オーデション〜リリース前

のーまじん

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パラサイト

シャーマン

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  気がつくと暗がりにいた。
  裏口には鍵はかかっていなかった。
  北城か、長山が裏から来た時のものなのか、すこし、裏口が泥で汚れている。
  屋敷の塀の物々しさに比べると、セキュリティが弱い気もする。
  それは、今の私には、檻の中の実験動物を連想させた。
  あの塀の向こうへ…再び出て行けるのだろうか?

  静かな夜だった…

  どこかで、正気の私が、その様子を見つめている感覚があるが、そんなものは、思えばコンマ1秒の気の迷いに違いない。
  とにかく、便所に行くのが最優先なんだ。


  激しい尿意が私を襲う。
  頭を使ったのと、飲み放題につられて、何杯もコーヒーを飲んだのが悪かった。
  あと、コーヒーがインスタントだったことも。

  私は、基本、アメリカンが好きだし、
  それをお湯で薄めて飲むのが好きだった。

  私は、立ち上がり、まずは扉へと歩みを進めた。

  それは、はたからは馬鹿馬鹿しいが、本人には決死の戦いだった。

  労災もアテに出来ない上に、お客様の住居、しかも、尊敬する尊徳先生の屋敷である。

  派遣社員として、女性の書斎で、勤務中にお漏らしなんて、やってたまるか、と言う強い意志が働いた。

  私は、歩いた。
  強い尿意と倦怠感を抱え、自分を励ましながら、

  それは、想像を絶する厳しい戦いだったが、お陰でトイレにたどり着き、
  無事に危機を脱出する事に成功した。

  今なら、空を飛べそうだ。

  目的を果たした私は、手を洗って廊下に出る。

  何やら、海産物が腐るような、目が覚める臭いが微かに鼻をつき、
  それは、トイレの近くにいるからではなく、

  あの花の香りを直感させた。

  ショクダイオオコンニャクは、熱帯の植物で、絶滅危惧種である。

  それゆえに、栽培が難しく、7年経過しても、同じように開花させるのは難しいのだ。

  日本でも、植物園で栽培されているが、
  なかなか見事な花を咲かせるのは、難しいらしい。
  ポケットには拾った書斎の鍵があるが、上には戻らない決意をした。

  既に、私も、錯乱している可能性がある。

  突然沸き上がった尿意……

  今になって思えば、既に、私は、下へと誘(いざな)われていたのかもしれない。

  それに、私にはすることがある。
  温室のガラスの壁に張り付く虫の様子を確認し、必要であれば駆除、もしくは、排除しなくてはいけない。
  この屋敷の温室は、昭和初期の歴史のある温室なのだ。文化的な修復は殆ど不可能だと思う。

  破壊されるような事は、あってはならないのだ。

  温室は気になる、が、背後に聞こえた物音に、私は大切な友人を思い出した。
  そうだ、秋吉!
  そして、長山たち。

  彼らに何かがおころうとしているのだ。

  かつて、シャーマンは、もうろうとした意識の中で、神と会話をしたと言われるが、
  わたしもまた、何か、人ならざるものの存在に動かされるような、そんな不安な気持ちが突き上げてきた。
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