夏の夜話 短編集

のーまじん

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貧乏神と私

旅行プラン

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 ある日、お大臣が国民皆に10万円あげるから、使って経済を回しなさい。

 そんなおとぎ話のような政策で、お金が降ってきても、私と剛が名古屋に行くためには、大きなハードルがまだあった。

 そう、剛は男。私は女。
 年を取っても、家族が出来れば、男の混ざった泊まりの旅行にいくには、色々と説明がいる。

 ここでは、饒舌に語れる私も、夫の前で剛に対する気持ちを上手く伝えるのは、とても難しかった。


 お金もないし、温泉とかに泊まりは無理だなぁ(´-`).。oO

 昭和の2時間ドラマのように、沢山のご馳走に囲まれる旅行は無理だ。

 それこそ、大賞でも受賞しない限り…

 しかし、剛の名古屋の夢にそんなご馳走は無かった。
 むしろ、モーニングを食べに行くには、ホテルの朝食バイキングは邪魔になる。
 貧乏神に愛された剛は、貧乏の魅力を見せる事にも無意識にたけていた。



剛は、喫茶店で皆で集まるたびにこんな夢を語った。
「モーニング。まずはこれを食べてね、
 名古屋でビルジングを見るんだ♪
 名古屋城?城は興味ないから見なくて良い。」

 名古屋城をどうでも良い扱いをされて、私と萩原さんは、名古屋城の魅力を剛に口々に伝えたが、剛には、金のシャチホコよりも、名古屋のビルジングを見る方が楽しいらしかった。

 「ビルジングなんて見て、何が楽しいの?」
と、萩原さんに聞かれると、剛は悠々とこう答えた。「名前が良い。」

 はぁ?(°Д°)

 ポカンとする我々に、剛は動じることもなく、ゆったりとコーヒーを飲んで笑った。

 「(--;)い、良いんじゃないな…
 複合ビルには、飲食店が沢山入っているから。」
スマホを検索しながら萩原さんは言った。

 「宿泊は、どうするの?お金が無いからって、野宿なんてダメだからね。
 マンガ喫茶に泊まるなら…私も、付き合わないわけではないけど。」
私は、昔から、マンガ喫茶に宿泊して、思う存分本を読んでみたいと考えていた。
 が、マンガ喫茶に宿泊なんて、年を取ると、そうそう出来るものではない。
 それに、一人で泊まるのは、少し怖い。

 剛に便乗して、その夢を叶えるのも…悪くない気がした。が、剛が、それを否定した。
「マンガ喫茶…そんなところ高いよ…寝れないし。
 寝るだけなら、二千円あれば泊まれる場所はあるよ…。」
「えっ…(°∇°;)二千円って……。」
私と萩原さんは、世間知らずの剛に抗議した。
 今時、二千円って…

「カプセルホテルに泊まるの?つまらない様にね。」
私は、マンガ喫茶の夢が破れるのを感じながら、少し嫌みに言ってみた。
 カプセルホテルとは、丸い筒状のスペースに眠る宿泊施設で、狭いイメージがある。
「カプセルホテルかぁ…窮屈そうだね。」
萩原さんが少し残念そうに呟きながら、自分のスマホでカプセルホテルを検索する。
「でも…二千円は難しいなぁ。」  
萩原さんの呟きに剛もスマホを検索する。
「そんなんじゃなくて、普通の宿屋だよ…。」

 剛の言葉に萩原さんも検索を始める…
 そして、数件、そんなホテルを見つけた。

 当時、確かに、インターネット上に、そんな宿泊地が紹介されていたのだ!

 ビックリした。
 色々と。

 そして、剛の旅に興味も出てきた。
 名古屋城もひつまぶしも、大きなエビフライまで否定した、剛の夢の名古屋旅行…

 全く、想像も出来ない、新しい旅の話がそこにある気がした。



 思い返すと、あれでも贅沢な旅だったのだ。
 現実は、二千円の宿泊施設さえ泊まれない(;_;)

 それでも…モーニングがあれば、
 剛がよければそれで良い気がした。

 名古屋の人は、モーニングを食べて、そのままランチまで居着く人がいるらしいが、そんな旅行も…
 ある意味、楽しいのかもしれない。

 「名古屋のモーニングは、凄いんですよ。
 パンが食べ放題だったり、寿司がでるところもあるんです。」
離婚した父親が住む名古屋を語る紗耶香ちゃんの言葉に、剛は、おとぎ話を聞くように惹き付けられていた。

 モーニングで例え、寿司が出てきても、それを食べるだけに名古屋に行くのは、ある意味、贅沢で無駄な気もする。
 が、そこに現在、父親と生活する、20代の紗耶香ちゃんが加わると…その価値は格段に変わる。


 が、私だって、泊まりの旅なんて、そうそう行けない。
 行くなら、伊勢志摩まで足を伸ばしたい。そして、安くても真珠を手に入れたかった。
 伊勢志摩の真珠と言えば高級なイメージがあるが、町を歩くと、イビツな形や色のため、格安に売られる真珠もある。
 傷や形を気にしなければ、一粒100円も夢ではないのだ!多分。

 その真珠をビーズの指輪にして、私は、私の読者賞を記念に作る。

 貧乏神…確かに、神とつくだけあって、ご利益があるのかもしれない。

 100円も、その価値に想像力を巡らせれば、ビックリするような感動的な何かに変わるし、

 投稿して数ヵ月が過ぎる頃、サイトを開くと、2ポイントが溜まり、
 念を込めて連弾しなくても、換金へと続くボタンはなんなく押せた。

 その瞬間、私のなかで、インターネットの魔法使いが、異界の森で目をさました。
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