京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第八話・河原町・薦められる人生の脚本(三)

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空中回廊の両側は全面ガラス張りで、雨粒がガラスを伝って流れ落ち、街の灯りを一本一本、下へと引き延ばしている。

床は磨き上げられて艶やかで、淡い木目が足元へと伸びている。乾いた無菌の印象を与える床だ。天井にはダウンライトが一列に埋め込まれ、色温度の高い「暖かさ」が、少し力づくなほどの強さで降り注いでいた。

回廊はさほど長くはないのに、妙に距離があるように感じさせる。

その中央に、一人の女が立っていた。

彼女は欄干に片肘を預けるようにして寄りかかり、片方の脚をわずかに曲げ、もう一方の脚は伸ばしている。

赤茶の髪をまとめたその女は、短めのトレンチコートを羽織り、前を開けている。中は身体の線をそのまま拾う黒のワンピースで、ウエストのくびれが、意識的に強調されていた。裾は膝より少し上。滑らかなラインのすねが露わになっている。

足元のハイヒールは、艶のあるワインレッド。細いピンヒールが高く伸び、ライトを受けて、刃物のような光を反射している。

扉の開く音に気づくと、彼女はゆっくりと身をひねり、こちらを向いた。

ひと目で人を信用させるような顔だった。

整った目鼻立ち、ちょうどいいところで止まる微笑、目尻には、人の話をよく聞いてくれそうな、柔らかな陰りがある。口紅は決して派手ではない、ローズ寄りの赤。さきほどの靴の色にひそかに呼応していて、全体を「ちょうどいい」バランスに収めていた。

胸元には名札が下がっている。

「篠原灯子

  人生脚本プランナー」。

その下には、小さな文字が添えられている。

「都市ライフ・デザイン・コンサルタント」。

「ようこそ。」

彼女は一歩、こちらへ踏み出した。

ハイヒールのかかとが床を打ち、澄んだ音がひとつ鳴る。それはまるで、この面会のために打たれた、ささやかなカチンコの音のようだった。

「最近、京都の夜には、妙な噂がときどき混ざるの。」

彼女はそう言いながら、トレンチコートのポケットから、細い金属のペンを一本取り出した。軸はマットな黒で、ペン先は針のように細い。

「いろんな交差点で、勝手にラインをいじって回る人がいるせいで、せっかく私が苦労して組んだルートに、ノイズが入りっぱなしでね。」

「ここで組んでいるルートは、どんな類いのものだ。」

劉立澄が問う。

「いちばん安全で、いちばん『わかりやすい』ルート。」

篠原灯子は、かすかな笑みを浮かべ、手を上げた。

金属ペンの先が、空中をそっとなぞる。

回廊の両側のガラスの隙間から、透明な幕のようなものが伸び出し、ごく薄いヴェールとなって、ゆっくりと回廊を包み込んでいく。

幕の上に、映像が浮かび始めた。

コンビニの制服を着た若い女が、狭い従業員休憩室でスマホをいじっている。

画面に「人生説明会」の広告が現れ、彼女は一瞬迷ってから、予約ボタンに指を伸ばす。

次の場面では、柔らかなソファに座り、紙コップを手にしている彼女の姿。誰かがこう言っている。

「あなたの性格とご家庭の状況から、こちらで三つのルートをご用意しました。」

さらに次のカットで、彼女は少し見た目の良い職場に転職して、デスクの向こうに座っている。スーツはきちんとしているが、どこかテンプレートめいている。

映像の右下に、小さな文字がポップアップする。

「おすすめルート:安定維持型

  今後十年間、大きな変動の見込みなし。」

画面が切り替わる。今度は男子学生が、散らかったワンルームで、テーブルの上の乱雑な資料を前に座り込んでいる。ウェブブラウザには、さまざまな留学広告や転職掲示板が開きっぱなしだ。

次の瞬間には、彼もまた、あの相談室のソファに座っている。

それから彼は、薦めに従って資格スクールに通い、そこそこの安定した会社に入り、忘年会の宴会場で紙製の帽子を頭にのせ、「今年もよろしくお願いします」と周囲と一緒に声を揃える。

画面の下には、やはり文字が出る。

「おすすめルート:回流型

  五年以内の満足度・中の上。」

幕の上では場面が次々に切り替わる。誰かが結婚し、誰かが子どもを産み、誰かがマンションを購入し、誰かが「長期雇用契約」の書類にサインをする。

どれも、決して「悪くはない」未来だ。

「迷っている人が、いちばん怖がるのは二つ。」

篠原灯子は、幕の映像を見つめながら、授業のレクチャーでもするような調子で話す。

「間違った道を選ぶこと。それから、あとで後悔すること。」

彼女は横目で彼を見やり、口元をわずかに上げた。

「私がしているのは、ただ――彼らの人生を、読みやすい目次にまとめてあげること。

  その目次の横に、『おすすめ』って二文字を添えるだけ。」

「君が、脚本を書いているのだ。」

彼が言う。

「私はただ、可能性を削ってあげているだけよ。」

彼女は手を上げ、ペン先で幕の一角をちょんと突いた。

先ほどの映像の端には、たしかに細い切れ目のようなものがあった。そこには、もっと雑然として、足場のない断片が詰まっている。家出に失敗する場面、転職してはねつけられる場面、見知らぬ街でひとり病に伏せる場面。

そうした断片は、一瞬だけ顔を覗かせたかと思うと、すぐに幕がきゅっと締め直され、より明るい結末の下敷きにされてしまう。

「残酷だと思うでしょう。」

彼女はふっと笑う。

「でもね、多くの人にとって、『そこそこ悪くない』っていうおすすめプランは、自分で無数の枝から選び取って、失敗を重ねながら進むより、ずっと安全なの。」

ハイヒールの踵がリズムを刻むように床を鳴らしながら、彼女は彼の周りを一周する。

そのつま先が床に触れるたびに、回廊の床から細い線が一本ずつ広がり、そのまま幕の下へと潜っていく。

その線は、遠くのどこかで迷っている足元を拾い上げ、すこしずつ、ここへと手繰り寄せる見えない掌のようだった。

「あなたは、どのタイプ?」

彼女は彼の斜め前で立ち止まり、顎を少し持ち上げる。

「真龍の血脈なら、本来、誰のおすすめも必要としないはず。

  でもね――」

彼女の視線が、彼の肩から手首へと滑り、最後に足元で止まる。そこには、ほとんど目に見えないほど細い、「自分で前に進もうとする」線が、一本だけ伸びていた。

「――他人の選択に口を出したがる人ほど、自分のルートにも迷っているものよ。」

彼は何も答えない。ただ、指先にわずかに力を込めた。

空気の奥で、細い金属の音が微かに鳴る。

細身の剣が、彼の手のうちに現れた。刀身は鈍い銀色で、線は真っすぐに伸び、刃はきわめて清潔に収められている。

澄心の剣。

袖口がかすかに揺れ、剣先は斜めに床を指し示す。

その瞬間、回廊を満たしていた光が、ひと呼吸ぶんだけぎゅっと収縮したように見えた。
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