【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ

浅葱

文字の大きさ
31 / 51

31.王城に向かうことになりまして

しおりを挟む
 ミンメイは留守番することになった。本当はとても心配だったが、猫紙の加護が俺の次に強いのでめったなことは起きないと猫紙に保証された。

「本当に大丈夫か?」
「大丈夫です。タツキさんは心配性ですね。運命を司る神様に保証していただけているのです。万人力ですよ」

 ミンメイがころころ笑いながらそう言った。俺はミンメイの腕の中に抱かれている猫紙をじーっと見た。

〈猫紙さま、本当に頼みますよ〉
〈疑り深い奴じゃのう。そんなんではすぐにこの娘にも愛想をつかされるぞ〉
〈心配はしてもしすぎるってことはないですからね〉

 だってここは異世界だ。俺はまだこの世界を全然知らない。

「そろそろ参りましょう。ミンメイ殿はこちらで丁重におもてなししますよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 パンズに声をかけられて、俺はミンメイから猫紙を受けとるとしぶしぶ馬車に乗った。
 用意してもらった衣装は、果たして古代の漢服と呼ばれるようなものだった。下着、丈の短い着物のようなシャツを着せられ、その下にズボン。更にその上に藍色の着物のような服を羽織らされ、黒い帯で留めて着させられた。謁見の際は更にこの上からコートのような着物(着物ではなくハン服というらしい)を着せられるらしい。髪は短いのでこのままだが、それでは粗野な印象を与えるということで布の帽子を被せられた。どれも肌触りがよく、上質であることは感じられた。全体的にゆったりとした服なので窮屈なかんじはないが、身が引き締まる思いだった。この衣裳を着てみせた時、ミンメイは、

「タツキさん素敵です!」

 と感動したように誉めてくれて嬉しかった。

「馬子にも衣装よな」

 猫紙には少しだけ殺意を覚えたのは余談である。
 馬車の中でパンズが着いた後の流れを説明してくれた。
  本来ならば馬車は王城に入ってすぐの車停めで降りるようだが、猫紙をお連れしたということで、特別にもっと奥まで馬車を入れていいらしい。猫紙がふふんという顔をした。なんともふてぶてしい。

「 ……今そなた、失礼なことを考えなんだか?」
「ヤダナー、猫紙サマノキノセイデスヨー」
「全く……」

 全く、と言いたいのはこっちだ。
 大きな朱塗りの門を二つほど越えてから、降りるよう促された。でかい立派な平屋建ての建物が広場の先に見える。どうやらその建物には向かわないらしく、脇の道を通ってその建物の後ろにある建物に通された。屋根瓦は黄色っぽいが建物は朱塗りである。いかにも中国の古代建築物っぽかった。パンズはここに、と指定された場所で跪いたが、俺は猫紙を抱いたままなので立ったままで待っているようにと言われた。建物の中は思ったよりも広くなかった。本当はじっくり見たかったが、さすがにまずいだろうと我慢した。俺えらい。猫紙に白い目で見られた気がしないでもないがえらいったらえらいのだ。

「ケイ王様のおな~り~」

 なんか銅鑼のようなものがバーンバーンと鳴らされて、うるさいなと思っていたら、頭にすだれのついた帽子のようなものを被ったおじさんが大股で歩きながら出てきた。一応立ったままで頭を軽く下げる。

〈何故頭を下げる〉
〈俺日本人だし〉
〈そなたは我の加護を一番に受けているのだ。王ごときに頭を下げるでない〉
〈はーい〉

 それはそれで面倒だ。頭を下げて怒られるってなんなんだよ。おじさんが一番豪奢な椅子の前でこちらを振り向いたことから、その人が王様だということがわかった。
 その後で、おじさんに雰囲気の似た青年が出てきた。こちらはなかなかのイケメンである。イケメンは不機嫌そうな顔をして、何故か俺を睨み付けた。
 え? なんで俺睨まれてんの?

〈不遜な王子じゃのう〉
〈あれ王子なのか〉
〈ああ、あれじゃ〉

 内心とても不敬なことを考えながら、それを顔に出さないようにする。

「運命を司る神を連れてきたと聞いたが、それに相違ないか」

 王様の側に控えていた人が尋ねる。これ、直接口をきいちゃいけないパターンか。面倒だな。

「おそれながら申し上げます。こちらにいるのが神の加護を受けているタツキ様です。その腕の中にいらっしゃるのが運命を司る神様でございます」

 パンズが跪いたまま厳かに告げる。なんか俺、「様」つけられちゃったよ。笑わないようにするのがたいへんだ。

「その猫が神だと? 世迷い言も大概にせよ!」
「王子、黙れ」

 王様に冷静に窘められ、王子は顔を歪めて黙った。せっかくのイケメンが台無しだ。

「運命を司る神様の此度の降臨を歓迎すると共に、末永いご滞在を願います」

 王様がなんか難しいことを言っている。

「我は忙しい。用事を済ませたらこのタツキと共に人探しの旅に出る」

 猫がしゃべったことに驚きの表情を浮かべたのは王子だけだった。この王子大丈夫か。

「人探しとは? もしよろしければこちらでお探しいたします。なんなりとお申し付けください」
「そうじゃのう。ここで見つかるならば話は早い。タツキはどうじゃ」
(え? ここで俺にフルわけ)

 確かに早く見つかるにこしたことはないけどさ。でもなあ。

「見つかるのであれば喜ばしいことかと」

 慣れない微笑みみたいなものを浮かべ、俺は目線を下に向けた。さすがに王様を直接見ちゃだめだろう。

「そういうことでしたら迅速に探させましょう。後ほどその者の特徴をお知らせいただければ幸いです」
「うむ。して、運命の伴侶を知りたいという者はそこの王子でよいのか」
「はい。王子よ、これへ」
「はい」

 王子が不機嫌そうな表情を浮かべたまま、タツキから少し離れた正面に立った。

「王子よ。そなた歳はいくつじゃ」

 呆れたように猫紙が聞く。

「17になりました」

 そっかー。うちの国じゃ未成年だなー。それじゃ幼いのもしょうがないか。

〈この世界の成人は15歳じゃ。とっくに成人しておるわ〉

 成人した王子がこんな態度をしているのはさすがに問題か。

「祈るがよい。さすれば王子の運命の伴侶が見つかるであろう」

 みな目を閉じて猫紙に祈りを捧げる。すると猫紙がだんだんと光り始めた。

〈うおう、光りはじめたー〉
〈そなたも祈るがよい〉
〈なんで俺が〉
〈その方が演出がよりよくなる〉
〈そういうことかー〉

 信仰心を集めれば権能? みたいなのが増えるんだもんな。俺も猫紙を讃えるよう祈り始めた。すると光が更に強くなった。目を閉じていても感じられるぐらいである。

「王子の運命の伴侶はー」

 みなが目を開ける。

「レイ王国の第三王女。リンリンフアじゃ」
「なんだと!?」

 猫紙が告げた途端、王子が怒りだした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...