眠そうな令嬢は最強です。

あさり

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夜のゼルベリア。

アレクシス直属の騎士団には猛反対をされたが、レティシアの圧倒的な実力で説き伏せ、2人は密偵に扮し、旧魔術研究所跡地に足を踏み入れていた。

その中心、崩れかけた礼拝堂の奥に――彼はいた。

深紅の魔術衣、黒髪に金糸の飾り。
長身で、指の動きすらどこか色気をまとっているその男は、優雅に振り返った。


「やあ――ようこそ、最愛の弟子。それに、お供の王子殿下」

「……セドリック・ヴァイス」

レティシアの声が震える。
それは怒りでも、憎しみでもない。もっと深い、呪いに近い感情だった。

「お前は私の力を封じ、裏切り、私を“兵器”として売った」

セドリックは笑う。

「うん、あの頃の君は――本当に美しかった。
力に怯え、誰にも心を許せず、それでも私だけを信じていた」

「黙れ」

レティシアが魔力を放つと、空気が震えた。

だが、セドリックは一歩も動かず、優雅に指を鳴らす。

「でもね、レティシア。君の力は本当に特別だった。
だから私は、君を解放する代わりに、君の“可能性”をこの世に遺す選択をした。それだけだ」

「遺す、だと? 私の心も命も踏みにじって、“研究材料”にしたくせに……!」

「それでも――君は今もこうして、私に会いに来てくれた」

その笑みは、狂気と陶酔が入り混じったものだった。

アレクシスが前に出る。

「貴様がどれほど甘言を並べようと、君がしたことは“裏切り”だ。それ以上でも以下でもない」

「君は知らないでしょう、王子さま。
この子がどれほど“力を欲しがっていた”か。どれだけ、世界に絶望していたか」

「……!」

レティシアの目が揺れる。

「だから私は教えてあげたんだ。力の使い方を。
――そして、どんなに最強でも“独りじゃ意味がない”ってことを」

「その結果が、私を裏切ったことか!」

「そう。君は“私を乗り越えられた”。それが嬉しいのさ。……私は君が最強でいてくれる限り、存在意義を感じられる」

その言葉は、異常で、しかしどこか哀しかった。

レティシアは息を吐き、魔力を静かに収束させた。

「セドリック。……もう私は、あなたの定義で生きていない」

「ふふ……本当に、綺麗になったね、レティシア。
なら――“本気の君”を見せてごらん。私を超えてみなよ」

セドリックの指先に、禍々しい魔術の光が灯る。

「“最強の弟子”と“最悪の師匠”。……愛しき終幕を始めようか」


魔力がぶつかり合い、礼拝堂全体がきしむ。
横ではアレクシスが剣を構え、レティシアの背を守る。

最強と最悪の邂逅――幕は上がった。
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