彩師 ある夏休みの物語

のーまじん

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月の光

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 遠くから、蛙の鳴く声がにわか雨のように聞こえてくる。
 私は、明日が早いと言い訳し、そして、居間に布団を敷いて2人で寝ていた。
 リネンの薄いカーテンから月明かりが忍んでくる。  オフタイマーをかけたCDがクラッシックを控えめに流し続ける。


 思えば、いつも貧乏くじばかりをひかされた。
 親は泣き叫ぶ妹を甘やかしていたし、その為に、私から色々なものを奪っていった。

 それは、キャンディーのような小さなものから、
 進学…あれは、丁度、不景気か悪天候かで、家が貧しかったのもあった。
 私は工場で働き、家に仕送りもした。
 母は、私の仕送りを貯金して、結婚資金にためると笑っていた。

 そして、数年後、頭の良い妹が国立大学に受かると、その金はそちらに流れた。

 まあ、ここまでは仕方ない。
 が、その後、大手商社に就職が決まり、一年もしないうちに、出来婚…さずかり婚とやらをしたときは、さすがにサラッと殺意が生まれた。

 妹は親から借りた学費をチャラにして貰い、その上、生活を親に援助してもらう。

 その時の子が、花純である。

 ドビッシーのピアノ曲が響く。
 『月の光』

 物悲しいその曲と共に、ドビッシーの人生が流れて行く。
 彼は恋多き男で、何度も結婚をしている。
 中でも、ロザリーという女性と結婚していた頃、彼は、裕福なエンマという女性と不倫関係になる。
 そして、思い悩んだロザリーはピストル自殺をはかる。
 一命はとりとめたものの、ドビッシーとロザリーは別れることになる。


 ロザリーは、この時、妊婦であった。


 ドビッシーの曲は…その美しい調べと共に、その影で傷ついた女性の涙をはらみ…永久にこの罪を問われ続ける。

 月の光…この曲のイメージに使われた詩の登場人物が歌うように
 人生は美しく…やさしく…それでいて、どことなく…物悲しいのだ。


 私は、妹を憎み、そして、妹に宿った命を呪った。
 その時の子が花純だ。

 月の光は美しく…
 そして、やさしく罪を思い出させる。

 やがて、花純の静かな寝息を耳に私も眠りについた。
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