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特別話Ⅱ 花冠
しおりを挟む城の裏の庭園に、色とりどりの花が咲き始めていた。
白や薄紅の花びらが、春風にゆらりと揺れる。
「もう春でございますね。」
侍女クララが柔らかく微笑む。
セリーナは風にそよぐ髪を押さえながら、空を見上げた。
(誘拐される前は……一年がすごく長く感じた。)
(でも今は……)
「一年が早く感じます。」
庭園の奥、草原に広がる白い小花。
その光景に、セリーナは足を止めた。
(シロツメクサ……)
あの時、渡せなかった花冠。
言葉にできなかった想いは、季節と共にしぼんでいった。
でも――今なら、もう一度編める気がする。
「クララ。籠を持ってきてくれますか?」
「籠ですか?」
「はい。花冠を……久しぶりに作りたくなりました。」
「わかりました。」
(もう一度……お父様に……)
セリーナはスカートの裾を軽くつまみ、白い花々の間に膝をついた。
春の陽光がその髪に降り注ぎ、淡く金色の光がきらめく。
手のひらでそっと茎を折り、指先で編み込んでいく。
(作るのは久しぶりだけど……)
淡い香りと共に、ひとつ、またひとつ。
シロツメクサの輪が形になっていく。
(できた……思ったより時間、かかっちゃった。)
花冠を胸に抱え、セリーナは小さく息をついた。
――夕刻。
ナビル王私室。
扉の前で、セリーナは小さく深呼吸をした。
コンコン。
「セリーナです。」
「入れ。」
重厚な扉が静かに開く。
セリーナは花冠を後ろに隠し、そっと進み出た。
「どうした?」
「これを……お父様に……」
セリーナは両手で花冠を差し出した。
白い花々の間から、春の香りがふわりと漂う。
「私のために作ってくれたのか?」
「はい……。」
ナビル王はしばらく黙したあと、穏やかに微笑んだ。
「そうか……では……載せてもらおう。」
ナビル王は静かにひざまずいた。
その姿を見て、セリーナの瞳が揺れる。
そっと、花冠を王の頭に載せた。
「似合うか?」
「はい。とっても。」
セリーナが笑顔を浮かべる。
ナビル王の頬も、わずかに緩んだ。
「ありがとう。セリーナ。」
そのまま、王は娘を抱きしめた。
セリーナは父の胸の中で目を閉じる。
(あの時と……今は違う……)
(今は……とても幸せ……)
春の風が、窓の外のカーテンをやさしく揺らした。
花冠の白が、夕陽の中で金に染まる。
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