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第一百九十八話 本圀寺の変・隔岸の火を見る
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永禄十二年(西暦一五六九年)正月五日、深夜。
大雪が戸を塞いだ。
京の通りは白に押され、屋檐の滴りさえ息を殺している。
静寂はすぐ裂けた。
本圀寺の外へ、黒影が集まる。
三好三人衆は死士二千を糾合し、夜陰に紛れて寺の塀へ寄せた。
「火を放て!」
「信長を討て!」
火矢が宙へ走り、闇を裂き、木壁と棟へ釘のように突き刺さる。
炎は瞬く間に天へ噴き上がり、雪夜を血の色に染めた。
寺内の鐘が鳴り乱れる。
だが信長は慌てない。
南蛮胴を纏い、長槍を手に大殿前へ立つ。
背後に親衛三百。鉄のように沈黙し、列を成す。
火が甲冑へ映り、さらに硬い殻を鋳るかのようだ。
信長は外の火を見て、口端に冷笑を浮かべた。
「二千か。」
「ちょうどよい。旗の血祭りにしてくれる。」
――二条、三条ほど隔てた将軍御所。
足利義昭は厚い貂裘を羽織り、高楼から本圀寺の火を眺めた。
炎が頬を赤く照らし、その眼底の抑え難い貪と惧をも照らす。
側近が汗だくだ。
「将軍! 信長殿が包囲され、火勢も強うございます! 援軍を出しますか!」
義昭は欄干を掴む。指節が白い。
胸中で算盤を弾く。
信長が死ねば、三好が復し、自分は信長の縛りから解ける。
信長が勝てば、兵が少ないゆえ動けなかったと言い逃れもできる。
――両面賭け。
「出さぬ。」
声は震える。それでも無理に凶さを作る。
「門を閉じよ。」
「内院だけ守れ。」
「外で何が起ころうと、誰も出るな。」
義昭は動かない道を選んだ。
闇に立ち、火が――自分を将軍へ引き上げた男へ向かうのを見送る道を。
戦の別側。
三好勢は正門が親衛で堅く、攻めあぐねると、千の精鋭を割き、
本圀寺の側後の細巷から突破を図った。
そこは守りの死角。抜かれれば信長は腹背に敵を受ける。
巷口へ入った瞬間、雪と火が交じる光の中で、彼らは硬直した。
道が――塞がれていた。
雷霆峨保が厚背の大刀を提げ、巷口に独り立つ。門神のように。
その背後に、全装備の澄心軍団――百。
大雪が戸を塞いだ。
京の通りは白に押され、屋檐の滴りさえ息を殺している。
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「火を放て!」
「信長を討て!」
火矢が宙へ走り、闇を裂き、木壁と棟へ釘のように突き刺さる。
炎は瞬く間に天へ噴き上がり、雪夜を血の色に染めた。
寺内の鐘が鳴り乱れる。
だが信長は慌てない。
南蛮胴を纏い、長槍を手に大殿前へ立つ。
背後に親衛三百。鉄のように沈黙し、列を成す。
火が甲冑へ映り、さらに硬い殻を鋳るかのようだ。
信長は外の火を見て、口端に冷笑を浮かべた。
「二千か。」
「ちょうどよい。旗の血祭りにしてくれる。」
――二条、三条ほど隔てた将軍御所。
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炎が頬を赤く照らし、その眼底の抑え難い貪と惧をも照らす。
側近が汗だくだ。
「将軍! 信長殿が包囲され、火勢も強うございます! 援軍を出しますか!」
義昭は欄干を掴む。指節が白い。
胸中で算盤を弾く。
信長が死ねば、三好が復し、自分は信長の縛りから解ける。
信長が勝てば、兵が少ないゆえ動けなかったと言い逃れもできる。
――両面賭け。
「出さぬ。」
声は震える。それでも無理に凶さを作る。
「門を閉じよ。」
「内院だけ守れ。」
「外で何が起ころうと、誰も出るな。」
義昭は動かない道を選んだ。
闇に立ち、火が――自分を将軍へ引き上げた男へ向かうのを見送る道を。
戦の別側。
三好勢は正門が親衛で堅く、攻めあぐねると、千の精鋭を割き、
本圀寺の側後の細巷から突破を図った。
そこは守りの死角。抜かれれば信長は腹背に敵を受ける。
巷口へ入った瞬間、雪と火が交じる光の中で、彼らは硬直した。
道が――塞がれていた。
雷霆峨保が厚背の大刀を提げ、巷口に独り立つ。門神のように。
その背後に、全装備の澄心軍団――百。
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