無職無双〜無職になった僕は妹と旅に出る〜

タカノス🦅

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第三章 フリーユの街編

16 フリーユの街に着きました

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 昼の光が眩しい。
 僕は視界に現れたものを見て、荷台で眠る犬耳少女に呼びかける。

「シフォン。起きて、見えてきたよ」
 
「……もう食べれません……むにゃ」
 
「あはは。ご飯じゃなくて、フリーユの街が見えてきたんだよ」
 
 馬車で旅をしてニ週間が過ぎた。
 この間、乗馬スキルはレベル10まで上昇し、今では景色を楽しむ余裕までできていた。
 長らく続いた緑の道。その終わりがついに見えたのだ。
 街道を進んだ先には堅固な門が口を開けており、その前には多くの馬車や人が列をなしている。
 彼らのお目当ては門の先に広がる街並。
 フリーユの街だ。
 
 地図で確認しても間違いない。僕たちはフリーユの街に着いたのだ
 。
「思ったより早かったなあ」
 
 当初の予定では王都からひと月はかかると踏んでいたが、盗賊の小屋があった山を横断する方が正規ルートより近道だったことや、馬という思わぬ収穫があったこと、シフォンが道順を知っていたということもあり想像以上に早く着くことができた。
 
 当のシフォンといえば、あれから特に不穏な動きを見せるわけでもなく従順にアリスの番犬?兼お世話役として働いてくれており、僕としても良好な関係を築けていると思う。
 
 少し困ったことといえば、毎度の調達する食料がアリスといた時の3倍になったり調理の負担が増えたことか。
 
 シフォンはとにかく食べるのだ。
 
 小柄な体のどこに入っているのかと不思議に思うくらいには食べる。あの盗賊の大男の影響か、それとも元々なのかわからないが、シフォンは大食いだった。
 
 僕の料理を黙々と満悦した表情で食べてくれるのは嬉しいのだが、作る方の負担も少しは考えて欲しいものだ。
 
 まあ、そのおかげで料理スキルの熟練度は爆あがりな訳だが。
  
「んぅ……」

 寝ぼけ眼のシフォンがゆっくりと起きあがる。
 寝癖があったり服がはだけていたりと少々だらしない様子だ。
 しかし手綱を握る僕と目が合うと、急いで居住いを正し挨拶してきた。
 
「お、おはようございます。師匠! 」

 取り繕っているものの治しきれていない寝癖がぴょこっと揺れる。
 
「おはよう、シフォン。昨日は夜遅くまでありがとう」
 
 二週間も一緒にいればシフォンのだらしなさにも慣れるものであり、僕は普通に挨拶を交わす。

 最初はこそばゆかった師匠呼びも気にならなくなった。
 
 昨晩はシフォンが夜の見張りをしてくれていたため、起床時間が遅くなったのだ。
 
 シフォンの気配感知は目を張るほどに優秀だった。
 周囲100メートル範囲内であれば敵の数や位置を把握することができるらしく、おかげでこの二週間は魔物や盗賊に急襲されることなく快適な旅ができていた。
  
「い、いえ。ボクの力がお役に立てているのなら……」
 
 最後の方はもごもごしてて聞き取れなかった。
 
 少々シフォンは自分に自信がないところがある。凄い力を持っているのだからもっと自信を持って欲しいとは思うんだけど。
 
「シフォンにはとても助けられてるよ。見張りを代わってくれるから、僕は心置きなく休めれるし、アリスのお世話もしてくれている。感謝しても仕切れないくらいだよ。シフォン」
 
「は、はいです」
 
「いつもありがとう」
 
 僕は事あるごとに感謝を伝えるようにしていた。
何かあってから伝えようとしても遅いから。
 
「……はい、です」
 
 照れ臭そうに頬を朱に染めながら俯くシフォン。そう恥ずかしがられるとこちらも恥ずかしくなってしまうのだが。
 
 シフォンが通常状態に戻るには少し時間が必要そうだ。
 
 僕はシフォンから視線を外し、その後ろ、天幕の影で横たわる金髪の少女を見る。

 人形のような精緻な横顔。白い肌。長いまつ毛は、二週間の間も閉ざされたままだった。
 
 胸がちくりと痛む。

 僕にできることは全てした。シフォンにも手伝ってもらった。
 
 それでも。

 まだできることはあるのではないか、何か見落としているのではないか、と憂慮するたび不安に駆られる。

 
「__大丈夫、です」
 
 立ち直ったシフォンが言う。
 
「そうかな」
 
「師匠の妹さまです。大丈夫に決まっている、です」

 
 なんとも根拠に乏しい理論だが、その気持ちがとてもありがたかった。

 
 馬車を進ませること数分。長蛇の列をなしている人垣の側まで辿り着く。

「随分と人が多いね」

 遠目で見たより想像以上の人に僕は驚愕する。王都でもここまで人が検問のため列をなしていることはない。

「ざっと100人はいます、です」

「そんなに!?」

 気配探知を使ったのだろう。シフォンが教えてくれる。
 それにしても気配探知は便利だな、としみじみ思っていると。

 「止まれ!」
 
 衛兵が目の前に現れた。

 「……おっと!」

 考え事をしていた僕は手綱を引くのが遅れる。

 衛兵の直前で馬車は静止した。危なかった。もう少しで引くところだった。

 一瞬ビビった顔を見せた衛兵だったが、すぐに表情を引きしめる。

「見たところ旅人のようだが、フリーユの街には何用か」

「妹の治療のために来ました」
 情報収集の件もあったが余計なことは言わなくていいだろう。
 
「……ふむ、病人か。身分証はあるか?」
 天幕の奥をチラッと見た衛兵が、聞いてくる。
 
「いえ、ありません」
 残念ながら身元を保証するものは持っていない。

「ならばこの木札を持ち列に並べ。あとは門兵の指示に従うように」
 そう言うと衛兵は後方からきた馬車に駆け寄って行った。随分忙しそうだ。ちなみに木札には68と書かれていた。

 検問の列は物々しい雰囲気に満ちていた。
 
「おい、まだかよ!」
「いい加減にしろ! いつまで待たせるんだよ!」
「早くしろ!」

 列の最後尾に馬車をつけると、そこかしこから怒号や罵詈雑言が挙がっている。

 
「何かあったんですか?」
 気になって、僕の前にいた商人らしきおじさんに話しかける。
 
「ああ? 兄ちゃん知らねえのかい? 何でもどっかの街に魔物の群れが現れたらしくってな、衛兵のほとんどが難民の対応に追われていて検問が進まねえのさ。たく、困ったものだ」
 待ちくたびれたのか呆れたように呟く商人。
 
「そうなんですね……」

 魔物の群れ、か。襲われた街は不憫だ。

 難民がフリーユの街にきているってことは案外近くの街だったりして。

 でも今頃、王都から討伐隊が編成されて駆除作業をしていることだろう。

 僕は大人しく検問を待つことにする。怒鳴ったところで体力を消耗するだけだ。

「遅い……」

 それにしても中々進まない。後続から続々人が来るのに検問が追いつかないから列は長くなる一方だ。

担当の門兵は何をしているのだろう。
検問ってこんなに時間のかかることなのかな。
 
 ぐぅ…。

「ん?」
 いつの間にかシフォンが隣に座り、お腹から可愛らしい音を鳴らしていた。

誤魔化そうとしているのかあわあわしている。

「そういえばシフォンは起きてから何も食べていなかったね。ちょっと待ってね」
 荷台に干し肉があったはずだ。街に着くまでこれで我慢してもらおう。

「これしかないけど、はい」

「あっ……だ、大丈夫です。我慢できます、です」
 最後の干し肉をシフォンに渡すが、遠慮してるのかシフォンは受け取らない。お腹の音だけが正直だ。

「でもお腹鳴ってるよ?」

「こ、これはっ! 唸り声なのです! グルるるるっ」

「え、でも……」

「し、師匠の前でボクだけ食べるのは駄目、です! 弟子失格です!」

 シフォンは顔をブンブン横に振る。これでは僕が何を言っても食べないだろう。

 参ったな、と頬をかく。
 誰の目から見ても強がりだとわかる。
 お腹の音、じゃなかった、唸り声が先ほどから絶えず鳴っているのだ。

 それに目がチラチラ干し肉に吸い寄せられているし。
 
 大食いのシフォンのことだ。ここに来るまでに相当我慢したんだろう。
 これ以上我慢させるのは酷な話だ。
 
 どうしたものか。
 
 ……そうだ!
 
 妙案を思いついた僕は、干し肉を二つにちぎり大きい方をシフォンに渡した。
 
「はい。僕も食べるからシフォンも食べること。いいね?」
 
 ちぎった片割れを口に入れ嚥下する。

 これでシフォンは心置きなく食べれるはずだ。
 ポカンと見ていたシフォンだったが、途端に顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
 
「あ、ありがとうです……師匠」
「どういたしまして」
 
 ーー何だ?
 僕はこちらに向けられる視線に気がつく。
 
 見ると、商人のおっさんがニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。目が合うとサムズアップを向けてくる。

 ……なんなんだ。
 
 「若いっていいねえ」
 
 急に居心地が悪くなる僕だった。
 
 
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ここからまた一日おきの更新に戻りそうです。その代わり分量が長くなる感じです。
この作品も5万文字を超えました。
今後ともよろしくお願いします。
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