悪魔の国

謎の人

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2話 07(ゼロセブン)

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「現在第六都市は、深刻な状況にある。原因は、evil感染者の増大と、自治都市構想の摩擦が生んだ、奴らの管理局に対する暴動だ。一般市民のストレスと、安全を第一の目的とし、上層会議を行った。結果、第六都市該当エリア内全域のevil感染者の殲滅が決まった。」


楕円形のテーブル上に、ホログラム化された地図が表れる。


「今回の作戦は、行動一課から六課までの、合同作戦だ。」


そして、この管理局を中心とした都市区画の一角に、赤い点が示されていた。


「蔵馬少尉の報告資料と各管理支部局の調査の結果、第四区画、その13~14番エリア内の地下喫茶、そこがevilの根城と判明した。現に、両エリアの管理支部局が陥落したとの報告が入っている。」


各員に動揺が走る。管理局、管理支部局を含めて、それらは言わば軍隊。エリア内で発生したevil感染者を速やかに排除するための機関である。当然、武装も許可されているが、彼らが落とされたとなれば、敵勢力側もかなりの戦力を持っている事になる。
しかし…。


「エリア内の市民の安全が最優先だが、evilに感染してしまっている可能性もゼロではない。そのため、既に13・14エリアの外へ繋がる四つのゲートに市民の避難兼、感染の有無を調べる為の検問を設置した。避難は進めているが、残りは最低でも2時間かかるそうだ。我々一課は行動五課と共に、それぞれの検問場所で警備にあたってもらう。市民の避難が完了次第、エリア内に残った人間は全て排除対象となり、殲滅戦に移行。我々はエリアの最後の砦として、徐々に包囲網を縮めながらニ、三、四課が取り逃がしたゴミを確実に刈り取る。しかし、両管理支部局を落としたとなれば、奴らもなんらかの武装をしている可能性が濃厚だ。これに対し、君たちには、ライフル等のレベル3装備で対応してもらう。作戦の流れは以上だ。」


「よろしいでしょうか。」


30代前半あたりだろうか。男性の機動官の一人が手をあげる。


「どうした、篠谷中尉。」


「evilの連中が避難中の市民を攻撃、あるいは人質にとる可能性も、十分ありうるのでは。いくら私たちが警備していたとはいえ市民に被害が出てしまってからでは、意味がないように思われるのです。」


「その可能性は限りなくゼロに近いだろう。篠谷中尉。」


そう反論したのは、先ほどまでホットアイマスクをつけ爆睡していた女性機動官であった。


「何故そう言えるのです、蔵馬少尉。」


「名雲司令。私の報告資料の第9項を投影してください。」


蔵馬少尉の、上官を顎で使うような態度は一課では最早名物である。
それは彼女の、若くして一課に果たした多大なる貢献と、鋭い洞察力の上に成り立つものであった。
しかし、それを忌み嫌う者も少なくなかった。篠谷中尉も、そのうちの一人であった。


名雲は顔色一つ変えず、彼女の資料を映し出した。


ホログラム化され出現したのは、あるものを相対的に可視化したグラフだった。


「これは、過去の騒動で起きたevilによる被害者を、管理局の関係者と一般市民の二つに分けたものだ。このグラフが示す通り被害が出ているのは管理局の関係者。しかし注目すべきは、一般市民への被害は減少傾向にあり、今やゼロに近いという事実だ。何故だかわかるか、中尉。」


「…いえ」


「彼らが掲げる自治都市構想。それはあくまでevilが無害である事を証明した上に成り立つものだ。一般市民に安全性を認識させた上で、それを武器に、管理局に訴えかける。一部のevilを筆頭に武力行使を進める奴らもいるようだが、それも一般市民に被害は出していない。今回の支部局が落とされた件、市民に被害は出ていないんじゃないのか。」


蔵馬は名雲に、どうなんだと言わんばかりに目を向ける。


「確かに、市民には一切の被害が出ていないとの報告を受けている。」


「そういうことだ、中尉。このデータが示す通り、彼らの目的はあくまで私達管理局側の人間。かつ、彼らが非常に慎重であり、合理的な集団である事の裏付けだ。現に市民の間では、わずかだがevilに対して寛容的な団体も存在している。evilに感染すれば即処分などというあまりにも非人道的な制度自体、もともと批判的な声も多かったんだ。彼らにとっては、やっと自分たちに味方してくれる人々ができた。それを仮にも矛先が市民に向いたとしたら、それは彼らが思い描く理想とはかけ離れたものになるだろう。やったらその時点でおしまいだと、彼らもわかっているのさ。」


「…、了解しました。」


先ほどまで全く会議に参加していなかった人物とは思えない程の優秀さに、呆気にとられる六道寺だった。
タイミングを見計らって、名雲は、新たな資料を映し出した。彼女の報告資料は閉じられ、13・14エリア外に繋がる4つのゲートブリッジそれぞれにメンバーの名前が浮かび上がる。
担当現場と班分けである。
そして、


「…それと、今作戦の最優先事項だ。」


浮かび上がった新たなホロ、そこにはこう書かれていた。



【優先保護対象 コード07 Enya】



「対象を発見次第、速やかに保護するように。」


「…は?」


顔写真も、身体的特徴も、そもそも人間であるのかどうかもわからない。
その文字以外の情報が全く存在しない。


「…今回はevilの殲滅が最優先事項ではないということでしょうか。」


「そうだ。六道寺特務官。」


「その、コード07に対してほかに情報は無いのですか。」


そう質問したのは、小柄で金髪の少し子供の様な顔をした男性隊員だった。


氷坂《ひさか》上等機動官である。


「コード07に関しての情報は一切開示するなとの命令だ。」


呆れた口調で、蔵馬が口を挟む。


「だとしても、顔写真どころか特徴の一つも無いなんておかしいでしょう。どうやって見つけろと?」


「『見れば分かる』。だそうだ。」


「…何を言って」


「説明は以上だ。各員、資料に目を通した上、60分後に地下駐車ブロックへ集合だ。」
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