90 / 208
パラサイト
北川
しおりを挟む
北川は、なんだかシックな雰囲気で私の前に立っていた。
帰ったんじゃないのか?
私は、言葉をなくして北川を見た。
「久しぶり…」
と、北川は私に微笑みかけた。
「はぁ…。」
昼に温室で話してから数時間…果たして、久しいと言えるのだろうか?
混乱する私を見て、北川は少し、傷ついた様に目を細めて、握手のために少し、前に出していた右手をひいて、次の瞬間にはビジネスライクな笑い方に変えた。
「失礼しました。私は、北川と申します。
若葉 溶生(ときお)さんの相談役をしております。」
北川の低く通る声が部屋に広がって行くのを感じた。
その存在感に、私はリアクションを忘れ、秋吉の恐怖を背中で感じた。
この人が……音無 不比等……
そう考えた時、背骨に電気が走った気がした。
音無とは、秋吉の主演するアニメの原作者。
そして、謎の人物である。
「秋吉さん、お弁当はどうでしたか?」
北川は秋吉を見て優しく聞いたが、聞かれた秋吉は熊に好かれるような気持ちなのかもしれない。
「は、はいっ、池上さんと美味しくいただきました。」
妙に滑舌のよい返事に、秋吉の緊張が伝わってきた。
と、同時に、何故、秋吉が私に甲斐甲斐(かいがい)しく食事を運んできたのか理解した。
(毒味をさせたろう?)
私は、秋吉を非難がましく見てから北川に礼を言う。
「ごちそうさまでした。すいません、あれ、私も食べて良かったのでしょうか?」
「勿論です。この辺りにはコンビニなどはありませんから。皆さんの分をご用意しましたので。」
と、北川が説明するのを愛想笑いで受けつつ、果たして、口髭が本物か否かを気にしていた。
何か、さっきと雰囲気が違う気がする。
「なんて美しい…そうは思いませんか?あなた。」
池で北川が言った言葉がよみがえる。
あの時の北川と、今、目の前にいる北川は違う人物のような気がした。
が、幻覚で見た北川なのだから、違って当たり前と言われれば言葉もない。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
と、言いながら、何か、怪しげな薬でも入れられたんじゃないかなんて疑惑が胸にわくのも感じる。
今日は、朝から、変な夢を見たり、池の探検の幻覚を見たり、誰かを…自分も疑いたくなる様な1日だった。
そんな1日で、つけ髭で顔を覆ったオッサンを見たら、理不尽な疑惑がわくのは仕方ない気もする。
気はするけれど、それは心にしまいこんで、冷静に対応しなくては。
「…では、私は、池上さんと書斎にいきます。」
北川の声に我にかえる。
「はい、宜しくお願いします。」
長山が、爽やかに挨拶をかわす。
私は、北川に誘われるまま、その場を離れた。
帰ったんじゃないのか?
私は、言葉をなくして北川を見た。
「久しぶり…」
と、北川は私に微笑みかけた。
「はぁ…。」
昼に温室で話してから数時間…果たして、久しいと言えるのだろうか?
混乱する私を見て、北川は少し、傷ついた様に目を細めて、握手のために少し、前に出していた右手をひいて、次の瞬間にはビジネスライクな笑い方に変えた。
「失礼しました。私は、北川と申します。
若葉 溶生(ときお)さんの相談役をしております。」
北川の低く通る声が部屋に広がって行くのを感じた。
その存在感に、私はリアクションを忘れ、秋吉の恐怖を背中で感じた。
この人が……音無 不比等……
そう考えた時、背骨に電気が走った気がした。
音無とは、秋吉の主演するアニメの原作者。
そして、謎の人物である。
「秋吉さん、お弁当はどうでしたか?」
北川は秋吉を見て優しく聞いたが、聞かれた秋吉は熊に好かれるような気持ちなのかもしれない。
「は、はいっ、池上さんと美味しくいただきました。」
妙に滑舌のよい返事に、秋吉の緊張が伝わってきた。
と、同時に、何故、秋吉が私に甲斐甲斐(かいがい)しく食事を運んできたのか理解した。
(毒味をさせたろう?)
私は、秋吉を非難がましく見てから北川に礼を言う。
「ごちそうさまでした。すいません、あれ、私も食べて良かったのでしょうか?」
「勿論です。この辺りにはコンビニなどはありませんから。皆さんの分をご用意しましたので。」
と、北川が説明するのを愛想笑いで受けつつ、果たして、口髭が本物か否かを気にしていた。
何か、さっきと雰囲気が違う気がする。
「なんて美しい…そうは思いませんか?あなた。」
池で北川が言った言葉がよみがえる。
あの時の北川と、今、目の前にいる北川は違う人物のような気がした。
が、幻覚で見た北川なのだから、違って当たり前と言われれば言葉もない。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
と、言いながら、何か、怪しげな薬でも入れられたんじゃないかなんて疑惑が胸にわくのも感じる。
今日は、朝から、変な夢を見たり、池の探検の幻覚を見たり、誰かを…自分も疑いたくなる様な1日だった。
そんな1日で、つけ髭で顔を覆ったオッサンを見たら、理不尽な疑惑がわくのは仕方ない気もする。
気はするけれど、それは心にしまいこんで、冷静に対応しなくては。
「…では、私は、池上さんと書斎にいきます。」
北川の声に我にかえる。
「はい、宜しくお願いします。」
長山が、爽やかに挨拶をかわす。
私は、北川に誘われるまま、その場を離れた。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる