万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩

文字の大きさ
30 / 36
番外編~迷作文学~

【ラプンツェル⠀3】

 その夜。いつものように魔法使いがふわりと窓から入って来ました。王子は衝立ついたての影に身を潜め、斬り掛かる機会を伺っています。

「俺の可愛い小鳥さん、こっちへおいで」

 魔法使いはベッドの上へラプンツェルを押し倒し、確かめるように体へ手のひらをすべらせます。耳元や首筋へ舌を這わせながら、魔法使いは低い声で囁きました。

「……お前、最近やけに獲物が少ないようだが、何かあったか?」
「別に……。ただ人が通らないだけだよ……」
「本当か? まさか、仕留しとめそこねて逃がしたりしてないだろうな」
「してないよ」
「なら良いが……そろそろぐちゃぐちゃになったお前が恋しい。明日は頑張るんだぞ」
「……うん」

 魔法使いは喉の奥で笑うとラプンツェルに馬乗りになり、すっかりこれからの情交に夢中になっています。王子は今だとばかりに衝立から飛び出し、魔法使いへ斬り掛かりました。
 魔法使いは咄嗟にかわそうとしたものの間に合わず、剣はぐっすりと脇腹を貫いています。血反吐を吐きながらも状況を理解したらしく、魔法使いは苦しそうに眉を寄せつつ、口角を上げて王子を見据えました。

「……っ、なるほどな……。どうりで、他の男の臭いがした訳だ……」
「私欲にまみれた魔法使いめ! 朱理しゅりを酷い目に合わせたこと、その命で償え!」

 雄々しく叫んで、王子は貫いていた剣を外側へぐように力を込めました。魔法使いは激しく喀血かっけつして膝を折りましたが、目だけは王子をとらえて離しません。

「……朱理をここから連れ出しても、お前の望む幸福など得られんぞ……」
「なんだと? どういう意味だ!」
「そいつは……赤ん坊の頃から俺が育ててきた……。思考、価値観、感性……全てを把握している……。お前のような凡人が、手に負える相手じゃないんだよ……」
「ふざけるな! 朱理はこんな生活など望んでいない! 純粋で清廉な人だぞ! 歪めているのはお前だ!」
「ハハッ……まったく、おめでたい奴だぜ……。これだから平和ボケした連中は嫌いだよ……。そいつには特別な素質があった……。ラプンツェルは、生まれながらの魔性なんだよ……」
「彼が生まれつき化け物だと!? そんなはず無いだろう! 俺を惑わせようとしても無駄だ!」
「お前、聞いたんだろう……こいつが今まで何をしてきたか……。それでもまだ愛すと言うのか……? とんだお人好しか、救いようのない馬鹿だな……」
「お前が無理矢理やらせていたことだ! 俺は貴様から朱理を解放する! そして必ず、誰よりも幸せにしてみせる!」
「……無理矢理、ね……。本当にそう思うか? こんな所に何年も閉じ込められて、しかたなく人を殺していたのなら……とっくに自分で飛び降りているとは思わないのか?」
「……っ」
「くくっ……だから言ってるだろうが……。お前にあいつは背負えないよ……」
「……ッ、黙れ! 黙れ!! 戯言たわごとはもう聞きたくないッ!!」

 激昂した王子が剣を握る力を強めようとした時、するりとベッドから降りたラプンツェルが、王子と入れ替わるように柄を握りました。魔法使いの口からごぼごぼと溢れる血が、ラプンツェルの白い肌や長い髪を赤く染めていきます。
 ラプンツェルは無表情なような、うっすら微笑んでいるような表情で魔法使いを見下ろし、頬へそっと手を添えました。魔法使いも穏やかな瞳でラプンツェルを見つめ、その手に頬を寄せて微笑わらいました。

「もう、良いのか……?」
「分からないけど、多分、良いんだと思う」
「もう苦しくないか……?」
「今までだって、苦しくはなかった。ただ、貴方が居なくなるのは、少し寂しい気がする」
「……そうか……それなら安心だ……」

 間近で見ている王子の入る隙も無いほど、排他的な空気が2人を包んでいました。まるで、そこだけ時の進みが違うかのように、ゆっくり立ち上がった2人は絡み合い、踊るように窓辺へ近づいて行きます。そして、窓枠を背に月明かりを受ける魔法使いの顔は影となり、王子からは見えなくなりました。
 やがて穏やかなラプンツェルの声と、同じく満ち足りたような魔法使いの短いやり取りが静寂に響きました。

「さよなら、陸奥むつ
「またな……俺の可愛い小鳥さん……」

 魔法使いが言い終わると、ラプンツェルはそっと彼の体を窓の外へ押しました。ぐらりと仰向けに倒れていきながら魔法使いが呟いた言葉は、ラプンツェルにだけ聞こえるものでした。

「これでやっと、の悲願が叶う……」

 しばらく呆然と窓辺に立っていたラプンツェルの肩を、王子が優しく抱いていたわるように声をかけました。

「大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」

 そうして2人は無事に塔から脱出し、王子の城へ辿り着くことができたのです。



 やがて王子とラプンツェルの盛大な結婚式が行われ、穏やかで満ち足りた生活を送る日々が続きました。
 しかし、王子は知りません。時折、ラプンツェルが誰もいない所へ微笑ほほえみかけていることや、呟くように何かを口走っていることを。

〝愛しているよ、俺の可愛い小鳥さん。これでようやく、お前とひとつになれた〟

「ふふっ……そうだね、陸奥。これからは、お前が俺の籠の鳥だ……」


感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

さよならの合図は、

15
BL
君の声。