32 / 36
番外編~迷作文学~
【シンデレラ⠀2】
王子にとっては幸か不幸か、仕事の早い召使い達によって、招待状はまたたく間に国中の家々へ配られた。もちろん、シンデレラ邸も例に漏れず受け取っている。
「舞踏会? やけに急だが、何かめでたいことでもあったか?」
「さあ? 思いつきで行動するのが、王族なんじゃないのぉ。嫌いじゃないけどねぇ、そういうノリ」
「えーと、なになに……明日から3日間、舞踏会を開催する。参加対象は国中の妙齢女性全員。但し、未婚に限る……やってさ」
「規模が大きいうえに随分、対象者がアバウトな舞踏会ですね。招待状は全部で3通……ということは、お義母様とお義姉様2人の分ですか」
当然のように自分を除外するシンデレラに、継母は眉をひそめて紫煙を吐く。
「いや、違うだろ。なんで俺を数にいれるんだ。お前ら3人の分に決まってる。その条件からするに、恐らく王子の結婚相手探しだな」
「でもさ、妙齢ってどこまで? って話だよねぇ。和泉の見た目年齢って俺たちと変わらないじゃない。よく姉妹だと思われるくらいなんだからぁ」
「未亡人やしまだ若いし、対象っちゃ対象やろな。けど、3通しか無いんなら東雲の分で間違いないやろ」
「しかし……私はドレスも靴も持っていないので、とても舞踏会になど参加できませんよ」
「貸してやりたいが、皆サイズがバラバラだからな。今から仕立てては間に合わないし……」
「こんなところで苛めてる設定が響くとはねぇ。ご近所さんに近い体型の人いなかったっけ?」
「いえ、構わないんです。私には分不相応ですし、むしろ行けなくて都合が良いくらいですから」
「はぁ……ったく、お前は相変わらずの引っ込み思案やなー。たまには華やかなとこでパーっと遊んで、気分転換したらええのに」
「賑やかな場所は苦手なんです、逆に疲れてしまうので。お義姉様達は存分に楽しんできて下さい」
「そーお? まぁ無理にとは言わないけど、行きたくなったら遠慮なく言ってねー」
「有難うございます。では、皆さんのドレスの支度をしてきますね」
そして舞踏会当日。華やかに着飾った継母たちを見送って、シンデレラは息をつく。
「ふう……3日もこんなことを続けるなんて、やはり貴族趣味は理解できないな。王子様のお顔は拝見してみたいけれど、どのみち、私には縁の無い話だ」
シンデレラが屋敷へ戻ろうと踵を返した瞬間、目の前が眩い光に包まれた。反射的に腕で顔をおおい、目を閉じたシンデレラの耳に、何者かの盛大な溜め息が聴こえてギョッとする。
「やれやれ、まったく。お前はどこに行ってもそんな感じなんだな。謙虚すぎるのも考えものだぞ」
シンデレラが恐る恐る目を開けると、玄関口のポーチへもたれて呆れ顔をする、黒いローブをまとった男が立っていた。
「な、何を言って……というか、どちら様ですか?」
「聞いて驚け。俺はお前を助けにきた、フェアリーゴッドファザーだぜ」
「はい?」
驚くというより、胡乱な表情で眉を上げるシンデレラに、男は両手を広げて再び自己紹介をする。
「だから、魔法使いだって。さっき、ピカーッと派手に登場したろ?」
「……スタングレネードの類でも使ったのでは……? 無音だったのはおかしいですが、違法改造かなにかでサイレンサーを……」
「お前なぁ……ファンタジーで軍ヲタみたいなこと言うなよ。しかも主人公だぞ。もっと夢を持った生き方しろよ」
「明らかに挙動不審なうえに危険人物ですね。警察に通報を」
「待て待て待て! まじで魔法使いなんだって! しかも2回目だぜ? もはやベテラン魔法使いの域だから、俺」
ペラペラと妙なことをのたまうローブの男はすらりと背が高く、甘いマスクに甘い声と、只者ではない風貌だ。が、それゆえに余計、慎重派のシンデレラは不信感をつのらせた。
「とてつもなく胡散臭い……。本当に魔法使いだと言うのなら、それを証明して見せて下さいませんか? いきなり現れて魔法使いだなんて名乗られても、誰も信じませんよ、普通」
「怖いくらい冷静なヒロインだな……。まぁ元の性格上、仕方ないか……。お前、さっき王子の顔が見てみたいって言ってたよな?」
「え……? いや、少しはそう思わなくもないというだけで、別にどうしても見たいという訳では……」
「あーもう、ごちゃごちゃうるさい! 俺が舞踏会に行けるようにしてやるから、しっかり自分の目で見てこいって!」
「そ、そんなことどうやって……」
「まぁ見てろ」
そう言って、魔法使いと名乗る男はにやりと笑い、懐から取り出した杖を、馴れた手つきで振った。
すると、ぼろぼろに汚れた粗末な服は光に包まれ、あっという間に美しい刺繍と宝石の散りばめられた、豪華なドレスに変わった。首や耳には煌びやかなアクセサリーが揺れ、髪も綺麗にまとめられて髪飾りがついている。
驚きのあまり、呆然と立ち尽くしているシンデレラに、魔法使いが声を掛けた。
「お前、ガラスの靴と金の靴、どっちが良い?」
「……え? なんですって?」
「だからガラスと金、どっちが良いか聞いてるんだよ。初版では金だったんだけど、今やガラスが主流だろ? どっちにしても話には影響しないから、選ばせてやろうと思ってさ」
ただでさえ本物の魔法に驚いているシンデレラに、訳の分からない質問をする魔法使い。
「ど、どちらでも……」
「あっそ。じゃ、せっかくだから金でいこう。ガラスって男尊女卑感があって、どうも好きじゃないんだよなー。そもそもシンデレラの話自体、女性の自立を全面的に否定してる感がハンパ無いんだよ。ガラス素材の靴だったり、やけにシンデレラの足が小さい理由だったりさぁ」
「は、はぁ……。確かに、ガラスの靴で歩いたりしたら、大惨事になるとは思いますが……あくまでファンタジーなのでは? 大体、私は男ですし……」
「おっと、話が盛大に逸れちまったな。すまん、すまん。今回は珍しく良い魔法使い役だったんで、つい浮かれちゃったよ。まぁそんな話はともかく、金だな。ほら、どーぞ」
そうして、シンデレラの足は金色に輝くハイヒールに収まった。それだけにとどまらず、魔法使いは次々と杖を振って馬車、御者、従者を用意した。
「どーよ、これで完璧だろ。魔法使いって信じた?」
「は、はい……! 完全に信じました……!」
「よし。そんじゃ、舞踏会楽しんでこい」
「あの……なぜ、私なんかにここまでして下さるんですか?」
「なぜって、そうしなきゃ話が進まんだろ。まぁ、いつもこんな感じだから気にすんな。棚ぼたとでも思えば良いさ」
「いつも……? ま、まぁ良いか……あまり深く考えてはいけない気がする……。有難うございます、魔法使いさん!」
「あと、ひとつ注意事項な。この魔法は午前0時になると解けちまうから、必ずそれまでに帰るようにしろよ。じゃないと、着飾った奴らのど真ん中で小汚い格好を晒すか、徒歩で帰るか、もしくはその両方になるかもしれないぜ」
「わ、分かりました! 肝に銘じておきます!」
「おう、頑張れよー」
「はい!」
なんとも自由奔放な魔法使いに、振り回され気味ではあったが、こうしてシンデレラは無事、舞踏会へ向かうこととなった。
しかしこの時、シンデレラは己にかけられた魔法の真価までは、知る由もなかったのである。
「舞踏会? やけに急だが、何かめでたいことでもあったか?」
「さあ? 思いつきで行動するのが、王族なんじゃないのぉ。嫌いじゃないけどねぇ、そういうノリ」
「えーと、なになに……明日から3日間、舞踏会を開催する。参加対象は国中の妙齢女性全員。但し、未婚に限る……やってさ」
「規模が大きいうえに随分、対象者がアバウトな舞踏会ですね。招待状は全部で3通……ということは、お義母様とお義姉様2人の分ですか」
当然のように自分を除外するシンデレラに、継母は眉をひそめて紫煙を吐く。
「いや、違うだろ。なんで俺を数にいれるんだ。お前ら3人の分に決まってる。その条件からするに、恐らく王子の結婚相手探しだな」
「でもさ、妙齢ってどこまで? って話だよねぇ。和泉の見た目年齢って俺たちと変わらないじゃない。よく姉妹だと思われるくらいなんだからぁ」
「未亡人やしまだ若いし、対象っちゃ対象やろな。けど、3通しか無いんなら東雲の分で間違いないやろ」
「しかし……私はドレスも靴も持っていないので、とても舞踏会になど参加できませんよ」
「貸してやりたいが、皆サイズがバラバラだからな。今から仕立てては間に合わないし……」
「こんなところで苛めてる設定が響くとはねぇ。ご近所さんに近い体型の人いなかったっけ?」
「いえ、構わないんです。私には分不相応ですし、むしろ行けなくて都合が良いくらいですから」
「はぁ……ったく、お前は相変わらずの引っ込み思案やなー。たまには華やかなとこでパーっと遊んで、気分転換したらええのに」
「賑やかな場所は苦手なんです、逆に疲れてしまうので。お義姉様達は存分に楽しんできて下さい」
「そーお? まぁ無理にとは言わないけど、行きたくなったら遠慮なく言ってねー」
「有難うございます。では、皆さんのドレスの支度をしてきますね」
そして舞踏会当日。華やかに着飾った継母たちを見送って、シンデレラは息をつく。
「ふう……3日もこんなことを続けるなんて、やはり貴族趣味は理解できないな。王子様のお顔は拝見してみたいけれど、どのみち、私には縁の無い話だ」
シンデレラが屋敷へ戻ろうと踵を返した瞬間、目の前が眩い光に包まれた。反射的に腕で顔をおおい、目を閉じたシンデレラの耳に、何者かの盛大な溜め息が聴こえてギョッとする。
「やれやれ、まったく。お前はどこに行ってもそんな感じなんだな。謙虚すぎるのも考えものだぞ」
シンデレラが恐る恐る目を開けると、玄関口のポーチへもたれて呆れ顔をする、黒いローブをまとった男が立っていた。
「な、何を言って……というか、どちら様ですか?」
「聞いて驚け。俺はお前を助けにきた、フェアリーゴッドファザーだぜ」
「はい?」
驚くというより、胡乱な表情で眉を上げるシンデレラに、男は両手を広げて再び自己紹介をする。
「だから、魔法使いだって。さっき、ピカーッと派手に登場したろ?」
「……スタングレネードの類でも使ったのでは……? 無音だったのはおかしいですが、違法改造かなにかでサイレンサーを……」
「お前なぁ……ファンタジーで軍ヲタみたいなこと言うなよ。しかも主人公だぞ。もっと夢を持った生き方しろよ」
「明らかに挙動不審なうえに危険人物ですね。警察に通報を」
「待て待て待て! まじで魔法使いなんだって! しかも2回目だぜ? もはやベテラン魔法使いの域だから、俺」
ペラペラと妙なことをのたまうローブの男はすらりと背が高く、甘いマスクに甘い声と、只者ではない風貌だ。が、それゆえに余計、慎重派のシンデレラは不信感をつのらせた。
「とてつもなく胡散臭い……。本当に魔法使いだと言うのなら、それを証明して見せて下さいませんか? いきなり現れて魔法使いだなんて名乗られても、誰も信じませんよ、普通」
「怖いくらい冷静なヒロインだな……。まぁ元の性格上、仕方ないか……。お前、さっき王子の顔が見てみたいって言ってたよな?」
「え……? いや、少しはそう思わなくもないというだけで、別にどうしても見たいという訳では……」
「あーもう、ごちゃごちゃうるさい! 俺が舞踏会に行けるようにしてやるから、しっかり自分の目で見てこいって!」
「そ、そんなことどうやって……」
「まぁ見てろ」
そう言って、魔法使いと名乗る男はにやりと笑い、懐から取り出した杖を、馴れた手つきで振った。
すると、ぼろぼろに汚れた粗末な服は光に包まれ、あっという間に美しい刺繍と宝石の散りばめられた、豪華なドレスに変わった。首や耳には煌びやかなアクセサリーが揺れ、髪も綺麗にまとめられて髪飾りがついている。
驚きのあまり、呆然と立ち尽くしているシンデレラに、魔法使いが声を掛けた。
「お前、ガラスの靴と金の靴、どっちが良い?」
「……え? なんですって?」
「だからガラスと金、どっちが良いか聞いてるんだよ。初版では金だったんだけど、今やガラスが主流だろ? どっちにしても話には影響しないから、選ばせてやろうと思ってさ」
ただでさえ本物の魔法に驚いているシンデレラに、訳の分からない質問をする魔法使い。
「ど、どちらでも……」
「あっそ。じゃ、せっかくだから金でいこう。ガラスって男尊女卑感があって、どうも好きじゃないんだよなー。そもそもシンデレラの話自体、女性の自立を全面的に否定してる感がハンパ無いんだよ。ガラス素材の靴だったり、やけにシンデレラの足が小さい理由だったりさぁ」
「は、はぁ……。確かに、ガラスの靴で歩いたりしたら、大惨事になるとは思いますが……あくまでファンタジーなのでは? 大体、私は男ですし……」
「おっと、話が盛大に逸れちまったな。すまん、すまん。今回は珍しく良い魔法使い役だったんで、つい浮かれちゃったよ。まぁそんな話はともかく、金だな。ほら、どーぞ」
そうして、シンデレラの足は金色に輝くハイヒールに収まった。それだけにとどまらず、魔法使いは次々と杖を振って馬車、御者、従者を用意した。
「どーよ、これで完璧だろ。魔法使いって信じた?」
「は、はい……! 完全に信じました……!」
「よし。そんじゃ、舞踏会楽しんでこい」
「あの……なぜ、私なんかにここまでして下さるんですか?」
「なぜって、そうしなきゃ話が進まんだろ。まぁ、いつもこんな感じだから気にすんな。棚ぼたとでも思えば良いさ」
「いつも……? ま、まぁ良いか……あまり深く考えてはいけない気がする……。有難うございます、魔法使いさん!」
「あと、ひとつ注意事項な。この魔法は午前0時になると解けちまうから、必ずそれまでに帰るようにしろよ。じゃないと、着飾った奴らのど真ん中で小汚い格好を晒すか、徒歩で帰るか、もしくはその両方になるかもしれないぜ」
「わ、分かりました! 肝に銘じておきます!」
「おう、頑張れよー」
「はい!」
なんとも自由奔放な魔法使いに、振り回され気味ではあったが、こうしてシンデレラは無事、舞踏会へ向かうこととなった。
しかしこの時、シンデレラは己にかけられた魔法の真価までは、知る由もなかったのである。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿