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番外編~迷作文学~
【白雪姫⠀4】
さて、面白くないのは王妃の魔法の鏡である。
「ぐぬぬ……アイツら、めちゃくちゃ楽しそうに暮らしやがって、羨ましい! 俺なんて、いっつも偉そうな王妃のご機嫌うかがいばっかだし、そもそも鏡から出られないし! 俺だって朱理姫と同衾してみたいわ、ちくしょうめ!」
「おい、聞こえてるぞ」
「く、黒蔓様ッ!? いつからそこに……」
「ずっと居たわ。ここ俺の部屋だぞ」
「あー……いやぁー、今のはほんの冗談でして……ハハハ……」
「お前を叩き割るのは後にしてやるから、どういうことか詳細に説明しろ。朱理と同衾って、一体なんの話だ?」
「……その……これをご覧いただければ、一目瞭然かと……」
そう言って、魔法の鏡はエルフの館を映し出して見せた。そこには美男に囲まれて楽しそうに飲み、食い、歌い踊る白雪姫の姿がある。
しばらく黙ってそれを眺めていた王妃は、紫煙と共に深い溜め息をついて踵を返した。
「あ、あの、黒蔓様……? どちらへ行かれるのです?」
「散歩ついでに、エルフ殲滅してくる」
「ちょちょちょ、待って下さい! 駄目ですって! 彼らは聖域の番人ですよ!? そんなことしたら、国が滅びます!」
「知るか。あいつら、気安く俺の朱理にべたべた触りやがって、絶対許さねぇ。一族郎党、皆殺しだ」
「いけませんってば! 聖域の力が失われれば、貴方の魔力も尽きるんですよ!? そんなに朱理姫が大事なら、いっそ素直に謝って、連れ戻せば良いじゃないですか!」
「謝る? 今さら? 無い無い、その選択肢だけは無い。どの面下げて会えってんだ、馬鹿か」
「もー……ホント自尊心山の如しなんだから、この人は……。とにかく、殲滅は駄目ですからね! もっと穏便に済ませる方法を模索して下さい!」
「穏便に、なぁ……」
ふう、と悩ましげに紫煙を吐くと、王妃は肘をついていた豪奢な椅子から立ち上がった。
「じゃ、朱理だけ殺してくる。そもそも、肝心なことを人任せにしたのが間違いだったよな。やっぱ自分でやるのが確実だわ」
「ええ……? 貴方……朱理姫が大事なんですよね? 〝俺の〟とか言っちゃうくらいには、愛してるんですよね?」
「おう、愛してるが?」
「だったら何故、せっかく生きてるのに殺すって選択肢が出るんですか……。本当に思考回路が読めないんだよなぁ……」
「はー? お前がアイツ殺さなきゃ話が進まねぇっつーからこうなってんだろうが。俺だって殺したくねぇけど、仕方なく筋にそってやってんだよ」
うんざりと鏡に答えながら、王妃は鍋に謎の薬や材料を入れ、禍々しい色になった液体へ林檎を浸している。
「……仕方なく、と言うわりには、調合する手際が淀み無さすぎる気がしますけどね……。もう出来あがってるじゃないですか、毒林檎……」
「いつも作ってるからな。こんなの慣れだ、慣れ」
「毒林檎を家庭料理みたいに!」
「アイツ、林檎好きだから間違いなく食うだろうが、念のため変装していくか……」
そんなこんなで、毒林檎を携えた王妃は黒いマントに身を包み、よぼよぼの老人……ではなく、ガテン系の細マッチョイケメンに変身した。
「なぜ!?」
「どーよ。朱理の好み、ど真ん中だろ」
「いやいやいや! ここは腰の曲がったおばあさん、もしくはおじいさんがセオリーでしょうが!」
「嫌だね。どうせ変身するなら、若くて良い男に限る」
「はぁ……もう失敗フラグしか立ってない……」
「最近のフラグは、へし折る物らしいぞ。じゃ、行ってくる」
そうして、王妃は意気揚々と城を後にしたのだった。
一方その頃。聖域では、白雪姫が出かけるエルフたちを見送っていた。
「良いか? 誰が来ても、絶対にドアを開けるんじゃないぞ。俺らは自分で開けられるからな」
「なに言われても開けんなよ。最近の輩は、平気でチェーンぶち切るからな」
「念のために、返事もしないほうが良いね」
「今日はどうしても全員で出かけなあかんからな。間ァ悪いわー」
「本当に気を付けてねぇ。王妃が嗅ぎつけて来る可能性、超高いんだからぁ」
「分かってるよ。すごい心配性だな、みんな」
「相手が相手なだけに、このくらいの心配は当然だ」
「むしろ足らへんくらいやわぁ……。どないか1人でも残れればええんやけどなぁ……」
「いやいや、大丈夫だから! 俺もかなりいい歳だし、留守番くらいちゃんとできるから安心して。気をつけて行ってきてね」
「ああ……それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
心配そうに振り返りつつ出かけて行ったエルフを見届け、白雪姫は深く嘆息する。
「はぁ……過保護がヤバいな。どっと疲れた……」
やれやれとソファに寝転び、人生初となる完全に1人きりの時間というものを噛みしめていた。
「落ち着くー。誰の目も無いって、こんなに開放的な気分だったんだな。クセになりそう……。城では常に使用人が居たし、ここでも誰かしらと一緒だったからな」
荘紫、冠次、一茶、景虎の4人は昼間、薪割りや森の見回り、町の様子見などの外仕事。
伊まり、香づき、けい菲、つゆ李は館の掃除や炊事、団欒などをして過ごしている。
夜は外仕事組の誰かと同衾するため、1人きりになるのは今日が初めてなのである。
と言うのも、白雪姫を匿う条件として提示されたのが〝カラダ払い〟だったからだ。屋敷内の手伝いと言えば掃除や洗濯だが、城でなんの不自由も無く育った白雪姫に家事など出来るはずもなく。昼間は伊まり達の話し相手、夜は荘紫達の慰安をつとめるのは、大人の事情としては自然な成り行きだった。
「ぐぬぬ……アイツら、めちゃくちゃ楽しそうに暮らしやがって、羨ましい! 俺なんて、いっつも偉そうな王妃のご機嫌うかがいばっかだし、そもそも鏡から出られないし! 俺だって朱理姫と同衾してみたいわ、ちくしょうめ!」
「おい、聞こえてるぞ」
「く、黒蔓様ッ!? いつからそこに……」
「ずっと居たわ。ここ俺の部屋だぞ」
「あー……いやぁー、今のはほんの冗談でして……ハハハ……」
「お前を叩き割るのは後にしてやるから、どういうことか詳細に説明しろ。朱理と同衾って、一体なんの話だ?」
「……その……これをご覧いただければ、一目瞭然かと……」
そう言って、魔法の鏡はエルフの館を映し出して見せた。そこには美男に囲まれて楽しそうに飲み、食い、歌い踊る白雪姫の姿がある。
しばらく黙ってそれを眺めていた王妃は、紫煙と共に深い溜め息をついて踵を返した。
「あ、あの、黒蔓様……? どちらへ行かれるのです?」
「散歩ついでに、エルフ殲滅してくる」
「ちょちょちょ、待って下さい! 駄目ですって! 彼らは聖域の番人ですよ!? そんなことしたら、国が滅びます!」
「知るか。あいつら、気安く俺の朱理にべたべた触りやがって、絶対許さねぇ。一族郎党、皆殺しだ」
「いけませんってば! 聖域の力が失われれば、貴方の魔力も尽きるんですよ!? そんなに朱理姫が大事なら、いっそ素直に謝って、連れ戻せば良いじゃないですか!」
「謝る? 今さら? 無い無い、その選択肢だけは無い。どの面下げて会えってんだ、馬鹿か」
「もー……ホント自尊心山の如しなんだから、この人は……。とにかく、殲滅は駄目ですからね! もっと穏便に済ませる方法を模索して下さい!」
「穏便に、なぁ……」
ふう、と悩ましげに紫煙を吐くと、王妃は肘をついていた豪奢な椅子から立ち上がった。
「じゃ、朱理だけ殺してくる。そもそも、肝心なことを人任せにしたのが間違いだったよな。やっぱ自分でやるのが確実だわ」
「ええ……? 貴方……朱理姫が大事なんですよね? 〝俺の〟とか言っちゃうくらいには、愛してるんですよね?」
「おう、愛してるが?」
「だったら何故、せっかく生きてるのに殺すって選択肢が出るんですか……。本当に思考回路が読めないんだよなぁ……」
「はー? お前がアイツ殺さなきゃ話が進まねぇっつーからこうなってんだろうが。俺だって殺したくねぇけど、仕方なく筋にそってやってんだよ」
うんざりと鏡に答えながら、王妃は鍋に謎の薬や材料を入れ、禍々しい色になった液体へ林檎を浸している。
「……仕方なく、と言うわりには、調合する手際が淀み無さすぎる気がしますけどね……。もう出来あがってるじゃないですか、毒林檎……」
「いつも作ってるからな。こんなの慣れだ、慣れ」
「毒林檎を家庭料理みたいに!」
「アイツ、林檎好きだから間違いなく食うだろうが、念のため変装していくか……」
そんなこんなで、毒林檎を携えた王妃は黒いマントに身を包み、よぼよぼの老人……ではなく、ガテン系の細マッチョイケメンに変身した。
「なぜ!?」
「どーよ。朱理の好み、ど真ん中だろ」
「いやいやいや! ここは腰の曲がったおばあさん、もしくはおじいさんがセオリーでしょうが!」
「嫌だね。どうせ変身するなら、若くて良い男に限る」
「はぁ……もう失敗フラグしか立ってない……」
「最近のフラグは、へし折る物らしいぞ。じゃ、行ってくる」
そうして、王妃は意気揚々と城を後にしたのだった。
一方その頃。聖域では、白雪姫が出かけるエルフたちを見送っていた。
「良いか? 誰が来ても、絶対にドアを開けるんじゃないぞ。俺らは自分で開けられるからな」
「なに言われても開けんなよ。最近の輩は、平気でチェーンぶち切るからな」
「念のために、返事もしないほうが良いね」
「今日はどうしても全員で出かけなあかんからな。間ァ悪いわー」
「本当に気を付けてねぇ。王妃が嗅ぎつけて来る可能性、超高いんだからぁ」
「分かってるよ。すごい心配性だな、みんな」
「相手が相手なだけに、このくらいの心配は当然だ」
「むしろ足らへんくらいやわぁ……。どないか1人でも残れればええんやけどなぁ……」
「いやいや、大丈夫だから! 俺もかなりいい歳だし、留守番くらいちゃんとできるから安心して。気をつけて行ってきてね」
「ああ……それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
心配そうに振り返りつつ出かけて行ったエルフを見届け、白雪姫は深く嘆息する。
「はぁ……過保護がヤバいな。どっと疲れた……」
やれやれとソファに寝転び、人生初となる完全に1人きりの時間というものを噛みしめていた。
「落ち着くー。誰の目も無いって、こんなに開放的な気分だったんだな。クセになりそう……。城では常に使用人が居たし、ここでも誰かしらと一緒だったからな」
荘紫、冠次、一茶、景虎の4人は昼間、薪割りや森の見回り、町の様子見などの外仕事。
伊まり、香づき、けい菲、つゆ李は館の掃除や炊事、団欒などをして過ごしている。
夜は外仕事組の誰かと同衾するため、1人きりになるのは今日が初めてなのである。
と言うのも、白雪姫を匿う条件として提示されたのが〝カラダ払い〟だったからだ。屋敷内の手伝いと言えば掃除や洗濯だが、城でなんの不自由も無く育った白雪姫に家事など出来るはずもなく。昼間は伊まり達の話し相手、夜は荘紫達の慰安をつとめるのは、大人の事情としては自然な成り行きだった。
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