京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第八話・河原町・薦められる人生の脚本(四)

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 篠原灯子は、その剣を見つめ、瞳に少し興味の色を浮かべた。

 「剣、よく似合うわ。」

彼女は一歩踏み出した。

ハイヒールのかかとが床を打ち、澄んだ音が響く。

それは普通の足音ではなかった。その瞬間、回廊がわずかに傾いたように感じられる。床の一端が、誰かにそっと持ち上げられたかのように。

そんなわずかな傾きの中で、人の重心は自然と、彼女の立つ側へと滑っていく。

劉立澄は、その傾きに逆らわなかった。むしろ、その勢いに身を委ねて、前へ滑る。

一瞬、よろめいたように見えたが、次の刹那には、足裏が床の継ぎ目の一点をしっかりと捉えていた。膝を締め、腰を落とし、肩をわずかにひねる。

彼女のハイヒールのつま先が、赤い釘のように、容赦なく彼の足の甲を踏みにくる。

彼の左足の避け方は、明らかに遅い。普通なら、骨がきしむほどの痛みで立っていられなくなるだろう。

だが、つま先が落ちようとするまさにその瞬間、彼は足の甲をきゅっと収縮させ、足そのものを蛇のように半寸だけずらした。ハイヒールの先は彼の靴の側面をかすめて滑り、床に淡い傷を一本残す。

ハイヒールと床が擦れ合い、短い「キッ」という音が走る。

彼女の上半身が前へと傾き、もう片方の手が上がった。金属ペンは一条の光となって、彼の肋骨の隙間を狙って突き込まれる。

その突きは、真正面からでも、軽い探りでもない。人体の構造を熟知した者が、「いちばん守りづらい場所」を正確に突こうとする手つきだ。

劉立澄は肩を落として肋骨を内に絞り、柄で上に突き上げる。

ペン先は剣の峰に当たり、短い金属音を立てた。

彼女は手首をひねり、ペン先を剣の背に沿って滑らせていく。ガードをなめるように回り込み、彼の握る拳の付け根を狙ってくる。

彼は右手の力をふっと抜いた。

剣は掌の中で半回転し、背は盾となってペン先を受け止め、柄は硬い木片のようになって、彼女の手首を横から打った。

彼女は手元にかすかな痺れを覚え、金属ペンを取り落としそうになる。

彼女は小さく笑った。その笑いは、先ほどよりは幾分、心の底からのものに近い。

「体術、なかなかやるじゃない。」

そう言いながらも、彼女の左膝はすでに引き上げられ、勢いよく彼の腰の横を狙っていた。

その一撃は、軽くはない。普通の人間なら、まともに受ければ身体ごと弾き飛ばされるだろう。

彼は左肘を肋骨の下からすばやく引き上げ、その膝を受け止めた。

肘と膝がぶつかり、鈍い音が骨を伝う。痛みが骨の中を走り上がるが、彼の視線には揺らぎがない。むしろ、その衝突を踏み台に、身体を側ろへ転がし、距離をとる。

狭い回廊の中で、二人の周囲の空気は、一気に張りつめた。

幕の中の映像は、そのあいだも淡々と流れている。コンビニ店員、フリーター、シングルマザーたちの「そこそこ悪くない」未来が、一コマずつ映し出され、静かな、しかしどこか皮肉めいたBGMのように、戦いの背景を埋めていた。

「あなたは、目の前の文字を消せば、それだけでみんな勝手に走り出すと思っているの?」

篠原灯子が手を上げる。

金属ペンが空中に一文字描くように振り下ろされた。

回廊の照明が一度ふっと暗くなり、すぐにまた灯る。足元の床には、薄く、かすかな線がいくつか浮かび上がった。

その線は、彼の足首の周りで絡み合い、糸のように柔らかく巻きつく。強い力はかかっていない。ただ、ごく自然に、人の立ち方を変え、重心の置き場をずらしていく。

彼女は一歩踏み込み、さらに身体を近づけた。

香水の香りと、細かな雨、ガラスの湿り気が混ざった空気が、一気に押し寄せてくる。

彼女の動きは、もはや優雅なデモンストレーションではない。近接戦闘用に鍛えられた動きそのものだ。

靴先は足の甲を狙い、膝は太腿を打ち、肘は鎖骨を押さえつける。金属ペンは彼の目尻、喉元、肋骨の隙間を渡り歩く。どの一撃も、「即死には至らないが、完全に戦意を奪う」ぎりぎりのラインをなぞっていた。

「見てきたのよ。」

彼女は低く囁く。その声は耳元すれすれで響いた。

「出たくても出られなかった人。勢いで飛び出して、一生後悔した人。

彼らが欲しがっているのは、プロセスじゃない。『結末』よ。

私は、その結末を差し出しているだけ。」

彼は反論しない。

ただ、右手から力をわずかに抜き、剣先をそっと下げると、足元で強く一歩、踏み鳴らした。

「踏罡・九星衡歩。」

九つの踏み点が、回廊の床に小さな斗の形を描く。傾いていた床は、その足運びの下で、ほんの一寸だけ、無理やり水平に戻される。

彼女が次にハイヒールを振り下ろしたとき、一瞬、足場が抜けた感覚が生まれた。

たったそれだけの隙間で、彼は息を入れ替える。

左手を剣から離し、わき腹のあたりの虚空を握る。冷たい金属の感触が、掌に跳ね上がる。

一本の刀が、彼の手に落ちた。

剣とは違い、その刀には、はっきりとした重みと、鋭利な存在感があった。刀身は剣よりも幅広く、棟はわずかに厚い。だが、刃は、光線のすれすれを歩く雪のように薄い。

龍牙。

その柄を握る手つきは、あまりにも自然で、あたかもこの刀がもともと腰に差してあったかのようだった。先ほどまで、ただ呼び声を待っていただけだ、とでも言うように。

剣は線を撫でるためのもの。刀は、問題そのものを断ち切るためのもの。
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