悪魔の国

謎の人

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4話 evil

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とある高層ビルの屋上から、明空 俳徒《あけぞら はいど》は13エリアを眺めていた。
普段は人で溢れ活気づいていた都市は数時間前、管理局の大規模作戦に伴う緊急避難警報により、
13・14エリア共に静寂に包まれた。この場所から、人が姿を消したのだ。ここにはもう「人間」はいない。


「明空。」


静寂を裂いたのは、猫屋敷 冬真《ねこやしき とうま》だった。


「そろそろ時間だ。みんなお前を待ってる。」


「…あぁ。」


「丹波のジジィ供がお怒りだ。早くここから逃せだとよ。」


もうすぐ13・14エリア全域に、第六管理局のevilに対する弾圧が始まろうとしていた。
他のエリアに繋がる全4つのルートは封鎖され、既に退路は断たれていた。


「自ら動かず、何も出来ない無能に貸してやる耳など無い。」


そうだなと、〇〇は鼻で笑って返し、明空の方へ近づく。丁度、景色を眺める彼の隣に。


「何を見てたんだ?」


「ここから見下ろせる風景。…それと、第4ゲートの管理局の動き。」


「あんな豆粒みたいなのをか? よく見えるなお前。」


「目が良いんだよ。昔から。」


地上180m前後、ここ13エリア支部局から見下ろせる景色は、圧巻のものであった。
どうやら、ここの元支部局長は景観にも力を入れていたようだ。


「動きを見る限り、全ゲートは封鎖済み。何人投入されているのかは分からないが、最悪エリアを完全に包囲されていると考えた方がいいな。」


絶望的状況。にもかかわらず、彼等からは不安や落胆などと言ったものは感じられない。


「そんで。お前のことだ。何か策はあるんだろ?」


「そうだな。数的不利はどうしようもないが、用があるのは結果だ。引き分け以上になら持っていける。」


「具体的には?」


「質問ばかりだなお前は。」


「悪いか?」


「はっ…、そうじゃ無いさ。詳細は下で話す。」


二人は支部局内部へ戻ろうとする。下層では、evil達が指導者を、明空の指示を求めている。


「それと、」


明空はそう言って向き直る。


「『あれ』を使う。」


「…既に回収はしてある。だけど、支部局の連中をあれほど殺るとはねぇ。思い出すとゾッとする。」


空を仰ぎ見る。夕刻だ。陽は沈み、空が紅くなってゆく。
しかしその紅はいつもより深く、まるで血で染まった様な不気味さを生み出していた。


「使えるものは使う。たとえそれが今、我々の手に余るものであったとしても。」
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