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第二章 覚醒編
6 なぜかスキルが発現しました
しおりを挟むえ?
どういうことだ?
僕は想像もしてなかった出来事に呆然としていた。
確かに今聞こえたのだ。
スキルを取得した、と。
「嘘だ」
そんなのありえない。
スキルは、神の恩恵である職業があって初めて取得できるもの。
無職である僕がスキルを使えるはずがないのだ。
それに。
「ナイフスキルって、確か盗賊とか暗殺者が使えるスキルなはずだ」
ナイフ関連のスキルは裏稼業の専売特許だったと記憶している。
言うなればその人たちにしか使えないスキルだ。
他の職業の人が使えてはいけないし、ましてや無職の僕が使えるのははなはだおかしい話である。
「いやいや幻聴ってことも……」
そうだ。
今のは幻聴だ。
夢だ。
だって何度も言うように僕は無職。
職業がない。
スキルがあるのは不可解な話だ。
「よし。聞こえなかったことにしよう」
僕は今の出来事を無かったことにした。
どうせスキルを手にしていたとしても確認する術がないのだ。
ステータスを見るには鑑定してもらうしかないが、ここには鑑定士や神官といった鑑定スキル持ちの人はいない。
確認するまではスキルを手に入れてても、あって無いようなものだ。
今までと変わらないだろう。
……多分。
「あれ? このナイフってこんなに切れ味よかったか?」
最初に違和感を感じたのは、
仕留めた角兎を血抜きし、腸の処理をしていたときだった。
鮮度を保つために腸を取り出そうと腹に刃を入れたところ、まるで茹でた芋をテーブルナイフで切るようなするっと柔らかい感覚で皮膚が切れたのだ。
仕留めたときは力を入れて振り下ろしてやっと刃が刺さるという感じで、今のような感覚はまったく感じなかった。
たまたま仕留めた場所が悪かったのだろうか。
もしくは今刃を当てている場所が柔らかい皮膚なのだろうか。
いや。
「そんなはずないか……」
皮膚は皮膚だ。どこも同じだろう。
ちなみに使っているナイフは、アリスが屋敷の倉庫から持ち出したというどこにでもある平凡なナイフ。
仕留めたときに無理に使ったためか、多少刃こぼれもしている。
先ほどと使っている道具は変わらない。
「ということは……」
変わったのは使い手。
つまり僕自身ということだ。
「あれは聞き間違いじゃ無かったんだ」
これで現実味が帯びてきた。
あの誰かも分からぬ声は、夢でも幻聴でもなかった。
確かにあったことなのだ。
ーーそして。
僕は、ナイフを扱うスキルを手に入れたのだ。
ナイフを上手く扱えているのが何よりの証拠だ。
どうして。
なぜ。
考えれば疑問は尽きない。
けれどひとつ。ひとつだけ言わせてほしい。
「よっしゃああああああああああああ!!」
僕の喜びの声が木霊する。
嬉しい。
本当に嬉しい。
スキルだ。
無職の僕にスキルが発現した。
すべてを諦めていた。
生きるにも働くにもスキルが必要なこの世界で、
僕には何もできないのだと絶望した。
騎士はおろか、何者にもなれないのだと。
自分には価値がないのだと。
何もかも失って。
まっさらな状態で、僕は新しい自分を受け入れるために旅にでた。
それがどうだ。
旅を始めてまだ一日も経っていないけど、
大きな一歩を踏み出せた。
スキルの発現だ。
奇跡としか思えない。
スキルを使えるのがこんなに嬉しいことだと知らなかった。
職業を持っている普通の人からすると、スキルを使えることは当たり前すぎて感動することもないのだろう。
しかし僕にとってスキルは、一生手に入らないと諦めていたものだ。
得られないはずだったものが得られた。
この喜びを、この瞬間を僕は一生忘れないだろう。
「よし、ついでにもう一匹狩るぞ!」
スキルが発現したことに嬉しさを噛み締めながら、僕は二匹目を探すことにした。
アリスを一人で待たせてしまうのは心が痛むが許してほしい。
僕はスキルを使いたくて仕方がないのだ。
あと一匹狩るだけだ。すぐに終わる。
せっかく発現したスキル。存分に使わせてもらおう。
「見つけた」
それから暫くして遂に二匹目を視界にとらえた。
僕はナイフを鞘から抜き、ゆっくり近づいていく。
今回のは一匹目より小降りだがその分素早そうだ。
こちらの位置を気取られたら一瞬で逃げられてしまう可能性がある。
森の中追いかけるのは困難なため、一匹目と同様一撃で決める必要がある。
行けるか?
いや、心配はない。
僕にはスキルがある。
このナイフとスキルがあれば仕留められるはずだ。
手に握るナイフはこれでもかというほどにしっくりきている。
どう扱えばこのナイフの力を発揮できるのか、感覚でわかるのだ。
これもスキルの恩恵なのだろう。
やはりスキルは計り知れない力を秘めている。
これは努力でどうにかできる領域ではない。
スキルを手にしたことで、改めてスキルがあるのとないのとの違いを実感することができた。
行くぞ!
気持ちを落ち着かせ、意を決して僕は駆け出した。
ーーーキュル!
すると、先に角兎が僕に気づいた。
まさに脱兎の如く逃げ出す角兎。
追いかける僕。
しかし彼我の距離は遠ざかるばかりだ。
俊敏さでは森の住人には叶うはずないか。
だが、諦めるという選択肢は僕にはなかった。
ナイフを握る右手の腕を背中につく勢いで掲げる。
右に重心をずらし、そして左足を踏み出すと同時にナイフを投擲した。
ヒュッ
風切り音と共にナイフが弧を描きながら逃走する角兎に吸い込まれるように飛んでいく。
そして。
ーーーキュッ!
短い悲鳴が聞こえたかと思うと、角兎は動きを止め地面に倒れた。
投擲したナイフは見事命中したようだ。
これで二匹目の角兎も無事獲得である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ナイフIのレベルが上がりました。
Lv.1→2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ついでにスキルのレベルも上昇したらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
熟練度が一定に達しました。
スキル 投擲を取得しました
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、思ったら新しいスキルも手に入った模様である。
「……二個目?」
呆気にとられ立ち尽くす僕だった。
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