幽霊作家

のーまじん

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   向井は講義でもするように話し始めた。それを文月はメモを取る。
   まずは、この話にはモデルななった何か
   例えば『真赤な革の綴り』などが実在する可能性。
   そして、所々、竹溝先生に宛てたような文面がある事。
   何と無く、乱歩、竹溝の実際の事柄のようなエピソードがある事。
  などを向井が指摘して行く。

    ここに来て疑問なのが祖父江と岩井の出身地だ。
    岩井は大阪にいるらしいし、祖父江と言われると、何と無く愛知のあたりを思わせる。
    そんな2人の思い出の『魔法メガネ』の下りがあるが、向井と文月は自分達を例に、こんな甘いエピソード、頑張っても少年時代の事柄ではないかと想像した。
    が、そう考えると、このエピソードが箱根が舞台なのが気にかかる。
    確かに、箱根といえば、一昔前に登山列車が開通して賑わってるし、修学旅行や社員旅行でも人気もあるが、関西圏の学生が来るのは稀なような気がした。
    これは、乱歩・竹溝の個人的な思い出ではないかと想像する。
    
     文月は少し不満ではあった。いい歳の日本男児が魔法メガネごときで「怖い」などど言いながら借りたメガネを放り出したりするだろうか?
    どちらかと言うと、こう言うのは男女のやりとりのように思えた、が、箱根は憧れの新婚旅行先でもあるのでさっちゃんと絡めて、からかわれるのが嫌なので口にはしなかった。

  なにはともあれ、祖父江の手紙のはじめの部分は、竹溝先生へのメッセージだと推理した。そして、乱歩・竹溝2人で昔のように探偵ごっこをしようと持ちかけてると判断した。
    そう考えると、殺人があって、しかも自分が目撃者なのに推理ごっこをしようと持ちかける祖父江の行動が納得できる。
   
    「状況を考えると、『悪霊』は中長編予定で、途中で竹溝先生とバトンタッチする予定だったと思うんだ。」
向井の言葉に文月は頷いた。
「確かに、連載枠を欲していたのは竹溝先生の方でしょうから。でも、そんなに簡単に共作なんて可能なんでしょうか?」
文月は自分の気持ちも乗せて向井に聞いた。
「普通は難しいと思うよ。だから、手紙文で世界観をボカしたんだと思うよ。僕たちもさっきから、色々な話を考えられたじゃないか。」
と、向井に言われて文月は納得する。確かに乱歩節のような文章の癖があったら、他人が続きなんて難しい。
「そうですね。この形式なら、解決編を作中作者に岩井が送る手紙文とかで応酬できますから。それなら、文章の癖が違っても不自然ではないですから。」
文月はなんだか、本当にそんな風にこの話が作られていたような気持ちになって来た。
    そして、これが本当なら、江戸川乱歩と言う作家の柔軟すぎる発想力に脱帽する。

     「ああ、新しいよな。言わば、劇場型小説とでも言うのかな?親が作り出した世界で手紙文という作者が自由に物語を演じる事が可能なんだから。
    そして、その作者の数だけ結末があるんだ。そして、読者はあたかも、自分がその世界に迷い込んだ気持ちになるんだ。こんな物語の方式は、情報社会の20世紀じゃなきゃ生まれ得なかった新しい表現方法だと思う。
     そして、こんな、複数の結末を含むようなこんな話も、あと、100年もすれば、電信技術の発展で当たり前か、古い考えになっているのかもしれないぞ。」
向井は楽しい未来を思い高らかに笑った。
「複数の…結末…でも、1つの結末もつけずに失踪するんじゃ、何にもなりませんよね。」
文月はため息をつく。
「それは、あったと思う。最後の手段を考えてから事に当たったと僕は想像する。」
向井はそう言って、それは後で披露するといった。

    ここでは、祖父江の話をすすめることにした。
     乱歩先生が竹溝先生が回復して作者をバトンタッチすると想定する。
    そんな発想が可能だったのは、『赤い革の本』が
実在していて、何か現実の芯のある話だったからだと予想された。
   竹溝先生のネタ本を元に、世界観を乱歩先生が広げて行く。
    祖父江が、交霊会の仲間が亡くなって1カ月だと言うのに探偵ごごろが湧き上がる、心無い人物に見えるのは、竹溝先生とこの世界を楽しんでいる乱歩先生の心が漏れてるんだと仮定する。
 
  「ここで、ネタ本を考えるんだが、多分、実在する心霊研究家の手記か、何かだと思う。」
向井の言葉に文月が不思議な顔をする。
「西洋の、心霊者ではないのですか?確かSPRと言う団体は実在して確か、ドイルも会員だったと記憶してますが。」
「ああ、確かにSPR実在する団体だよ。でも、『悪霊』の交霊術とは違うし、矢絣の女の存在も変だ。」
自分の得意分野なので向井のコメントが辛辣さを増す。
「どう言う事ですか?今時、矢絣の着物の女は変だと小説でも書かれてるし、多分、黒川先生の変態趣味だと、僕は睨んでいたのですが。」
文月の言葉に向井は肩を落とす。
「いいや、あれは変態趣味ではなく、ドッペルゲンガーのような現象だと思う。」
「ど、どっぺるげんが?ですか???」
「ああ、いや、乱歩先生はエクトプラズムを間違えて描からたんだと思うのだけれどね。」
むかいは慌てながら訂正するが、文月にはチンプンカンプンであった。

    

 
    
    
   
   
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