王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~

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過去編 「プリシア編 シーラの誕生日前編」

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とある日のラスの村 ― 朝

井戸の滑車が きぃ と鳴り、薪の匂いが朝の冷気に混じる。小鳥の声が屋根の上から降ってきて、静かな村にやわらかい光が差し込んでいた。

「ふん、ふふーん♪」

ご機嫌で洗濯物を干すプリシア。足取りも軽く、晴れた空みたいな笑顔。

「おはようプリシア」

「あ、コビー。おはよ」

「どうしたんだい? 朝から機嫌良さそうだけど?」

「ふふっ。わかる? わかっちゃう?」

プリシアは胸の前で指をちょんと合わせて、にひっと笑った。

「うん。わかる。」

「知りたい?」

「うん。知りたい。」

「ふふふっ。」

「今日はね…お母さんの誕生日なんだ!」

ぱぁっと花が咲いたように明るく言う。

「シーラさんの…」

「そう!」

「そして…私が夜に夕飯作るんだ。」

「プリシアが?」

「うん。まぁ…作ったことないんだけどね…」

「でもお母さんの作ってるところずっと見てきたからなんとかなる!」

気合いが全身から湯気みたいに立っている。

「お母さんのよろこぶ顔がみえてきちゃった…」

プリシアがニヤける。

「……ねぇプリシア。」

「ん?」

「僕が教えようか? 料理。」

「え…教えてくれるの?」

「うん。どうせなら真似じゃなくて “プリシアの気持ちを込めたプリシアだけの料理”。」

「私だけ?」

「うん。何種類も作るよりひとつ、“プリシアだけの料理”をね。」

「うん……なるほど……」

「じゃあ……お願いしてもいい?」

「ふふ。いいよ。教えてあげるから家事終わったら僕の家に来て。」

「ありがとう! コビー大好き!」

勢いよく抱きつくプリシア。コビーが少しよろける。

「おぉっと!」

「あ……お母さんには内緒だよ?」

プリシアが“シー”の仕草。

「もちろん。シーラさんの喜ぶ顔が浮かぶね。」

「でしょ? だよね?」

「プリシアが作ったの? ありがとうプリシア…絶対言う…」

妄想が爆発してニヤけるプリシア。

「ふふ。そうだね。」

「必要な食材は僕が用意するよ。」

「僕からシーラさんへのプレゼントもかねて。」

「ありがとう…コビー。」

小さな共犯者たちは、声も足どりもふわふわ軽かった。

午後 ― コビーの家

窓から差し込む陽が、木のテーブルの上で淡く揺れる。煮込み用の大鍋、切りかけの野菜、乾いた川魚の干物が整然と並んでいる。

サク…サク…サク…

「そうそう…均等になるように。」

トン…トン…トン…

「慌てないでいいからね。」

「……うん……」

真剣なプリシア。眉尻まで集中している。

「野菜ぜんぶ切れたよ。」

「……うん。ばっちりだね。」

「じゃあ次は鍋に入れる。」

「はい。」

バチャバチャッ

「あっつ!」

「あ、大丈夫!?」

「うん…少しはねただけだから。」

コビーがプリシアの腕をそっと掴む。赤みを確認すると、すぐに桶の水へ導く。

「少し冷やそう。」

「大丈夫だよ……」

「ダメ。火傷したらあとから痛くなるから。」

「……うん……。」

冷たい水に触れたあと、コビーの指の体温がじんわり戻す。その優しさにプリシアの表情も少し緩む。

「一気に入れたらお湯がはねるからね。ゆっくり入れてあげて。」

「うん……気を付けるよ。」

そんなプリシアを見て、コビーはふっと優しく笑った。

「うん…もう大丈夫そうかな?」

「痛くはない?」

「うん…痛くない。」

「ふふっ。よかった。じゃあ続きやろうか。」

グツグツグツ……

鍋から立ちのぼる湯気が、夕方の光に淡く溶けていく。

「まず塩を入れる。」

「うん…」

パッパッ

「そして…僕特製スパイス…」

コビーが棚を開けると、そこには30種類はあるだろう小瓶がずらり。

「シーラさんは辛いの苦手だったよね?」

「うん。」

「じゃあ…これと、これ……。あとこれかな……」

三種類を選び、プリシアに渡す。

「おぉ…何これ…」

「ハーブ二つ、ブラックペッパーだよ。」

「魚は干物を使うから、それで味は整う。」

「そうなんだ……」

カチャカチャ…

プリシアはブラックペッパーの蓋を開け、くんくん……

「へ……へっくしょん!!」

ぶわぁっ!!

ブラックペッパーの粉が光を受けて舞い上がり、まるで紙吹雪になって散った。

「うわっ!」

「プリシア、ダメだよ!」

「うぁ…ご…ごめ…へっくしょん!!」

大惨事。だけどなぜか笑えてくる温かさがあった。

なんとかプリシア特製・魚の煮込み料理が完成する。

「おぉ……すごい…美味しそう……」

コビーが器に分ける。湯気とともに、川魚とハーブの香りが部屋を満たす。

「ふふっ。じゃあ味見てみようか。」

「うん。いただきます…」

ふぅー……ぱくっ

「…どう?」

もぐもぐ……

「んー…おいしい!」

プリシアの笑顔がぱっと咲く。

「よかった。じゃあ僕も…」

ひと口食べ、コビーは穏やかに頷く。

「…うん…塩加減もちょうどいい。」

「少しブラックペッパー強いから一振り減らせばちょうどよくなる。」

「あと…野菜類もう少し大きく切って…」

もぐもぐ。プリシアは完全に食事へ意識が飛んでいる。

「…プリシア聞いてる?」

「ん? どうしたの?」

「聞いてないね?」

「?」

「食べ終わってから話すよ。おかわりあるからね。」

「あ、うん。ありがとう。」

(ふふ。プリシアは見ててあきないな……)

日が傾く。土鍋は布で包み、秘密は胸に。
――あとは、夜の“おめでとう”だけ。

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