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第十二章 空き巣に入られる
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いくら海外経験があっても、僕はまだまだ世間知らずの甲斐性なしです。
あの時僕がもう少し危機感を持っていたならあんなことにはならなかった……
今でもそう思います。
海外で引っ越しするのが大変だというのは先述した通りです。
特に、まだ行ったこともない土地へ引っ越す時は、どの地区の治安が悪いかなど知る由もなく、なぜか安い物件を選ぶと決まって治安の悪いところになってしまうのです。
いや、もしそういったことを知っていたとしても、エジンバラの物価はウィーンよりもだいぶ高かったので、あの地区に住むほかありませんでした。
エジンバラでの僕のフラットメイトは気のいい黒人でした。
自慢はバッシュコレクションと薄型テレビ。
ずぼらな僕はきれい好きな彼に、
「キッチンが汚い」とか
「お風呂をもう少しきれいに使えないか」とか、色々と注意を受けました。
しかし物腰が低いので嫌な気分にはならず、むしろ「改善しなくては」という気にさせてくれました。
同じくオーストリアから来た僕の留学仲間の部屋が小さかったり、フラットメイトと上手くいっていなかったりする中、多少の不便はありましたが、僕にしてはずいぶん恵まれたところに引っ越せたと思っていました。
唯一気になっていたのは、毎日毎日違う人が家に出入りしていたことです。
フラットメイトの部屋でテレビを観ていることもあれば、一緒に食事をしていることもある。
「俺の国の文化なんだよ」とフラットメイトが言うので、僕はそれをうのみにしていました。
しかし、その安易な考えが命取りになったのでした。
ある夜、僕がクラブから戻ると、家のドアが蹴り破られていました。
恐るおそる中に入ると、部屋の中が荒らされています。
机やいすは倒れ、タンスの中もベッドの上もめちゃくちゃ、僕はしばらく呆気に取られていました。
そして、机の上にあったノートパソコンが消えていることにようやく気づき、それが空き巣の仕業だと理解したのです。
さっきまで一緒に踊っていた友だちに電話しても優しい言葉をかけてくれるだけ。
僕ももう疲れ切っていたので、これ以上もう何もないことを願いながら、ドアも閉まらない荒らされた家の中で眠りました。
次の朝(というより昼)、なくなったモノを確認します。
パソコン、電子カメラ、電子辞書、USBスティック……
つまり、留学中に撮った写真やそれまで大学で書いてきたレポート類がすべて盗まれてしまったのです。
放心状態のところに昨夜はいなかったフラットメイトが現れ、薄型テレビやシューズのコレクションが一切合切なくなっていたので、ともに「犯人を許さない!」と怒り意気込んでいました。
そのあとすぐに家主も来て、「ドアも即日修理してもらうから」と慰めてくれました。
しかし次の日、事態はさらに急変します。
僕が大学から帰ると、新しくなったドアが、さらに蹴り破られていたのです。
フラットメイトに電話しても出なかったので、大家にかけると、「今から向かう」の一言。
電話を切った瞬間、ドアベルがなったのには驚きました。
壊れたドアを開けると、そこにはフラットメイトの彼女が立っていました。
僕が、フラットメイトはいないよと伝えると、
「彼は捕まってしまったわ!
刑務所でも服とかは持ち込み可能だっていうから……」
と言って、彼の部屋のタンスを開けて荷造りを始めました。
そこへ、取り替えたばかりのドアが壊れているのに憤慨しながら大家が入ってきました。
そして、僕ではなく彼女に、何事かと問い詰めます。
「……彼は売人だったのよ、クスリのね。
空き巣も彼に恨みがあるヤツがやったのよ、その証拠にバッシュだって全部なくなっている。
警察は、今回のことを調べているうちに、彼の裏の職のことにも気づいたのね」
淡々と白状する彼女の話を僕は黙って聞いていました。
フラットメイトはずっと嘘をついていたのです。
シューズのコレクションはクスリを隠すため、そして代わるがわる家に来ていたのは、そのクスリを買い求めに来た客で、僕の物が盗まれたのも、全部ヤツのせいだった……
それから捜査官が来て部屋の指紋などを摂っていきましたが、結局犯人は捕まりませんでした。
そして、犯人の反感を買ったフラットメイトも今や豚箱の中。
しかし泣いてもいられません。
それまで書いていたレポートも、次の週に控えていたプレゼンも、またイチから作らなければいけないのです。
そして、そのすべてにパソコンが必要です。
悔しさと情けなさで気が狂いそうになりながら、僕はなけなしのお金で、コンセントが日本仕様でもヨーロッパ仕様でもない、パソコンを購入したのでした。
あの時僕がもう少し危機感を持っていたならあんなことにはならなかった……
今でもそう思います。
海外で引っ越しするのが大変だというのは先述した通りです。
特に、まだ行ったこともない土地へ引っ越す時は、どの地区の治安が悪いかなど知る由もなく、なぜか安い物件を選ぶと決まって治安の悪いところになってしまうのです。
いや、もしそういったことを知っていたとしても、エジンバラの物価はウィーンよりもだいぶ高かったので、あの地区に住むほかありませんでした。
エジンバラでの僕のフラットメイトは気のいい黒人でした。
自慢はバッシュコレクションと薄型テレビ。
ずぼらな僕はきれい好きな彼に、
「キッチンが汚い」とか
「お風呂をもう少しきれいに使えないか」とか、色々と注意を受けました。
しかし物腰が低いので嫌な気分にはならず、むしろ「改善しなくては」という気にさせてくれました。
同じくオーストリアから来た僕の留学仲間の部屋が小さかったり、フラットメイトと上手くいっていなかったりする中、多少の不便はありましたが、僕にしてはずいぶん恵まれたところに引っ越せたと思っていました。
唯一気になっていたのは、毎日毎日違う人が家に出入りしていたことです。
フラットメイトの部屋でテレビを観ていることもあれば、一緒に食事をしていることもある。
「俺の国の文化なんだよ」とフラットメイトが言うので、僕はそれをうのみにしていました。
しかし、その安易な考えが命取りになったのでした。
ある夜、僕がクラブから戻ると、家のドアが蹴り破られていました。
恐るおそる中に入ると、部屋の中が荒らされています。
机やいすは倒れ、タンスの中もベッドの上もめちゃくちゃ、僕はしばらく呆気に取られていました。
そして、机の上にあったノートパソコンが消えていることにようやく気づき、それが空き巣の仕業だと理解したのです。
さっきまで一緒に踊っていた友だちに電話しても優しい言葉をかけてくれるだけ。
僕ももう疲れ切っていたので、これ以上もう何もないことを願いながら、ドアも閉まらない荒らされた家の中で眠りました。
次の朝(というより昼)、なくなったモノを確認します。
パソコン、電子カメラ、電子辞書、USBスティック……
つまり、留学中に撮った写真やそれまで大学で書いてきたレポート類がすべて盗まれてしまったのです。
放心状態のところに昨夜はいなかったフラットメイトが現れ、薄型テレビやシューズのコレクションが一切合切なくなっていたので、ともに「犯人を許さない!」と怒り意気込んでいました。
そのあとすぐに家主も来て、「ドアも即日修理してもらうから」と慰めてくれました。
しかし次の日、事態はさらに急変します。
僕が大学から帰ると、新しくなったドアが、さらに蹴り破られていたのです。
フラットメイトに電話しても出なかったので、大家にかけると、「今から向かう」の一言。
電話を切った瞬間、ドアベルがなったのには驚きました。
壊れたドアを開けると、そこにはフラットメイトの彼女が立っていました。
僕が、フラットメイトはいないよと伝えると、
「彼は捕まってしまったわ!
刑務所でも服とかは持ち込み可能だっていうから……」
と言って、彼の部屋のタンスを開けて荷造りを始めました。
そこへ、取り替えたばかりのドアが壊れているのに憤慨しながら大家が入ってきました。
そして、僕ではなく彼女に、何事かと問い詰めます。
「……彼は売人だったのよ、クスリのね。
空き巣も彼に恨みがあるヤツがやったのよ、その証拠にバッシュだって全部なくなっている。
警察は、今回のことを調べているうちに、彼の裏の職のことにも気づいたのね」
淡々と白状する彼女の話を僕は黙って聞いていました。
フラットメイトはずっと嘘をついていたのです。
シューズのコレクションはクスリを隠すため、そして代わるがわる家に来ていたのは、そのクスリを買い求めに来た客で、僕の物が盗まれたのも、全部ヤツのせいだった……
それから捜査官が来て部屋の指紋などを摂っていきましたが、結局犯人は捕まりませんでした。
そして、犯人の反感を買ったフラットメイトも今や豚箱の中。
しかし泣いてもいられません。
それまで書いていたレポートも、次の週に控えていたプレゼンも、またイチから作らなければいけないのです。
そして、そのすべてにパソコンが必要です。
悔しさと情けなさで気が狂いそうになりながら、僕はなけなしのお金で、コンセントが日本仕様でもヨーロッパ仕様でもない、パソコンを購入したのでした。
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