【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ

浅葱

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17.王都へ向けてしゅっぱーつ!

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 日本の一般家庭の火力ではパラパラの炒飯はなかなかうまく作れないと聞いたことがある。やはりおいしいパラパラの炒飯を作るには火力が重要なのだ。
 だが美鈴が作る炒飯はいつもパラパラで、とてもおいしかった。
 美鈴はいつもごはんを炊き、溶き卵を先に混ぜていた。卵ごはん状態にしてからたっぷりの油とすでに切っておいた材料で手早く作っていたように思う。俺も同じように試してみるのだがやはりどうもうまくいかない。調理慣れやコツ、センスなどもあるのだろう。味付けはいつも鶏がらスープの素と塩胡椒。これだけでたまらなくうまいのだった。
 どうしても裏が焦げてしまい、時には真っ黒にしてしまう俺の炒飯を美鈴は「おいしい、おいしい」と言って食べてくれる。もちろん黒焦げの部分は食べさせないけれど、時々うまく黄金色に焦げると美鈴は何度も絶賛した。

「ホント、竜樹の作る炒飯っておいいしよねぇ」
「美鈴が作ったのの方がぜったいうまい」

 ノロケんなと言われそうだが本当に俺はそう思っていた。
 でも美鈴が喜ぶから。
 ろくに料理もできない俺が唯一作っていたのが、その裏がどうしても焦げてしまう炒飯だった。

「美鈴に早く会いたい……」

 王都への旅の準備を整えた夜、俺はぼんやりと呟いた。猫紙は毛づくろいをしていたが、一瞬顔を上げた。

「あと五日の辛抱じゃろうて」
「でも、美鈴にフられたらどうしよう……」

 猫紙はフン、と鼻息を出すと毛づくろいの続きに戻った。

「そしたら……今度こそ死ねばいいのか……」
「……厭世的になるなとは言わぬが、まだ見ぬ未来を悪く想像して何が楽しい?」
「楽しくない……」
「じゃろう。夜はついつい考えてしまうものじゃ。寝るがよい」

 それもそうかなと思い、俺は寝ることにした。
 ちなみに、ミンメイの荷物は持てるだけ持っていってもいいと言われた。村長もこれでお別れするつもりなのだろう。たまに手紙をよこすように言っていたからそれなりに情はあるようだと俺は思った。そんなわけでミンメイの部屋にあるものを片っ端からアイテムボックスに突っ込んだ。50cm四方以上の幅があるものは入らないので家具を持っていくことはできなかったが、もし可能だったら家具も運んでいくつもりだった。経験値によって拡張していくというからいろいろ経験する必要があるのが面倒ではある。
 それほど大きくない鍋などは持ち運び用の袋の中に入れた。あとでアイテムボックスに収納しなおすにしてもある程度荷物はないと不自然だからだ。


 翌朝、朝食を食べた後お弁当をもらって俺たちは村を出た。見送りにはミンメイの兄嫁が出てきて、「強く生きるのよ」と言いながら何かをミンメイの手に握らせていた。ミンメイの兄は不穏なかんじだったが、兄嫁は本当に彼女を気にかけていたのだろう。ミンメイは少し涙ぐみながら俺と共に乗り合い馬車の乗り場へと急いだ。
 結局ミンメイの兄はちょっかいを出してくることはなかったが、俺に対する敵意を籠めたような視線だけは少し頭に残った。
 さて、猫紙は馬車の中でもおとなしくしてもらうことになっている。三毛猫連れだというと猫の分は半額だと言われた。乗合馬車の運賃はミンメイの家から払ってもらうことになっているのでそれに甘えることにした。それにしても一文無しはつらい。早く王都へ行って働かなくては。
 馬車に乗ると猫紙は当然のようにミンメイの膝に納まった。ミンメイが嬉しそうな顔をしてそっと猫紙を撫でる。猫紙は気持ちいいのか目を細め喉をごろごろと鳴らした。俺の背中にくっついてた時は一度も喉なんか鳴らさなかったじゃないかとちょっと不満である。三毛猫がいるせいか、俺たちの周りは自然と女性と子どもで埋められた。
 まずはこの馬車に乗ってチュワン村まで移動する。チュワン村には明日の昼頃着く予定らしい。おおっといきなり野宿かよ。女性と子どもは馬車の中で眠れることになっているが男たちは別だ。それに食事は各自である。馬を休ませる必要がある為ところどころで休憩がとられ、その間に食べるか、携帯食料などの場合は馬車が動いている間に食べる人もいるらしい。
 俺? 猫紙もいるから馬車が止まった時でいいかな。
 今日はとてもいい天気だ。馬車は幌も何も被せていないので風は気持ちいいが陽射しがつらい。こっそり猫紙に水を出してもらい、首に巻いた布を濡らしてミンメイに渡した。

「?」
「首に巻いとくと少しは涼しいぞ。汗が出たらそれで拭けばいいしな」
「あ、ありがとうございます」

 ミンメイは少しはにかみながら笑顔を向けてくれた。馬車は南に向かうらしい。どんどん暑くなるのだろうなと俺はげんなりした。
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