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第四章 聖女編
52 アリスは聖女でした?
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「アリス様の病因。それは魔力欠乏です」
緊張感漂う中、魔女は言った。
まりょくけつぼう?
なにそれ。
隣に座るカレンを見ると、彼女も知らないようだった。
商人のおじさんも首を傾げている。いや、あんたもか。
少なくとも一般常識ではないようでほっとする。
僕だけ知らなかったらどうしようと思った。
「なんですかそれ?」
代表して聞く。
「魔力欠乏は、魔力を扱う職業特有の病気です。簡単に言いますと魔力の使いすぎです」
「それは意識がなくなるほど重大なものなんですか」
魔力の使いすぎで、アリスのようになるのだろうか。
「アレク様は体力に自信はおありですか?」
「え? まあ多少はありますけど」
「では、永遠と走り続けることはできますか?」
なぜそうなるんだ。
「走れるわけないじゃないですか。途中で限界が来ます」
「いやあ、兄ちゃんなら案外【限界突破】で走れそうだけどな」
僕の返答に商人のおじさんが茶々を入れてくる。
あなたは黙っていてください。
それに現状、【限界突破】は任意で出せるスキルじゃない。
僕自身、発動条件がわかっていないのだ。
「夫の言葉は聞かなかったことにしていただいて……魔力も同じなのです。わたくし達、魔法を扱う者にとって魔力は欠かせません。しかし魔力は、個人差がありますが決して無限ではないのです。一度に大量に使えば疲れますし、少しずつでも休まず使い続ければ疲れます。魔力とはそういうものです」
「……なるほど」
魔力がどういうものなのか魔法スキルを持たない僕には正確には分からない。しかし体力に置き換えて考えてみれば多少は理解できた。
「先ほどアレク様は、走ることには限界が来るとおっしゃいましたね。では、その限界を超えてもなお走り続けたらどうなりますか?」
うーん、難しい質問だ。
「やったことはないですけど体にガタがきて動けなくなるんじゃないですか?」
走りたい気持ちはあっても、先に体が言うことを聞かなくなりそうだ。
「あ、そうか」
そこまで思考を巡らせて僕は魔女が何を言いたいのか理解した。
魔力は体力と同じ。
なら、魔力も無理して酷使すればどこかしら体に異変が生じるんじゃないか?
それこそ体が動かなくなったり意識を失ったりするほどの。
魔女は頷く。
「アリス様は自身の魔力を短期間で、かつ大量に消費したのです。ゆえに魔力枯渇に陥り、意識を失っているのだと思われます」
確かアリスのユニークスキルに魔法スキルがあったはずだ。
【聖女の治癒魔法】だったか。
どういう効果なのか知らないが、アリスはそれを自分の魔力がなくなる限界まで発動した。
そして魔力欠乏になった、と。
あれ?
でもアリスが意識を失ったのは、僕を庇って盗賊に重傷を負わされたからだよね。
魔力欠乏になって意識を失ったという魔女の説明には矛盾が生じる。
「いつアリスは魔力欠乏になったんですか?」
「アレク様の話から推察するに、アリス様が自分自身を治癒した時でしょうね」
ん?
今なんて?
「アリスが自分を治癒した? いつですか? そもそも、アリスにそんな力があったんですか?」
困惑する僕を見て、魔女は両手を打ち鳴らした。
「そうでした。アリス様のスキルを説明しなければなりませんでしたね」
魔女はおもむろに先ほど書斎から取ってきた書物を広げる。
「勇者ブレイブはご存知ですか?」
「は、はい。魔の王グラディウスを倒した英雄ですよね」
なんの話かと思えば、誰でも知っている有名な伝承だ。
遥か昔、かつて世界は漆黒の闇に覆われていた。
しかしある時、神に選ばれし勇者ブレイブが、魔の王グラディウスを討ち倒した。
すると世界から闇が取り払われ世界に平和が訪れたという話だ。
なんてことはない。
ありふれた伝承の一つだ。
「それが何か?」
「実は、勇者ブレイブには三人の仲間がいたと伝えられているのです。そのうちの一人、それが聖女マナティなのです」
初耳だった。
でもどこか聞き覚えがあると思ったら、アリスのスキル名に聖女という単語がある。
「マナティ様はどういう方なんですか?」
「不死身だったと記されております。また生と死を司り、死者さえも生き返らせたようです」
「それは……なんというか」
化け物だ。死者を生き返らせるなんて正気じゃない。
「アリス様のユニークスキルに聖女と付いてあるように、アリス様には聖女マナティと同様の力があるのではないでしょうか」
「アリスは聖女だと?」
確かに聖女のようだとは思っていたよ?
でもそれは可憐とか綺麗という意味での聖女であって、別に死者を生き返らせる化け物になってほしいわけではない。
「今はまだ何とも言えません。もしかしたら聖女かも知れませんし、聖女ではないのかも知れません。それは成人の儀に自ずと分かることでしょう」
それもそうか。
職業に聖女を授かれば聖女だし、授からなければ聖女じゃない。
できれば聖女ではないことを祈ろう。
『お兄さま、死んだお爺さまを生き返らせました!』とか言われたら怖くて眠れない。
「アリスのスキルは、具体的にはどんな力なんですか?」
「わたくしの推測ですが……」
魔女は三つすべてのスキルを説明してくれた。
推測とはいうけれど、ある程度確証があるようだった。
まず【聖女の治癒魔法】だが、これは治癒魔法とある通り魔法の一種だそうだ。効果は不明らしい。すでに確認されている【治癒術師】の【治癒魔法】が近いから、その上位互換ではないかと言っていた。ただし治癒魔法の時点で切り落とされた腕を生やしたり欠けた骨を再生したりと相当の効力があるようなので、もしかしたら死者も生き返るかもしれませんね、と言われてゾッとした。冗談だよね?
次に【聖女の加護】。
加護は、特定の属性を強化するスキルらしい。例えば水の加護なら水属性が強化され、風の加護なら風属性が強化されるといった感じだ。魔法使いに良く見られるスキルのようだ。
『【聖女の加護】は何が強化されるんですか?』
『そうですね……聖女属性でしょうか』
『なんて?』
『聖女らしさが強化されるんじゃないでしょうか? 美しい体になったりとかですね』
『冗談ですよね』
『さあ……?』
魔女も良くわかっていないようだった。保留である。
最後の【自動治癒】。これも魔法スキルらしく、体内の魔力を使い少しずつ傷を癒すスキルのようだ。治癒魔法とは異なり他者には使用出来ないとのこと。それと魔力の消費量が少ない分、傷が癒えるにも長い時間がかかるそうだ。
三つすべての説明を聞き終わっても、僕には理解できないことがあった。
「やっぱり、アリスがスキルを使ったタイミングがわからないですね」
「では、アリス様の身に起きたことを時系列順に考えてみましょうか」
「お願いします」
魔女は優雅な所作で人差し指を立てた。
「まず【聖女の治癒魔法】を使ったタイミングは明白です。アリス様が満身創痍のあなたを盗賊から庇う寸前ですね。その瞬間に自身にありったけの治癒魔法を施し、致命傷を受けても死だけは免れるようにしたのでしょう」
「……あ、なるほど」
あのとき重傷を負ってもアリスが生きながらえたのは僕の医術スキルの力ではなくアリス自身の力だったのか。
「その時、アリス様は大部分の魔力を失うことになりました。魔力欠乏に近い状態だったのではないでしょうか」
「意識がなかったのはそのせいですか」
「いいえ、この時点ではまだ朦朧とではありますが意識はあったと思われます。しかしそれも長くはもちませんでした」
僕がアリスが死んだと勘違いした時かな?
「アリス様にとって予想外だったのは、思いの外、負った傷が深く全てを癒すのが困難だったことです。魔法は、魔力を消費した分だけ効力を発揮します。しかしアリス様はすでに大部分の魔力を消費していました。追加で【聖女の治癒魔法】は使えない状態でした。そこで残された僅かな魔力を【自動治癒】に当てたのです。自動治癒は消費魔力は少ないですから」
そうか。
アリスは完全に意識を失う前に、【自動治癒】に切り替えたんだ。
自動治癒は勝手に治癒を施すから意識がなくても機能する。
「【自動治癒】に魔力を使ったことで、完全に魔力が空になった。魔力欠乏になったんですね」
「ご明察です。【自動治癒】は傷が癒えるのに時間を用します。アリス様の体内では、ゆっくりと、しかし着実に傷が癒えていきました」
傷は治っているのに意識を取り戻さなかったのはそのせいか。
街の医者に見せた時には完全に治癒された状態だった。壊された臓器や組織も全て。だから医者は健康と判断した。
「でも、アリスが衰弱する様子がないのはなんでですか?」
「わたくしも不思議でしたが、最後のスキルの効果としか考えられません」
最後のスキル?
そうか!
「【聖女の加護】か! ……あれ? さっき聖女らしさが上がるスキルとか何とか言ってませんでした?」
「ふふ、あれは冗談ですよ」
「じゃあどんなスキルなんですか?」
「わかりません」
「そうですか」
「はい」
効果は不明。
ただ、【聖女の加護】の効果としか説明が付かないのだろう。
難しく考えても無駄だ。
そういうものだと思っておこう。
「そっか……」
ともかくだ。
ようやくである。
ようやく真相に辿り着けた。
医者に匙を投げられ、原因不明と言われていた病の正体が判明したのだ。
原因がわかれば対処のしようはある!
僕は綻びそうになる口元を抑えながら、魔女に懇願した。
「お願いです、魔女様。魔力欠乏の治療法を教えてください!」
床に手をつき頭を下げる。
この街に来て土下座をするのはこれで何回目だろう。
でも今回のは本気の土下座だ。
土下座のプロであるソフィアにも負けない自信がある。
「そんな、お辞めになってくださいアレク様。もとよりお教えするつもりでしたので」
珍しく魔女が狼狽えていた。
「本当ですか!?」
「当然です。夫の恩人を騙すようなことは致しません」
「そうだぜ、兄ちゃん。今でもオラは感謝してるんだからよ」
「!」
僕は二人の優しさに目頭が熱くなった。
「実は魔力欠乏を治すのは容易なのです。魔力が枯渇しているのですから、魔力ポーションで回復してあげればいいのです」
「ポーションは屋敷にありますか!?」
「え、ええ」
よし!
僕は立ち上がり早速探しに行こうと動き出す。
が、カレンに袖を引かれやむなく静止することとなった。
「離して、カレン。僕は忙しいんだ」
「魔女様の顔をよく見なさい。まだ話は終わってないわよ」
「え?」
目が合うと魔女は少しだけ微笑んだ。
「お気持ちは察します。しかしどうかお待ちください。魔力欠乏には症状の度合いがあるのです」
「度合い?」
「重度、中度、軽度と大まかに区分されています」
……嫌な予感がした。
「アリス様の魔力欠乏の症状は重度。深刻です」
「な、治らないってことですか」
見えていた光明が突然深い闇に閉ざされたようだった。
「市販のポーションでは、そうです」
「つまり治す方法はあるってことですね!」
僕は次の言葉を待つ。
しかし魔女は躊躇いをみせた。
知恵を授けるのを渋っているわけではないだろう。
僕を慮っての躊躇に思えた。
「大丈夫ですよ。どんな方法だろうと、僕はあなたを恨みません。覚悟はあります」
「覚悟の上ならばわたくしも何も言いません。お教えします」
ごくりと喉が鳴る。
「万能薬。それが唯一アリス様を救える手です」
緊張感漂う中、魔女は言った。
まりょくけつぼう?
なにそれ。
隣に座るカレンを見ると、彼女も知らないようだった。
商人のおじさんも首を傾げている。いや、あんたもか。
少なくとも一般常識ではないようでほっとする。
僕だけ知らなかったらどうしようと思った。
「なんですかそれ?」
代表して聞く。
「魔力欠乏は、魔力を扱う職業特有の病気です。簡単に言いますと魔力の使いすぎです」
「それは意識がなくなるほど重大なものなんですか」
魔力の使いすぎで、アリスのようになるのだろうか。
「アレク様は体力に自信はおありですか?」
「え? まあ多少はありますけど」
「では、永遠と走り続けることはできますか?」
なぜそうなるんだ。
「走れるわけないじゃないですか。途中で限界が来ます」
「いやあ、兄ちゃんなら案外【限界突破】で走れそうだけどな」
僕の返答に商人のおじさんが茶々を入れてくる。
あなたは黙っていてください。
それに現状、【限界突破】は任意で出せるスキルじゃない。
僕自身、発動条件がわかっていないのだ。
「夫の言葉は聞かなかったことにしていただいて……魔力も同じなのです。わたくし達、魔法を扱う者にとって魔力は欠かせません。しかし魔力は、個人差がありますが決して無限ではないのです。一度に大量に使えば疲れますし、少しずつでも休まず使い続ければ疲れます。魔力とはそういうものです」
「……なるほど」
魔力がどういうものなのか魔法スキルを持たない僕には正確には分からない。しかし体力に置き換えて考えてみれば多少は理解できた。
「先ほどアレク様は、走ることには限界が来るとおっしゃいましたね。では、その限界を超えてもなお走り続けたらどうなりますか?」
うーん、難しい質問だ。
「やったことはないですけど体にガタがきて動けなくなるんじゃないですか?」
走りたい気持ちはあっても、先に体が言うことを聞かなくなりそうだ。
「あ、そうか」
そこまで思考を巡らせて僕は魔女が何を言いたいのか理解した。
魔力は体力と同じ。
なら、魔力も無理して酷使すればどこかしら体に異変が生じるんじゃないか?
それこそ体が動かなくなったり意識を失ったりするほどの。
魔女は頷く。
「アリス様は自身の魔力を短期間で、かつ大量に消費したのです。ゆえに魔力枯渇に陥り、意識を失っているのだと思われます」
確かアリスのユニークスキルに魔法スキルがあったはずだ。
【聖女の治癒魔法】だったか。
どういう効果なのか知らないが、アリスはそれを自分の魔力がなくなる限界まで発動した。
そして魔力欠乏になった、と。
あれ?
でもアリスが意識を失ったのは、僕を庇って盗賊に重傷を負わされたからだよね。
魔力欠乏になって意識を失ったという魔女の説明には矛盾が生じる。
「いつアリスは魔力欠乏になったんですか?」
「アレク様の話から推察するに、アリス様が自分自身を治癒した時でしょうね」
ん?
今なんて?
「アリスが自分を治癒した? いつですか? そもそも、アリスにそんな力があったんですか?」
困惑する僕を見て、魔女は両手を打ち鳴らした。
「そうでした。アリス様のスキルを説明しなければなりませんでしたね」
魔女はおもむろに先ほど書斎から取ってきた書物を広げる。
「勇者ブレイブはご存知ですか?」
「は、はい。魔の王グラディウスを倒した英雄ですよね」
なんの話かと思えば、誰でも知っている有名な伝承だ。
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すると世界から闇が取り払われ世界に平和が訪れたという話だ。
なんてことはない。
ありふれた伝承の一つだ。
「それが何か?」
「実は、勇者ブレイブには三人の仲間がいたと伝えられているのです。そのうちの一人、それが聖女マナティなのです」
初耳だった。
でもどこか聞き覚えがあると思ったら、アリスのスキル名に聖女という単語がある。
「マナティ様はどういう方なんですか?」
「不死身だったと記されております。また生と死を司り、死者さえも生き返らせたようです」
「それは……なんというか」
化け物だ。死者を生き返らせるなんて正気じゃない。
「アリス様のユニークスキルに聖女と付いてあるように、アリス様には聖女マナティと同様の力があるのではないでしょうか」
「アリスは聖女だと?」
確かに聖女のようだとは思っていたよ?
でもそれは可憐とか綺麗という意味での聖女であって、別に死者を生き返らせる化け物になってほしいわけではない。
「今はまだ何とも言えません。もしかしたら聖女かも知れませんし、聖女ではないのかも知れません。それは成人の儀に自ずと分かることでしょう」
それもそうか。
職業に聖女を授かれば聖女だし、授からなければ聖女じゃない。
できれば聖女ではないことを祈ろう。
『お兄さま、死んだお爺さまを生き返らせました!』とか言われたら怖くて眠れない。
「アリスのスキルは、具体的にはどんな力なんですか?」
「わたくしの推測ですが……」
魔女は三つすべてのスキルを説明してくれた。
推測とはいうけれど、ある程度確証があるようだった。
まず【聖女の治癒魔法】だが、これは治癒魔法とある通り魔法の一種だそうだ。効果は不明らしい。すでに確認されている【治癒術師】の【治癒魔法】が近いから、その上位互換ではないかと言っていた。ただし治癒魔法の時点で切り落とされた腕を生やしたり欠けた骨を再生したりと相当の効力があるようなので、もしかしたら死者も生き返るかもしれませんね、と言われてゾッとした。冗談だよね?
次に【聖女の加護】。
加護は、特定の属性を強化するスキルらしい。例えば水の加護なら水属性が強化され、風の加護なら風属性が強化されるといった感じだ。魔法使いに良く見られるスキルのようだ。
『【聖女の加護】は何が強化されるんですか?』
『そうですね……聖女属性でしょうか』
『なんて?』
『聖女らしさが強化されるんじゃないでしょうか? 美しい体になったりとかですね』
『冗談ですよね』
『さあ……?』
魔女も良くわかっていないようだった。保留である。
最後の【自動治癒】。これも魔法スキルらしく、体内の魔力を使い少しずつ傷を癒すスキルのようだ。治癒魔法とは異なり他者には使用出来ないとのこと。それと魔力の消費量が少ない分、傷が癒えるにも長い時間がかかるそうだ。
三つすべての説明を聞き終わっても、僕には理解できないことがあった。
「やっぱり、アリスがスキルを使ったタイミングがわからないですね」
「では、アリス様の身に起きたことを時系列順に考えてみましょうか」
「お願いします」
魔女は優雅な所作で人差し指を立てた。
「まず【聖女の治癒魔法】を使ったタイミングは明白です。アリス様が満身創痍のあなたを盗賊から庇う寸前ですね。その瞬間に自身にありったけの治癒魔法を施し、致命傷を受けても死だけは免れるようにしたのでしょう」
「……あ、なるほど」
あのとき重傷を負ってもアリスが生きながらえたのは僕の医術スキルの力ではなくアリス自身の力だったのか。
「その時、アリス様は大部分の魔力を失うことになりました。魔力欠乏に近い状態だったのではないでしょうか」
「意識がなかったのはそのせいですか」
「いいえ、この時点ではまだ朦朧とではありますが意識はあったと思われます。しかしそれも長くはもちませんでした」
僕がアリスが死んだと勘違いした時かな?
「アリス様にとって予想外だったのは、思いの外、負った傷が深く全てを癒すのが困難だったことです。魔法は、魔力を消費した分だけ効力を発揮します。しかしアリス様はすでに大部分の魔力を消費していました。追加で【聖女の治癒魔法】は使えない状態でした。そこで残された僅かな魔力を【自動治癒】に当てたのです。自動治癒は消費魔力は少ないですから」
そうか。
アリスは完全に意識を失う前に、【自動治癒】に切り替えたんだ。
自動治癒は勝手に治癒を施すから意識がなくても機能する。
「【自動治癒】に魔力を使ったことで、完全に魔力が空になった。魔力欠乏になったんですね」
「ご明察です。【自動治癒】は傷が癒えるのに時間を用します。アリス様の体内では、ゆっくりと、しかし着実に傷が癒えていきました」
傷は治っているのに意識を取り戻さなかったのはそのせいか。
街の医者に見せた時には完全に治癒された状態だった。壊された臓器や組織も全て。だから医者は健康と判断した。
「でも、アリスが衰弱する様子がないのはなんでですか?」
「わたくしも不思議でしたが、最後のスキルの効果としか考えられません」
最後のスキル?
そうか!
「【聖女の加護】か! ……あれ? さっき聖女らしさが上がるスキルとか何とか言ってませんでした?」
「ふふ、あれは冗談ですよ」
「じゃあどんなスキルなんですか?」
「わかりません」
「そうですか」
「はい」
効果は不明。
ただ、【聖女の加護】の効果としか説明が付かないのだろう。
難しく考えても無駄だ。
そういうものだと思っておこう。
「そっか……」
ともかくだ。
ようやくである。
ようやく真相に辿り着けた。
医者に匙を投げられ、原因不明と言われていた病の正体が判明したのだ。
原因がわかれば対処のしようはある!
僕は綻びそうになる口元を抑えながら、魔女に懇願した。
「お願いです、魔女様。魔力欠乏の治療法を教えてください!」
床に手をつき頭を下げる。
この街に来て土下座をするのはこれで何回目だろう。
でも今回のは本気の土下座だ。
土下座のプロであるソフィアにも負けない自信がある。
「そんな、お辞めになってくださいアレク様。もとよりお教えするつもりでしたので」
珍しく魔女が狼狽えていた。
「本当ですか!?」
「当然です。夫の恩人を騙すようなことは致しません」
「そうだぜ、兄ちゃん。今でもオラは感謝してるんだからよ」
「!」
僕は二人の優しさに目頭が熱くなった。
「実は魔力欠乏を治すのは容易なのです。魔力が枯渇しているのですから、魔力ポーションで回復してあげればいいのです」
「ポーションは屋敷にありますか!?」
「え、ええ」
よし!
僕は立ち上がり早速探しに行こうと動き出す。
が、カレンに袖を引かれやむなく静止することとなった。
「離して、カレン。僕は忙しいんだ」
「魔女様の顔をよく見なさい。まだ話は終わってないわよ」
「え?」
目が合うと魔女は少しだけ微笑んだ。
「お気持ちは察します。しかしどうかお待ちください。魔力欠乏には症状の度合いがあるのです」
「度合い?」
「重度、中度、軽度と大まかに区分されています」
……嫌な予感がした。
「アリス様の魔力欠乏の症状は重度。深刻です」
「な、治らないってことですか」
見えていた光明が突然深い闇に閉ざされたようだった。
「市販のポーションでは、そうです」
「つまり治す方法はあるってことですね!」
僕は次の言葉を待つ。
しかし魔女は躊躇いをみせた。
知恵を授けるのを渋っているわけではないだろう。
僕を慮っての躊躇に思えた。
「大丈夫ですよ。どんな方法だろうと、僕はあなたを恨みません。覚悟はあります」
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