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放射光
しおりを挟む「やりがいはともかく、では、これからどうしたら…サイエンスフィクションでも、なんでも…念動力はさすがに、推理小説では無理があると思うんです」
文月はため息をつく。この議論の結末は、結局ここにたどり着く。乱歩先生は本当に念動力を犯人にさずけたのだろうか?
「乱歩先生もこの辺りで迷われたんだろうな。でも、無理なのは念動力ではなく、物語の筋の方だと思う。現実を思い返したらいい。実際にそう言う事件は記録にあるんだよ。
SPRはインチキも暴いたが、心霊や超常現象の存在も白日のもとに晒して来たのだからね。長南(おさなみ)年恵(としえ)の事件を知ってるだろ?」
向井の言葉に明治時代の不思議な人物を思い出した。
長南年恵は、神水を使って人心を惑わした詐欺師として逮捕された。が、証拠不十分として無罪を勝ち取る。その時に色々と調べられたが、詐欺の証拠を警察も誰も発見できなかった。これは大阪の新聞社によって不思議な事件として取り上げられ、文月も紙芝居でそんな話を子供の頃に見た事を思い出した。
子供の頃は、そんな不思議を信じていた。が、いつの間にか忍者・児来也(じらいや)や服部半蔵などとともに忘れてしまった事柄だった。
「でも、あれらは、ほとんどがインチキだと言われていますよね?確か、福来博士も学会を追われたとか…」
文月の控えめな返しに向井は笑う。
「それでも、福来博士は研究を諦めてはいないんだ。昨年、月の裏側の念写実験に参加されている。誰が信じなかろうが『それでも地球は回ってる』のだよ。」
向井はガリレオの名言を持ち出すが、文月には刺さらなかった。
「そうだとして…どうそれを証明するのです?」
文月の言葉に向井は頭をかく。
「んー、そこで失敗したんだろうな、先生は。ミステリ作家はそう言うところが下手なんだよ。その上、乱歩先生は心霊学を信じてはいらっっしゃらない。」
「そんな事、どうして分かるんですか?」
文月はかみついた。が、向井は悠々と『悪霊』の原稿を見せる。
「先ずは、カタカナ言葉が多いところだね。これは、はじめに研究した人物の意向をくんだとも言えるが、普通、この手の理解が難しい言葉には、漢字で当て字をするだろう?
そして、龍ちゃんを『日本でたった一人のミディアム』なんて言いやしないよ。
日本にも古来、『口寄せ』や『審神者(さにわ)』をする人物が存在するのだから。
それに、『ミディアム』とは仲介者と言う意味で、霊媒師でいいはずんだ。
が、『日本でたった一人』言い切っていらっしゃる。」
向井の言葉に熱がこもる。
「でも、あれは…やはり、日本の霊媒師とは違う気がします。」
文月は向井から見せてもらったエクトプラズムの写真を思い出した。老婆が吐き出した人の顔の煙はなんだろう?思う出すだけで不気味な写真だった。
「それについても、『悪霊』ではえがかれているよ。」
と、向井が指差す原稿の文字に文月は驚いた。
書いてあった…
『エクト・プラスム…放射光』そう書いてある。
確かに、向井の説明を聞いてると、どこか違和感が漂う内容な気がした。
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