姿を晒すことしかできない矢車でも……世界に、希望を見出したかった。

 その相手に選ばれたのは……皮肉なことに、松葉瀬だ。

 誰よりも第二の性を嫌い、誰よりも己のアルファ性を呪った男。

 そんな松葉瀬だからこそ、矢車は……絶望の先にある希望を、見つけられたのかもしれない。


「……テメェの方こそ、気色悪いんだよ。なにが『絶望の先にある希望』だ。詩人気取りかっての」
「そんなボクのことが好きなくせにぃ」
「笑えねェ冗談言ってるんじゃねェぞ、クソビッチ」


 逼迫した状況の中で、二択を迫られると……人は、どちらかを絶対に選ばなくてはいけない気になるらしい。

 そんなことを今更思い出したって、松葉瀬にとってはどうでもよかった。


「……目、閉じろ」
「咬んでくれるんですかぁ? 嬉しいなぁ」
「アホが。そうじゃねェ」


 頬に手を添えて、松葉瀬は口角を上げる。


「テメェの大好きなキスでもしてやろうかって気になったんだよ。されてェなら、ありがたく目を閉じとけ」


 一瞬だけ、矢車は目を丸くした。

 しかし、すぐに。


「ほんっと……センパイって、カッコ悪ぅい」


 矢車は目を閉じた。




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