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番外編~迷作文学~
【シンデレラ⠀4】
翌日から、消えた姫探しが大々的に施行された。王子は自ら国中の家を訪ね、残された金の靴の持ち主を、昼夜問わず探し回っている。
その頃、シンデレラ邸では、優雅に午後のティータイムなど嗜みつつ、舞踏会の話に花を咲かせていた。
「それにしても驚いたよねぇ、謎のお姫様の登場ぉ」
「ほんまにな。王妃様の血縁かなんかやろか」
「いや、王妃も驚いていた様子だったし、それは無いだろう。そもそも、血縁者ならとっくに顔を合わせているはずだしな」
「舞踏会で何かあったんですか?」
渦中のシンデレラは、皆の噂の的である姫が自分だとはつゆ知らず、怪訝そうに首をかしげている。
「突然、すっごい豪華なドレス着た人が、ホールに入って来てさぁ。まぁ、それだけなら良いんだけどー、その顔がねぇ……」
「王妃様に、うりふたつやってん。性格は、王妃様より随分、控えめみたいやったけど」
「ああ、確かにそっくりだったな。ひと目見るなり、あのマザコン王子もまっしぐらだったよな」
王子が、実は重度のマザコンであることを、知らない国民は居ない。シンデレラを除いては。
「他人の空似というものでしょうか……。そんなに似ていたんですか?」
「似てるとかいう次元じゃなかったよぉ。もう、一卵性双生児か、クローンレベル」
「そう……ですか……(私が帰った後に、そんなことがあったなんて……。王子様はもう、その方に夢中なのだな……)」
シンデレラは、底抜けに天然だった。自分が逃げ出した後の話だと思い込み、すっかり意気消沈している。そもそも、ゴシップなどに興味のない、引きこもり気質のため、有名すぎる王子の性癖すら、知らない有様だ。
とはいえ、普通、魔法使いに顔まで変えられてしまうとは思わない上に、鏡も見ずに会場へ向かった訳なので、気付けないのも無理はない。
「そんで、王子は朝から、草の根分けてその王妃そっくりさんを捜索中なワケ。そのうち、ここにも来るんちゃう?」
「だろうな。国中の屋敷を見て回っているらしいし。お前たちも、王妃風につくろっておけば、王族入りも夢じゃないんじゃないか?」
「んー、あの王子はタイプじゃないけど、お城暮らしは魅力的だよねぇ。贅沢三昧とか最高ぉ」
「せやな。花より金や、カ・ネ」
指で円を作り、いやらしく笑う伊まりに、継母は心底、呆れ果ててため息をついた。
「まったく。そんな欲にまみれた顔つきじゃ、王妃の真似など到底、無理そうだな」
「うっさいなー」
「はは、伊まり義姉さんらしいですね」
◇
一方その頃、お城では──
「おい陸奥、なにしてくれてんだ、てめぇコラ。俺の顔、勝手にコピーしただろ」
「これは、これは、朱理王妃様。ご機嫌うるわしゅう」
王妃が黒ずくめの男に詰め寄っていた。男は大袈裟なほど恭しく腰を屈めて挨拶──するように見せかけて、ちゃっかり抱きついている。
「うるわしいワケねーだろ、思いっきり不機嫌だわ。くっつくな、離れろ。いいから質問に答えろよ、くそ魔法使い」
「もー、相変わらずつれないねぇ。ちょっと婚活のお手伝いしただけだよ。本当は俺の趣味にしか使わない魔法なんだけど、今回は特別に、王子のために出血大サービスしてやったのさ。すごいでしょ?」
「いくら王子のためでも、あんなの反則だろ! だいたい、元に戻ったら意味ねぇじゃん! つーか、今なんつった? お前の趣味ってなんだよ。怖ぇからすぐ辞めろ」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと手は打ってあるから。趣味は辞めないけど」
「まだ何か裏があるのかよ……。お前って本当、黒魔法使わせたらとんでもないな」
「いやだなぁ。黒魔法だなんて、人聞きが悪い。純然たるボランティアだよ?」
「王族お抱えの魔法使いが、ボランティアだぁ? 寝言は寝て言え、チートマジシャンめ」
そう、シンデレラに魔法をかけたこの男は、王家に仕える魔法使いだったのだ。怒り心頭で憤慨する王妃に、寄り添っていた王も、眉をひそめて苦言を呈す。
「お前の腕が確かなのは認めるが、さすがに今回は強引すぎるだろ」
「そうですかねぇ。俺としては、最善を尽くしたつもりなんですけど。現に、王子は結婚する気満々じゃないですか。これを成功と言わずして、なんとします」
「俺にそっくりなヤツと結婚されても、気持ち悪いんだっつーの! なんかぞわっとするし、毎日、顔合わせる俺の身にもなれ!」
「俺も良い気はしねぇな」
「だから、それは問題ありませんって。王様たちはなんにも心配せずに、どーんと構えてれば良いんですよ」
「はぁ……イヤな予感しかしねぇ……」
「もー、ホント朱理は心配性でくそ可愛いなぁ。悩み事がある時は、体を動かすのが1番だぜ。一緒に、激しくて気持ちいい運動しない?」
「しねーよ。ベタベタ触んな、うぜぇ」
「旦那の目の前で、よく堂々と口説けるな。お前のボスは俺だぞ」
不満をぶつける王妃を飄々と受け流しつつ、ちゃっかりセクハラしながら笑ういつもの姿に、王も呆れ顔である。
「はいはい。まったく、いつになったら俺とお前のラブラブハッピーストーリーが見られるのかねー。つまらーん」
「そんなもん絶対ねーから。無駄な希望を持つな」
「白雪姫のとき、一応、お前らくっついてたじゃねぇか。ラプンツェルの時も、しっかりヤることヤってたし。俺より役得のくせに、文句言うな」
「あんなちょろっとでめでたしされても、嬉しくありませんよー、思いっきり打算だったし。2回目に至っては、殺されてますしね、俺。刺された上に、突き落とされてますからね。あの時の棕櫚の目つき、真に迫ってたなぁ。本当に殺られるかと思ったものなぁ」
「確かに本気だったな、あれは。実はお前、相当、嫌われてんじゃねぇの?」
「え、まじですか。そう言われれば心なしか、朱理もすごく楽しそうに突き落としてたような……?」
「やめろ、やめろ! こんな所で裏話に花を咲かせるな! また話がぶれちまう。今はシンデレラの真っ最中だろ。今回のヒロインは、煜さんなんだからな」
「分かってるってー。ともかく、何もかも無事にまーるくおさめてやるから、心配いらないさ」
「そーかよ……。はぁ……頭いてぇ……」
主人公たちはさておき、仲が良いのか悪いのか、微妙な3人のやりとりは、至って普段通りであった。
その頃、シンデレラ邸では、優雅に午後のティータイムなど嗜みつつ、舞踏会の話に花を咲かせていた。
「それにしても驚いたよねぇ、謎のお姫様の登場ぉ」
「ほんまにな。王妃様の血縁かなんかやろか」
「いや、王妃も驚いていた様子だったし、それは無いだろう。そもそも、血縁者ならとっくに顔を合わせているはずだしな」
「舞踏会で何かあったんですか?」
渦中のシンデレラは、皆の噂の的である姫が自分だとはつゆ知らず、怪訝そうに首をかしげている。
「突然、すっごい豪華なドレス着た人が、ホールに入って来てさぁ。まぁ、それだけなら良いんだけどー、その顔がねぇ……」
「王妃様に、うりふたつやってん。性格は、王妃様より随分、控えめみたいやったけど」
「ああ、確かにそっくりだったな。ひと目見るなり、あのマザコン王子もまっしぐらだったよな」
王子が、実は重度のマザコンであることを、知らない国民は居ない。シンデレラを除いては。
「他人の空似というものでしょうか……。そんなに似ていたんですか?」
「似てるとかいう次元じゃなかったよぉ。もう、一卵性双生児か、クローンレベル」
「そう……ですか……(私が帰った後に、そんなことがあったなんて……。王子様はもう、その方に夢中なのだな……)」
シンデレラは、底抜けに天然だった。自分が逃げ出した後の話だと思い込み、すっかり意気消沈している。そもそも、ゴシップなどに興味のない、引きこもり気質のため、有名すぎる王子の性癖すら、知らない有様だ。
とはいえ、普通、魔法使いに顔まで変えられてしまうとは思わない上に、鏡も見ずに会場へ向かった訳なので、気付けないのも無理はない。
「そんで、王子は朝から、草の根分けてその王妃そっくりさんを捜索中なワケ。そのうち、ここにも来るんちゃう?」
「だろうな。国中の屋敷を見て回っているらしいし。お前たちも、王妃風につくろっておけば、王族入りも夢じゃないんじゃないか?」
「んー、あの王子はタイプじゃないけど、お城暮らしは魅力的だよねぇ。贅沢三昧とか最高ぉ」
「せやな。花より金や、カ・ネ」
指で円を作り、いやらしく笑う伊まりに、継母は心底、呆れ果ててため息をついた。
「まったく。そんな欲にまみれた顔つきじゃ、王妃の真似など到底、無理そうだな」
「うっさいなー」
「はは、伊まり義姉さんらしいですね」
◇
一方その頃、お城では──
「おい陸奥、なにしてくれてんだ、てめぇコラ。俺の顔、勝手にコピーしただろ」
「これは、これは、朱理王妃様。ご機嫌うるわしゅう」
王妃が黒ずくめの男に詰め寄っていた。男は大袈裟なほど恭しく腰を屈めて挨拶──するように見せかけて、ちゃっかり抱きついている。
「うるわしいワケねーだろ、思いっきり不機嫌だわ。くっつくな、離れろ。いいから質問に答えろよ、くそ魔法使い」
「もー、相変わらずつれないねぇ。ちょっと婚活のお手伝いしただけだよ。本当は俺の趣味にしか使わない魔法なんだけど、今回は特別に、王子のために出血大サービスしてやったのさ。すごいでしょ?」
「いくら王子のためでも、あんなの反則だろ! だいたい、元に戻ったら意味ねぇじゃん! つーか、今なんつった? お前の趣味ってなんだよ。怖ぇからすぐ辞めろ」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと手は打ってあるから。趣味は辞めないけど」
「まだ何か裏があるのかよ……。お前って本当、黒魔法使わせたらとんでもないな」
「いやだなぁ。黒魔法だなんて、人聞きが悪い。純然たるボランティアだよ?」
「王族お抱えの魔法使いが、ボランティアだぁ? 寝言は寝て言え、チートマジシャンめ」
そう、シンデレラに魔法をかけたこの男は、王家に仕える魔法使いだったのだ。怒り心頭で憤慨する王妃に、寄り添っていた王も、眉をひそめて苦言を呈す。
「お前の腕が確かなのは認めるが、さすがに今回は強引すぎるだろ」
「そうですかねぇ。俺としては、最善を尽くしたつもりなんですけど。現に、王子は結婚する気満々じゃないですか。これを成功と言わずして、なんとします」
「俺にそっくりなヤツと結婚されても、気持ち悪いんだっつーの! なんかぞわっとするし、毎日、顔合わせる俺の身にもなれ!」
「俺も良い気はしねぇな」
「だから、それは問題ありませんって。王様たちはなんにも心配せずに、どーんと構えてれば良いんですよ」
「はぁ……イヤな予感しかしねぇ……」
「もー、ホント朱理は心配性でくそ可愛いなぁ。悩み事がある時は、体を動かすのが1番だぜ。一緒に、激しくて気持ちいい運動しない?」
「しねーよ。ベタベタ触んな、うぜぇ」
「旦那の目の前で、よく堂々と口説けるな。お前のボスは俺だぞ」
不満をぶつける王妃を飄々と受け流しつつ、ちゃっかりセクハラしながら笑ういつもの姿に、王も呆れ顔である。
「はいはい。まったく、いつになったら俺とお前のラブラブハッピーストーリーが見られるのかねー。つまらーん」
「そんなもん絶対ねーから。無駄な希望を持つな」
「白雪姫のとき、一応、お前らくっついてたじゃねぇか。ラプンツェルの時も、しっかりヤることヤってたし。俺より役得のくせに、文句言うな」
「あんなちょろっとでめでたしされても、嬉しくありませんよー、思いっきり打算だったし。2回目に至っては、殺されてますしね、俺。刺された上に、突き落とされてますからね。あの時の棕櫚の目つき、真に迫ってたなぁ。本当に殺られるかと思ったものなぁ」
「確かに本気だったな、あれは。実はお前、相当、嫌われてんじゃねぇの?」
「え、まじですか。そう言われれば心なしか、朱理もすごく楽しそうに突き落としてたような……?」
「やめろ、やめろ! こんな所で裏話に花を咲かせるな! また話がぶれちまう。今はシンデレラの真っ最中だろ。今回のヒロインは、煜さんなんだからな」
「分かってるってー。ともかく、何もかも無事にまーるくおさめてやるから、心配いらないさ」
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