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番外編~迷作文学~
【ラプンツェル⠀2】
ある日。いつものように歌を歌っていると、下からなんとも優しい声に呼びかけられました。ラプンツェルが髪を垂らして部屋へ招き入れると、それはそれは美しく逞しい青年でした。
「やあ、お招き有難う。歌っていたのはキミかい?」
「……うん、そうだよ」
「美しい声だと思ったら、姿も美しいから驚いたよ。こんな塔の上で何をしてるの?」
ラプンツェルは穏やかな笑顔で問うて来る青年に見惚れつつ、毎回同じようにされる質問に、また同じように答えていました。頭の隅では、この人ももうすぐ他の男たちのように手を出して来るのだろう、と思いながらベッドへ腰掛けます。
しかし青年は近くへ来ようとはせず、あれやこれやと尋ねてくるばかり。
「キミ、名前はなんて言うの? 俺は棕櫚」
「……朱理。でも、ラプンツェルって呼ばれることのほうが多い……」
「素敵な名だね。俺は朱理って呼ばせてもらうよ。良いかな?」
「うん……」
「いつもここに1人でいるの?」
「夜に魔法使いが来るくらいで、昼間はほとんど1人だよ」
「寂しくない?」
「さあ……よく分からない」
「そっかぁ。じゃあ、俺と友達になってよ」
「ともだち……? それはなに?」
「こうして会って話したり、一緒に遊んだりする相手ってことだよ」
ラプンツェルは初めて聞く言葉に首をかしげ、さらにそんな申し出をする棕櫚にも驚いていました。
「友達になって、また会って欲しいんだ。駄目かな?」
「……ううん、駄目じゃない。俺も……また会いたい」
「良かった! じゃあ今日はそろそろ失礼するよ。突然お邪魔してごめんね」
「え……あ、いや……分かった。この髪を伝って降りると良い」
「有難う。またすぐ来るよ、朱理」
「うん……」
人好きのする笑みを残して、棕櫚はラプンツェルに一指も触れずに帰って行きました。そんなことは未だかつて初めてで、しばらくは何故なのかと考え込みました。
彼の言う〝ともだち〟が何なのかはよく分からないけれど、交わした言葉は優しく、楽しかったのです。他人と過ごしてそんな気持ちになったのは、産まれて初めてでした。
混乱しつつも、ラプンツェルはにわかに胸が熱くなるのを自覚しました。
それから棕櫚は何日か空けながら、定期的にラプンツェルの元を訪れるようになっていました。
そのうち棕櫚はこの国の王子だと知りましたが、ラプンツェルにとってはどうでも良く、王子もそんなラプンツェルの態度をとても気に入っていました。
会えば会うほど別れるのが惜しくなり、やがてどちらからともなく唇を重ね、ついに肌を合わせる関係になりました。事が終わると王子は逞しい腕にラプンツェルを抱き、何度も愛を囁きました。
「君は身も心も本当に美しいね。愛してるよ、朱理。君に出逢えて、俺はとても幸せだ」
「……あい? しあわせ……?」
そんなことを言われたのは初めてでした。
今までの男たちは、欲望を満たした後はそそくさと身支度をして、決まり悪そうに笑う者ばかりだったからです。
そんな男たちだったからこそ、何の罪悪感も無く突き落とせましたが、優しく大事に扱ってくれる王子にはどうしても出来ませんでした。
魔法使いに隠れて王子と逢瀬を重ねるようになって、ひと月ほど経った頃。情事後の汗ばんだ肌を重ねたまま、王子が真剣な声音で囁きました。
「朱理、俺と結婚してくれないか?」
「けっこん……?」
「俺はもうキミ無しでは生きて行けないほど、キミを愛してしまったんだ。どうか俺とここを出て、城で一緒に暮らして欲しい」
ラプンツェルは真剣に訴える王子に心を打たれつつ、自らの行ってきた所業の後ろ暗さに、思わず目を伏せてしまいます。不安そうに嫌かと問う王子に首を振り、ラプンツェルはこれまでしてきたことをあらいざらい話して聞かせました。
「……だから、俺はそんなことを言ってもらう資格は無い。貴方にはふさわしくない」
「それはキミが望んでしていた訳じゃないんだろう? こんな所に閉じ込められて、それしか生きる術がなかったのだからしかたないよ。キミは悪くない。悪いのは魔法使いだ」
「……そう、かな……」
「そうとも。だから、こんな所からは逃げ出そう。俺が外に連れ出してあげる。必ずキミを幸せにすると誓うよ」
「でも、どうやって? 逃げても魔法使いが追ってくる……」
「考えがあるんだ。耳を貸して」
王子の策はこうでした。このまま王子を部屋の隅に隠してラプンツェルは普段通りに過ごし、魔法使いがやって来たら王子が剣で斬り殺す。そして王子が持参してきた縄ばしごを伝って降り、外へ出る。
もとより王子は今日、求婚すると決めていたのです。そしてラプンツェルの過去を知ってもなお愛は変わらず、真摯な想いに感銘を受けたラプンツェルもまた、その提案を快諾しました。
「やあ、お招き有難う。歌っていたのはキミかい?」
「……うん、そうだよ」
「美しい声だと思ったら、姿も美しいから驚いたよ。こんな塔の上で何をしてるの?」
ラプンツェルは穏やかな笑顔で問うて来る青年に見惚れつつ、毎回同じようにされる質問に、また同じように答えていました。頭の隅では、この人ももうすぐ他の男たちのように手を出して来るのだろう、と思いながらベッドへ腰掛けます。
しかし青年は近くへ来ようとはせず、あれやこれやと尋ねてくるばかり。
「キミ、名前はなんて言うの? 俺は棕櫚」
「……朱理。でも、ラプンツェルって呼ばれることのほうが多い……」
「素敵な名だね。俺は朱理って呼ばせてもらうよ。良いかな?」
「うん……」
「いつもここに1人でいるの?」
「夜に魔法使いが来るくらいで、昼間はほとんど1人だよ」
「寂しくない?」
「さあ……よく分からない」
「そっかぁ。じゃあ、俺と友達になってよ」
「ともだち……? それはなに?」
「こうして会って話したり、一緒に遊んだりする相手ってことだよ」
ラプンツェルは初めて聞く言葉に首をかしげ、さらにそんな申し出をする棕櫚にも驚いていました。
「友達になって、また会って欲しいんだ。駄目かな?」
「……ううん、駄目じゃない。俺も……また会いたい」
「良かった! じゃあ今日はそろそろ失礼するよ。突然お邪魔してごめんね」
「え……あ、いや……分かった。この髪を伝って降りると良い」
「有難う。またすぐ来るよ、朱理」
「うん……」
人好きのする笑みを残して、棕櫚はラプンツェルに一指も触れずに帰って行きました。そんなことは未だかつて初めてで、しばらくは何故なのかと考え込みました。
彼の言う〝ともだち〟が何なのかはよく分からないけれど、交わした言葉は優しく、楽しかったのです。他人と過ごしてそんな気持ちになったのは、産まれて初めてでした。
混乱しつつも、ラプンツェルはにわかに胸が熱くなるのを自覚しました。
それから棕櫚は何日か空けながら、定期的にラプンツェルの元を訪れるようになっていました。
そのうち棕櫚はこの国の王子だと知りましたが、ラプンツェルにとってはどうでも良く、王子もそんなラプンツェルの態度をとても気に入っていました。
会えば会うほど別れるのが惜しくなり、やがてどちらからともなく唇を重ね、ついに肌を合わせる関係になりました。事が終わると王子は逞しい腕にラプンツェルを抱き、何度も愛を囁きました。
「君は身も心も本当に美しいね。愛してるよ、朱理。君に出逢えて、俺はとても幸せだ」
「……あい? しあわせ……?」
そんなことを言われたのは初めてでした。
今までの男たちは、欲望を満たした後はそそくさと身支度をして、決まり悪そうに笑う者ばかりだったからです。
そんな男たちだったからこそ、何の罪悪感も無く突き落とせましたが、優しく大事に扱ってくれる王子にはどうしても出来ませんでした。
魔法使いに隠れて王子と逢瀬を重ねるようになって、ひと月ほど経った頃。情事後の汗ばんだ肌を重ねたまま、王子が真剣な声音で囁きました。
「朱理、俺と結婚してくれないか?」
「けっこん……?」
「俺はもうキミ無しでは生きて行けないほど、キミを愛してしまったんだ。どうか俺とここを出て、城で一緒に暮らして欲しい」
ラプンツェルは真剣に訴える王子に心を打たれつつ、自らの行ってきた所業の後ろ暗さに、思わず目を伏せてしまいます。不安そうに嫌かと問う王子に首を振り、ラプンツェルはこれまでしてきたことをあらいざらい話して聞かせました。
「……だから、俺はそんなことを言ってもらう資格は無い。貴方にはふさわしくない」
「それはキミが望んでしていた訳じゃないんだろう? こんな所に閉じ込められて、それしか生きる術がなかったのだからしかたないよ。キミは悪くない。悪いのは魔法使いだ」
「……そう、かな……」
「そうとも。だから、こんな所からは逃げ出そう。俺が外に連れ出してあげる。必ずキミを幸せにすると誓うよ」
「でも、どうやって? 逃げても魔法使いが追ってくる……」
「考えがあるんだ。耳を貸して」
王子の策はこうでした。このまま王子を部屋の隅に隠してラプンツェルは普段通りに過ごし、魔法使いがやって来たら王子が剣で斬り殺す。そして王子が持参してきた縄ばしごを伝って降り、外へ出る。
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