オーデション〜リリース前

のーまじん

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パラサイト

池の伝説

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  女優…さんかぁ…(´ー`)

  私は、自分の隣を歩く女性にドキドキした。

  こんな気持ちは、高校時代、夜の自動販売機でオオミズアオが電気につられて張り付いているのを見かけて以来だ。
  オオミズアオは、蛾ではあるが、緑がかった白く美しい翅を持つ。
  大きなものは10cmはあり、蝶と違い、翅を閉じないので、闇夜の明かりにたたずむオオミズアオの美しさは、種名をギリシアの月の女神から頂くだけの貫禄がある。

  思わず見入り、そして、その存在に畏怖の感じと、危険を予感させ、動悸を誘う、あの独特の感覚を、私はレイの姿に思い出した。
  「すいません。モデルさんなのですね。」
私は言葉少なく謝る。
「あら、そんなに恐縮しないで。あれは冗談よ。テレビとか、あまり、出演しないもの。」
レイは、そう言って初夏の日差しを纏って笑う。
  その眩しさに私は目を細める。

  蛾は、基本、夜行性である。日差しの中のレイは、生物の理を逸脱しているような、危うげな美しさをしていた。
「いえ…私、あまりテレビを見ませんし、昆虫バカなんです。だから、私が知らなかったとしても気にしないで下さい。」
私は焦りながら、そんな事を早口で言った。
「んっ(^-^)昆虫バカ…ですか。
  夢中になるものがあるって、素敵ですね。」
レイはガラスの風鈴の音のような、涼やかな声でフォローしてくる。
「はぁ…なんですか、すいません。」
暑さと緊張で目眩がしそうになる。

  そんな私の気持ちなんて知らない風に、レイは舞うように池の周りを歩いて行く。

  私は、どうして良いのか混乱しながら、秋吉が本当にどうしたのか、少し腹をたてながら辺りを見回す。
  楽しみにしていた水辺の生物探索も出来そうにない。

「池上さんは、生物学者さんなのね?」
レイは素敵な者でも見るように私を見る。
「そんな上等な者ではありませんが…昆虫関係は少し詳しいかと。」
私は謙遜しながら笑った。
「そうですの?ふふっ。では、この池の伝説を調べにいらしたのかしら?」
レイはクスッ、と可愛らしく笑う。
「池の伝説…女性の幽霊が登場すると言うヤツですか?」
今回は、レイの笑顔は気にならなかった。それ以上に池の伝説が気になったのだ。
「ええ。この場所は、7年に一度、池上現れるらしいのです。
  そして、池には美しい女性の妖怪がいて、人を食らうのだそうです。」
「7年…ですか。」
私はショクダイオオコンニャクの事を思い出していた。
「そう、7年。幻の泉が生け贄を求めるそうです。」
レイの楽しそうな顔に私はギョッとする。
「嬉しそうですね?」
私は眉を潜めた。が、レイはそれすら楽しそうに、イタズラ娘のような甘い流し目を私に投げ掛ける。
「ええ。私、今日の番組で、妖怪の役をするんです。」
弾けるようにレイは笑い、私は、なにか失敗したような気持ちになる。
「すいません。ああ…もしかして、秋吉さんと競演される方ですか?」
赤面するのが自覚できた。
そうだ、こんな田舎にテレビ撮影やら、モデルが偶然集まるわけはない。
「競演……に、なるのかしら?私は離れたところに居ますから。」
レイの言葉が少し暗く感じる。
「はあ…。外で何かをするんですか?」
私の質問に、レイは甘い意地悪顔で答える。
「ええ。私、池の妖怪の役ですもの。ここでしばらく待機です。」
「ここ…って、池(ここ)ですか?しかも、夜ですよね?」
私は毒虫や蚊が飛びそうなこんな場所で、モデルさんが待機する事に驚いた。
「そうです。池です。」
レイは素直に同意する。
「スタッフは……もしかして、一人でここにいるのですか?」
私は屋敷の人数を思い出す。
  私、秋吉、長山、若葉、管理人。5人だけしかいない。
「ええ。そうです。サプライズを届けないといけませんもの。
  池上さんも、私の事を見たなんて言ってはダメですよ。」
レイはイタズラっぽく笑う。
  いい人だ( 〃▽〃)

  私の胸が高鳴った。

  こんな片田舎の照明の無い池に、夜一人で待機できる美人。
  そんなものが、本当に存在するとは思わなかった。
  ゲンゴロウより、希少なものを私は見ているようで胸が震える。

  彼女となら、昆虫採集を兼ねたキャンプとか、楽しいことが出来そうな気がした。
  そして、自分が忌避剤を作ってきたことを思い出した。
  スプレータイプの自慢の忌避剤。秋吉より今夜、レイさんの役にたつに違いなかった。

  「ちょっと、待ってくださいよ。」
私は肩にかけたトートバックを探り、虫の忌避剤を取り出すと、レイに渡そうと顔をあげた。

  え?(;゜∇゜)

  顔をあげた先には、誰も居なかった。
  生暖かい風が頬を撫で、日に照らされた土の道に草がサワサワと揺れていた。
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