オーデション〜リリース前

のーまじん

文字の大きさ
39 / 208
パラサイト

精霊トンボ

しおりを挟む
  食事を終え、私は一人、雅苗の書斎にいた。

  白昼夢なんて初めて見た。
  それはとてもリアルで美しい女性の幻覚だった。

  ボケた私の話を聞きながら、
「それは池の妖怪かも知れませんよ。」
と、秋吉はからかう。

  馬鹿馬鹿しいが、確かに、白昼夢の核として妖怪話があったものだと思う。

  草柳レイ。

  この名前も、知らないと私が思っているだけで、7年前にワイドショーで聞いていた可能性がある。

  ふと、朝の夢を思い出した。怪しいネットの都市伝説も。

  私はスマホを取り出した。
  あの池の伝説について知りたくなったのだ。

  それは簡単に検索できたが、役場の観光局の短い説明程度だ。
  あの池は明治の終わりから大正にかけて作られた人造池で、どうも、妖怪伝説の池とは違うものらしかった。

  妖怪が出没していたのは江戸時代の話で、明治の排仏棄釈(はいぶつきしゃく)の際に祠が潰されるまでだったようだ。
  大正に入ってから、何故、少年、尊徳先生が調べていたのかは分からない。

  仕方ない。

  私はスマホをしまう。
  そして、自然と本棚に目が行く。
  本棚に、何か、それらしい資料がないか調べてみた。
  どちらにしても整理は頼まれているし、スカラベを探すと言う、難題も抱えている。

  埋め込み式の本棚には大小、300冊はあるだろうか?
  古い少女漫画から、年代物の生物学の本まである。
  私は下の棚にある小学生向けの教育本を手にする。
  このての本は保護者が買うものだから、学びに対しての保護者の気持ちがあらわれる。
  もしも、尊徳先生が、孫を慈しんで本を買い与えたとしたら、何か、ヒントが隠れているかもしれない。
  私は文学から科学まで統一された本の隊列をじっと見つめた。
  やはり、血筋なのか、理科、生物学の本が読まれて痛んでいる。
  それを手にする。
  小学生用の昆虫の説明やレイアウトに、子供の頃を思い出してワクワクする。
  やはり、クワガタ、カブトムシが中表紙を飾るが、ヘラクレスオオカブトと言うところが時代を感じる。
  私の時代は、オオクワガタで、結構、凄いと感じたが、バブル時代の子供の雅苗は舶来ものの虫が多い。
  大きくて、派手な海外の虫を見ながら、人間も昆虫も、派手で大きな海外勢に人気があるのを思い知らされて苦笑する。

  ゲンゴロウにしても、ザリガニにしても、外来種の方がでかくて、派手で在来種の居場所を奪って行った。
  最近では、地味な在来種も本にのせてくれているようだが、この時代の本は、バブリーな感じで派手な外国の虫が目立つ。

  が、よく開いた感じのページにオニヤンマを見つけると、なんだか『やった』とか、訳のわからない嬉しさが込み上げる。
  そして、ウスバキトンボなんて地味なトンボのページにしおりが入っているのを見ると、なんだか、ジーンとしてくるのだ。

  ウスバキトンボは、よく『赤トンボ』と混同されるが分類上では別物だ。
  寒さに弱く、とても脆い体をしているが、飛行距離は長く、海外から日本へとやって来て北上する。
  盆の辺りで個体数を増やすので、ご祖様の使いとして大切にされ、『精霊とんぼ』などとも呼ばれている
  まあ、成虫は蚊を幼虫はボウフラを餌にしているので、蚊を媒介とした感染症の危機が増える現在、確かに、ありがたい存在ではある。

  などと、納得しながらページを見ていると、シャープペンシルで少女の雅苗がメモしただろう文字に釘付けになる。

  おじいちゃまの虫

  ああ……。確かに、ウスバキトンボは、中国や東南アジアから飛んでくるのだ。
  南の地の土となった尊徳先生の虫とも言えるのかもしれない。

  雅苗のつたない文字に、尊徳先生を愛していた北宮家の人達の心を見た気がした。

  少し感動し、それから、挟まれたしおりが、随分と新しい事に気がついて私はしおりを手にした。

  それは、セントジョーンズワートの絵のついたしおりで、2011と年号と聖ヨハネの日を記念した文言がフランス語で書かれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...