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番外編~日常小噺~
【成人玩具】
「……つまんねぇなぁ」
ある日、朱理の自室にて。ぷかりと紫煙を吐いて仰向けに寝転んだまま、朱理は呟いた。
「どうしたの、突然」
端末から視線を上げずに陸奥が答える。朱理は首だけ陸奥へ向けた。
「退屈なんだよ」
「お前、いっつもそれだね。さっきまで楽しそうにゲームしてたくせに。ボイスチャットだっけ? 睡眠時間削ってまで延々、喋ってたじゃないの」
「飽きた。そもそもガキが多過ぎるんだよ、あのゲーム。疲れる」
ふう、と嘆息して陸奥は端末を置き、呆れた顔をした。
「相変わらず極端だね。じゃ、辞めるの?」
「辞めるってか、隠居かなー。そのままフェードアウトコースだわ」
無気力に仰向けのまま天井を見つめている朱理に、上から覆い被さる。そのままゆっくりと顔を近づけてみるが、朱理が避ける気配は無い。唇が触れる寸前の所で、陸奥は動きを止めた。しばらく互いに無言でいたが、やがて朱理が抑揚の無い声音で問うた。
「なんだよ」
「んー、避けないのかなって」
「避けて欲しいのか?」
「そうじゃないけどさ」
「何がしてぇんだよ、お前」
「さぁ……何だろうね」
陸奥は微かに笑って、ようやく口付けを落とした。啄むように触れ合わせるだけのそれを繰り返す。そのうち陸奥の首に朱理の腕が回され、より深いものに変わった。
「ふ……ぁ、は……っ」
「朱理……どうしたの、お前」
「……何がだよ」
「拒まないどころか自分から来るなんて、珍しいじゃない」
「拒んで欲しいのか?」
「……拒まれたくないよ、いつだってね……」
平坦な声音の奥に切望を孕んだ陸奥の言葉に、朱理は含むように笑った。
「だったら、ごちゃごちゃ言ってねぇで早くしろよ。俺の気が変わらないうちにさ」
「お前……」
陸奥は言葉の続きを呑み込んだ。代わりに溜め息を吐くと深く唇を重ね、着物の裾から手を差し入れる。快楽を期待した朱理の双眸がゆっくりと弧を描いていくのを見届け、陸奥も強く目を閉じた。
甘く震える吐息を聞きながら、呑んだ言葉の続きをひっそり思う。
──お前はいつもそうやって、何にでもすぐ飽きる。
退屈の隙間を埋めるため、手頃な刺激を求めて俺を呼ぶ。解っている。俺もお前の玩具でしかない事も。そうしてしまったのは、自分の所為だという事も。
近頃、お前がゲームに夢中になって、その没頭ぶりに呆れたあの人と疎遠になっている。おかげで一緒に居られて、たまに身体を繋ぐ事も出来るのだ。
でも、これも一時の事だ。またすぐお前は違う物に夢中になる。そして幾度、喧嘩しようと疎遠になろうと、最後には必ずあの人の元へ戻っていく。
弄ばれているのだ、自分も。彼が数時間前まで翻弄していた、ネット世界の住人達と同じように──
朱理という男は筋金入りの人誑しだ。仕事においては勿論、その悪癖は電波をも伝い、年齢も性別もあっさり超える。朱理はどこに行っても何をしても、良くも悪くも目立ってしまう。
没頭していたゲームから手を引いたのは、単に飽きたからと言う理由だけでは無い事を、陸奥は知っていた。
ゲームの特性上、ボイスチャットが盛んで、朱理はほぼ1日中、誰かしらと通話やらDMの遣り取りをしていた。そんな中の数人が、顔も見た事の無い朱理に本気で熱を上げていたのだ。
職業柄、身バレは御法度であるため、のらりくらりと躱していた朱理だったが、それでも執拗な相手が数人居た事は、隣で聞いていた陸奥には筒抜けだ。それら全てが面倒になったのだと、容易に想像がついた。今やソーシャルゲームでプレイヤー同士の交流が無い物は少ない。朱理は様々なゲームで多くのプレイヤーと関わりを持ち、面倒になるとあっさり辞めてしまう。幾度も見てきた光景だった。
「……もう辞めなよ、ソシャゲ」
「だから辞めたろ。お前まで小言とか勘弁しろよ」
情事後、ベッドの上で煙草を燻らせながら、そんな話をする。
「そうじゃなくてさ。買い切りとか、ソロゲーにしときなって話。欲しいのがあれば買ってあげるから」
「あー……まぁ、しばらくやんねーよ。いい加減にしないと、いよいよあの人がブチ切れかねないし」
「……もう仲直り出来そうなの?」
朱理は乱れた髪をかき上げ、煙草を咥えたまま「当然だろ」と笑った。
都合良く使われるのには、もう慣れた。元々、厭でもなかった。しかし、故意に人を利用する姿にはまだ慣れないな、と陸奥は思った。
無邪気に人を踏み躙るのは今に始まった事ではないが、あくまで本人は無意識だった。それはそれで酷くタチが悪いのだが、憎みきれない愛嬌があった。
だが陸奥が囲いこんだ後から、少し変わってしまった。良く言えば大人になったのか、利用出来る物は躊躇わずに利用する事を覚えたらしい。
さながら、今の朱理を創ったのは自分とあの人かと思うと、なんとも複雑な気分になった。鬱々とした思考を振り切るように、陸奥は朱理の背に覆い被さる。
「ねぇ朱理、もういっかいしよ」
「はあー? 出たな、性欲おばけ。ま、あと1回だけなら付き合ってやるよ」
朱理は悪戯っ子の笑みで、わしゃわしゃと陸奥の頭を撫でる。優しい齟齬と、柔らかな軋轢だけが、2人を結ぶ絆だった。
終
ある日、朱理の自室にて。ぷかりと紫煙を吐いて仰向けに寝転んだまま、朱理は呟いた。
「どうしたの、突然」
端末から視線を上げずに陸奥が答える。朱理は首だけ陸奥へ向けた。
「退屈なんだよ」
「お前、いっつもそれだね。さっきまで楽しそうにゲームしてたくせに。ボイスチャットだっけ? 睡眠時間削ってまで延々、喋ってたじゃないの」
「飽きた。そもそもガキが多過ぎるんだよ、あのゲーム。疲れる」
ふう、と嘆息して陸奥は端末を置き、呆れた顔をした。
「相変わらず極端だね。じゃ、辞めるの?」
「辞めるってか、隠居かなー。そのままフェードアウトコースだわ」
無気力に仰向けのまま天井を見つめている朱理に、上から覆い被さる。そのままゆっくりと顔を近づけてみるが、朱理が避ける気配は無い。唇が触れる寸前の所で、陸奥は動きを止めた。しばらく互いに無言でいたが、やがて朱理が抑揚の無い声音で問うた。
「なんだよ」
「んー、避けないのかなって」
「避けて欲しいのか?」
「そうじゃないけどさ」
「何がしてぇんだよ、お前」
「さぁ……何だろうね」
陸奥は微かに笑って、ようやく口付けを落とした。啄むように触れ合わせるだけのそれを繰り返す。そのうち陸奥の首に朱理の腕が回され、より深いものに変わった。
「ふ……ぁ、は……っ」
「朱理……どうしたの、お前」
「……何がだよ」
「拒まないどころか自分から来るなんて、珍しいじゃない」
「拒んで欲しいのか?」
「……拒まれたくないよ、いつだってね……」
平坦な声音の奥に切望を孕んだ陸奥の言葉に、朱理は含むように笑った。
「だったら、ごちゃごちゃ言ってねぇで早くしろよ。俺の気が変わらないうちにさ」
「お前……」
陸奥は言葉の続きを呑み込んだ。代わりに溜め息を吐くと深く唇を重ね、着物の裾から手を差し入れる。快楽を期待した朱理の双眸がゆっくりと弧を描いていくのを見届け、陸奥も強く目を閉じた。
甘く震える吐息を聞きながら、呑んだ言葉の続きをひっそり思う。
──お前はいつもそうやって、何にでもすぐ飽きる。
退屈の隙間を埋めるため、手頃な刺激を求めて俺を呼ぶ。解っている。俺もお前の玩具でしかない事も。そうしてしまったのは、自分の所為だという事も。
近頃、お前がゲームに夢中になって、その没頭ぶりに呆れたあの人と疎遠になっている。おかげで一緒に居られて、たまに身体を繋ぐ事も出来るのだ。
でも、これも一時の事だ。またすぐお前は違う物に夢中になる。そして幾度、喧嘩しようと疎遠になろうと、最後には必ずあの人の元へ戻っていく。
弄ばれているのだ、自分も。彼が数時間前まで翻弄していた、ネット世界の住人達と同じように──
朱理という男は筋金入りの人誑しだ。仕事においては勿論、その悪癖は電波をも伝い、年齢も性別もあっさり超える。朱理はどこに行っても何をしても、良くも悪くも目立ってしまう。
没頭していたゲームから手を引いたのは、単に飽きたからと言う理由だけでは無い事を、陸奥は知っていた。
ゲームの特性上、ボイスチャットが盛んで、朱理はほぼ1日中、誰かしらと通話やらDMの遣り取りをしていた。そんな中の数人が、顔も見た事の無い朱理に本気で熱を上げていたのだ。
職業柄、身バレは御法度であるため、のらりくらりと躱していた朱理だったが、それでも執拗な相手が数人居た事は、隣で聞いていた陸奥には筒抜けだ。それら全てが面倒になったのだと、容易に想像がついた。今やソーシャルゲームでプレイヤー同士の交流が無い物は少ない。朱理は様々なゲームで多くのプレイヤーと関わりを持ち、面倒になるとあっさり辞めてしまう。幾度も見てきた光景だった。
「……もう辞めなよ、ソシャゲ」
「だから辞めたろ。お前まで小言とか勘弁しろよ」
情事後、ベッドの上で煙草を燻らせながら、そんな話をする。
「そうじゃなくてさ。買い切りとか、ソロゲーにしときなって話。欲しいのがあれば買ってあげるから」
「あー……まぁ、しばらくやんねーよ。いい加減にしないと、いよいよあの人がブチ切れかねないし」
「……もう仲直り出来そうなの?」
朱理は乱れた髪をかき上げ、煙草を咥えたまま「当然だろ」と笑った。
都合良く使われるのには、もう慣れた。元々、厭でもなかった。しかし、故意に人を利用する姿にはまだ慣れないな、と陸奥は思った。
無邪気に人を踏み躙るのは今に始まった事ではないが、あくまで本人は無意識だった。それはそれで酷くタチが悪いのだが、憎みきれない愛嬌があった。
だが陸奥が囲いこんだ後から、少し変わってしまった。良く言えば大人になったのか、利用出来る物は躊躇わずに利用する事を覚えたらしい。
さながら、今の朱理を創ったのは自分とあの人かと思うと、なんとも複雑な気分になった。鬱々とした思考を振り切るように、陸奥は朱理の背に覆い被さる。
「ねぇ朱理、もういっかいしよ」
「はあー? 出たな、性欲おばけ。ま、あと1回だけなら付き合ってやるよ」
朱理は悪戯っ子の笑みで、わしゃわしゃと陸奥の頭を撫でる。優しい齟齬と、柔らかな軋轢だけが、2人を結ぶ絆だった。
終
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