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第八話・河原町・薦められる人生の脚本(二)
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路地を抜けると、光が一気に目に刺さってくる。
河原町のネオンは、雨に照り返されて、色とりどりの塊になって揺れていた。店員たちは店先で声を張り上げ、それぞれの店の前に、ごく小さな「場」の雰囲気を築こうとしている。
新作コスメは巨大なスクリーンに拡大され、「あなたにいちばん似合う色を見つけよう」というコピーが踊る。ダイエットドリンクの広告では、モデルがメジャーを掲げて笑い、「生き方を、少し変えてみよう」と言っている。
さらに進むと、ビルの外壁に埋め込まれた大型ビジョンが現れた。
画面の中で、ネクタイを締めた中年の男が柔らかく微笑み、さほど大きくもない声なのに、なぜか周囲のBGMを押しのけて耳に届いてくる。
「自分に向いている仕事がわからない?
辞めるべきか、続けるべきか迷っている?
この街に残るか、故郷へ戻るか決められない?
――そんなあなたへ。夜の『人生説明会』、一度聞いてみませんか。」
画面の右下には小さな文字が出ている。
「人生脚本コンサルティング・本日限定三十名無料体験」。
映像が切り替わり、相談室の写真が映し出される。ソファ、柔らかな照明、テーブルには紙ナプキンの箱。そして壁には、こんな標語が掛けられていた。
「迷っているのは、まだ自分の脚本を受け取っていないから。」
その下に住所が表示される。某ビル四階。
彼はそのビルを見上げた。
一階はチェーンの服飾店で、ガラス戸が開いたり閉まったりするたびに、冷房の空気と香水の匂いがこぼれ出る。
二階はカフェだ。窓際の席では、誰かがノートパソコンの画面を前にしてぼんやりしている。
三階には「資格スクール」「語学教室」と書かれた看板が掛かっている。
四階の灯りだけが、事務所特有の白さで、揺らぎなく安定していた。
通りの人波の皺のあいだから、何本かの見えない線が、歩道から抜き取られていくように伸びている。その線はまっすぐに、あのビルの四階へと向かっている。
ビルの入口には、大学生風の少女が一人、ビラを抱えて立っていた。
きちんとした身なりのOLらしい女性が、その子に何か話しかけ、指で四階の方向を示している。
少女は一瞬迷ったように、手帳にびっしり書き込まれた時間割を見下ろし、それから再び、あの大きなビジョンを見上げた。
彼女の足元から伸びる線が、ふるふると震え、ぼやけた灰色から、輪郭のはっきりした色に変わる。
「おすすめルート、か。」
劉立澄は、心の中で小さくつぶやいた。
彼は二人に近づくことなく、その線の延びている方向へと足を向け、ビルの中へ入った。
エレベーターの前には人が並んでいる。彼は脇にそれて、「関係者以外立入禁止」と書かれた扉を押し開けた。
階段室は外よりもずっと静かで、電灯の白い光だけが、淡々と落ちている。
四階より上へ向かうにつれ、階段の縁が不自然なほどきれいになる。埃がほとんどない。
壁と階段の隙間には、何かが這うように張り付いている。目には見えず、手探りしても触れられないのに、足裏と床の間に、ごく細い「すき間」を立ち上げている。
彼は一瞬立ち止まり、つま先をわずかにひねった。
一歩目は、かつての誰かの足跡が薄く残っている場所を踏む。二歩目は、その細いすき間の縁をなぞるように置く。三歩目は、すべてから外れた、ほんのわずかな空白を選んで落とす。
三歩で一巡りしながら、ゆっくりと上へ。
彼は心の中で、この何の変哲もない階段の足運びに、そっと名前を付けた。
「地を鎖す三意の歩。」
階段に貼り付いていた一本の線は、彼の足に踏み切られ、少しちぎれていく。空気の匂いが、そこでひと呼吸、入れ替わった。
もともと薄く漂っていた「階段の匂い」が弱まり、代わりに、ごく微かな香水の香り――オレンジの皮と白い花を混ぜたような匂い――が満ちてくる。
見上げると、階段の上はスライド式のガラス戸になっていた。その先には、雨の中でぼんやりと光る空中回廊が続いている。
河原町のネオンは、雨に照り返されて、色とりどりの塊になって揺れていた。店員たちは店先で声を張り上げ、それぞれの店の前に、ごく小さな「場」の雰囲気を築こうとしている。
新作コスメは巨大なスクリーンに拡大され、「あなたにいちばん似合う色を見つけよう」というコピーが踊る。ダイエットドリンクの広告では、モデルがメジャーを掲げて笑い、「生き方を、少し変えてみよう」と言っている。
さらに進むと、ビルの外壁に埋め込まれた大型ビジョンが現れた。
画面の中で、ネクタイを締めた中年の男が柔らかく微笑み、さほど大きくもない声なのに、なぜか周囲のBGMを押しのけて耳に届いてくる。
「自分に向いている仕事がわからない?
辞めるべきか、続けるべきか迷っている?
この街に残るか、故郷へ戻るか決められない?
――そんなあなたへ。夜の『人生説明会』、一度聞いてみませんか。」
画面の右下には小さな文字が出ている。
「人生脚本コンサルティング・本日限定三十名無料体験」。
映像が切り替わり、相談室の写真が映し出される。ソファ、柔らかな照明、テーブルには紙ナプキンの箱。そして壁には、こんな標語が掛けられていた。
「迷っているのは、まだ自分の脚本を受け取っていないから。」
その下に住所が表示される。某ビル四階。
彼はそのビルを見上げた。
一階はチェーンの服飾店で、ガラス戸が開いたり閉まったりするたびに、冷房の空気と香水の匂いがこぼれ出る。
二階はカフェだ。窓際の席では、誰かがノートパソコンの画面を前にしてぼんやりしている。
三階には「資格スクール」「語学教室」と書かれた看板が掛かっている。
四階の灯りだけが、事務所特有の白さで、揺らぎなく安定していた。
通りの人波の皺のあいだから、何本かの見えない線が、歩道から抜き取られていくように伸びている。その線はまっすぐに、あのビルの四階へと向かっている。
ビルの入口には、大学生風の少女が一人、ビラを抱えて立っていた。
きちんとした身なりのOLらしい女性が、その子に何か話しかけ、指で四階の方向を示している。
少女は一瞬迷ったように、手帳にびっしり書き込まれた時間割を見下ろし、それから再び、あの大きなビジョンを見上げた。
彼女の足元から伸びる線が、ふるふると震え、ぼやけた灰色から、輪郭のはっきりした色に変わる。
「おすすめルート、か。」
劉立澄は、心の中で小さくつぶやいた。
彼は二人に近づくことなく、その線の延びている方向へと足を向け、ビルの中へ入った。
エレベーターの前には人が並んでいる。彼は脇にそれて、「関係者以外立入禁止」と書かれた扉を押し開けた。
階段室は外よりもずっと静かで、電灯の白い光だけが、淡々と落ちている。
四階より上へ向かうにつれ、階段の縁が不自然なほどきれいになる。埃がほとんどない。
壁と階段の隙間には、何かが這うように張り付いている。目には見えず、手探りしても触れられないのに、足裏と床の間に、ごく細い「すき間」を立ち上げている。
彼は一瞬立ち止まり、つま先をわずかにひねった。
一歩目は、かつての誰かの足跡が薄く残っている場所を踏む。二歩目は、その細いすき間の縁をなぞるように置く。三歩目は、すべてから外れた、ほんのわずかな空白を選んで落とす。
三歩で一巡りしながら、ゆっくりと上へ。
彼は心の中で、この何の変哲もない階段の足運びに、そっと名前を付けた。
「地を鎖す三意の歩。」
階段に貼り付いていた一本の線は、彼の足に踏み切られ、少しちぎれていく。空気の匂いが、そこでひと呼吸、入れ替わった。
もともと薄く漂っていた「階段の匂い」が弱まり、代わりに、ごく微かな香水の香り――オレンジの皮と白い花を混ぜたような匂い――が満ちてくる。
見上げると、階段の上はスライド式のガラス戸になっていた。その先には、雨の中でぼんやりと光る空中回廊が続いている。
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