さよならのあと

suzuno

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さよならのあと

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 高校2年生の夏、私は遥とハグをした。それは思春期の興味本位のようなもので、決して恋人だからなどではなかった。初めてハグをした感想は、とても心地が良かった。それは相手が遥だったからなのかは分からなかった。でも、私は遥じゃなかったらしなかった。遥は、きっと私じゃなくてもいいのだと思う。
 私は遥が好き。でも、遥は私をそういう風には見てくれなかった。それでもきっと、ハグをした時の感想は同じだったのだと思う。遥にとってもハグは気持ちがいいものだったのだと思う。
 だから私たちはこの関係を続けようとそう話した。2人だけの秘密にしようと。少しでもお互いに時間があれば、人気のない公園で待ち合わせをして、静かに抱き締めあった。私は抱きしめられるたびに少し悲しくなったけど、でもきっと、少しでも、遥の中で特別な存在になれたんだと、そう思えた。
 前に一度、「ハグしてって誰かに頼まれたら遥はするの?」と質問したことがあった。遥は「可愛い子なら」なんてふざけたことを言っていたが、その後に「誰でもは無理。」と、そう言った。私は、可愛い子ならするんだって少し拗ねたけれど、誰でもではなく、私は抱き締めてもらえる事に喜びを感じていた。
 遥はみんなにハルって呼ばれている。私も前まではハルと呼んでいた。でもこの関係になってから、私はハルカと呼ぶようになった。私は少し、遥を独占したかったのかもしれない。特別なんだぞと自慢したかったのかもしれない。みんな突然私がそう呼ぶものだから、少し驚いた顔をしていたが、私と遥は元から仲が良かったので誰も不思議には思わなかった。
 
 私はいつものように遥と会う約束をしていた。いつもの公園に着くと、いつものように静かに抱き締めてくれた。私は、遥の匂いや体温で、遥の存在を確かめた。この瞬間はいつも、遥は私に優しくしてくれた。髪を撫でてくれたり、いつもは言わなそうなことを、優しい声で言ってきたり。私はそんな時間が大好きだった。
 でも今日はいつもと違った。遥が、キスをしてきたのだった。私は驚いた。唇が離れた瞬間、「どうしてこんなことするの?」と聞いた。遥は「したかった」とだけ言った。私の目から静かに涙が溢れた。遥は「ごめん」と言った。私は「私のこと好きなの?」と尋ねた。「好きではない」そう答えた。
「私は遥が好きだよ。好きでもないのにキスなんかされたくない。」そう言って、私は走って帰ってしまった。
 正直、遥とのキスは嬉しかった。私は遥が好きだったから。でも遥は私のことなんて好きでもないのに。遥にとって、キスもハグも特別でも何でもないものなのかもしれない。その時私は遥は私を好きになることはないのなら、遥にとって忘れられない存在になろう。そう思った。
 その後ごめんと遥からメッセージが届いた。私は、いいよと言って許した。その後に、また会おうねとメッセージを送った。また今度会った時も、いつものように抱き合うのだろうとそう思っていた。しかし、もう遥とハグをする日は来なかった。

  会えない日が一二ヶ月続いたある日、遥から「今夜会える?」とメッセージが届いた。私は「8時にいつものところでいい?」と送ると「ok」と返信が来た。遥に会うの久しぶりだなぁ、最近遥か忙しそうだったからなぁなんて考えていた。今日は会えなかった日の分まで抱きしめてもらおうと思っていた。
 公園に着くと、遥はベンチに座っていた。珍しいなと思いながら、遥のいるベンチまで行き、隣に腰をかけた。
 「随分と久しぶりだね。今日はすぐにハグしなくていいの?」
 と私は尋ねた。少しの間まで黙ったまま、遥は話し始めた。
 「俺もう美雪とはそういうことできない。」
 「え…?」
 「俺、彼女ができたんだ。だから、美雪とはもうできない。今まであったことも全て忘れて欲しい。ただの友達に戻ろう。」
 そう、遥は言った。私は最後に、
 「遥は…忘れ…られるの?…」
 とそう尋ねた。一つ一つ丁寧に言葉を選んで、それでも、こんな少ししか絞り出すことができなかった。遥は
 「忘れるよ」
 と、そう答えた。その後、何を話しして、解散したか全く覚えていない。気づいたら家に帰ってきていて、ベットの上に横になり天井を眺めていた。
 私は、もう友達にも戻れないかもしれないという不安と、今まで誰よりも長く一緒に居たのにという悔しさが、どうしようもないほどに溢れてきた。彼に言いたいこと聞きたいことが沢山あった。好きではない私は遥にとってどんな存在だったのか。遥の中で特別になれたのだろうか。遥はあの時どんなことを思っていたのだろうか。遥の気持ち全てが知りたかった。それを知ることで、少しでも報われたかった。
 私は遥に「今までのことは全て忘れて」と、言われたけれど、忘れたくなかった。それに、私は遥に忘れて欲しくなかった。全てなくなってしまうのが嫌だった。今まで一緒に居た時間が全て無駄になって行く気がした。
 いつか終わると知っていた。でも知りたくなかった。「終わることの何が悪いの?」と誰かが言っていた。確かにそうだった。終わるべきものなんだ。私と遥の関係は。でも、私にとってとても大切だった。私にしかわからない大切な時間だった。
 私は天井を見ながら彼の顔を思い出していた。彼に言いたかった言葉が涙に変わり一粒一粒静かにこぼれ落ちた。
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