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30.また炒飯を作らせてもらった。どうしても後ろは焦げるらしい
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その日のうちにパンズは王城へ使いを出してくれた。
夜は商人のパンズと夕食を共にした。広い食堂の、普段ならパンズが腰掛けるだろう場所に俺と猫紙の席が用意されていたので、ちょっとびびった。ミンメイは従者の扱いで離れた席を用意されたことから、俺たちもそちらに移動することにした。ミンメイのおかげでここまでこれたのだ。それを伝えたらミンメイの席は俺の隣になった。俺は忘恩の徒にはなりたくない。ミンメイはやたらと恐縮していたがこればっかりは譲れなかったのだ。
夕飯はやっぱり中華料理だった。とはいっても油ギッシュなものではなく全てが上品に盛り付けられた贅沢なものだった。フカヒレの煮物とか初めて食べた。うおう、口の中で溶ける~。生きててよかった。
翌日、朝のうちに王城から返答があった。夕方王に謁見できることになったらしい。衣裳などはパンズが用意してくれるという。いずれお返しをしなければなるまい。
昼は料理大会のことを聞いたついでに炒飯を作らせてもらった。
「油は少なめでけっこうです」
野菜類は人参、玉ねぎ、ピーマンなどをみじん切りにしたものと、俺が捕った鳥の肉を細かく切って用意してもらう。(かなり贅沢だと言われた。俺が捕る鳥はどれも貴重らしい)卵を先に炒め、炊き立ての米を使って作った。油はチー油、塩、胡椒に、鶏がらスープの素のようなものもあった。中華鍋を持てば作り方はわかる。ミンメイの村で作ったように作る。
「ほうほう……これは一般的に言われる炒飯とは違いますな。裏が適度に焦げているというのは新鮮です」
パンズはさっそく味見をしに来てそんな感想を言った。そんなこと言われても俺にはこれしか作れるものはないんだけどな。
「タツキさんの炒飯おいしいです!」
ミンメイが嬉しそうに食べてくれた。後ろがおこげのようになっていて固まっている部分も、「かりかりしておいしい!」と言いながら。パンズも何度もおかわりして食べてくれたからおいしかったのだろう。よかったよかった。
「料理大会と言いますと……二月程前にありましたな」
というと元の世界の時間換算だと五日ぐらい前か。あの幼女一応仕事してたんだな。
ちょっとだけ見直した。
「その優勝者について何か知りませんか?」
「確か若い女性でしたかな。冒険者をしていると聞いたように思います」
「冒険者、ですか」
俺はなったばかりだからランクは六だ。ただこのまま薬草などを納め続ければすぐに五に上がるとは聞いていた。
「彼女のランクとかわかります?」
「……確か、二か三ぐらいだと聞いたように思います」
「二か三!?」
三以上になるには試験があるはずだ。ということは美鈴はそれの試験に合格したということである。
あ、でも、と思い直した。
「二か三って、基準としてはどうなんでしょう。どういうことができるランクなんですか?」
「三であれば行商の際の護衛を頼むのに遜色はないですな。二であれば魔物討伐を頼まれることも多いかと」
「はー……そしたらけっこういいランクなんですかね」
「かと思われます」
元々反射神経はよくスポーツも得意だった美鈴だ。ランクが二と言われても不思議ではないが、そうなるまでにどれほどの苦労をしたのだろう。
二年だ。俺が美鈴を失ってぼーっとしていた二か月間、どんな風に生きてきたのだろうか。
「その冒険者って今どこにいるんですかね?」
「確か、一月ほど前は王子が引き留めていると耳にしましたがその後は音沙汰がないですな」
〈猫紙さま、囚われている可能性ってあるかな〉
心の中で話しかける。
〈……わからぬ。ただ、王城にいるならば王城に行けばいるかいないかはわかるはずじゃ〉
〈……そっか〉
神さまといっても役割ごとにいるんじゃ万能ではないわな。あーでも信仰心の有無だっけ? 俺とミンメイだけじゃとても足りないか。
〈……そなた、今また失礼なことを考えなんだか?〉
〈ヤダナー、猫紙さまのキノセイデスヨー〉
このやりとりいつまで続けるんだろーか。
「じゃあ王都を出ている可能性もあるわけですね」
「失礼ですが、その冒険者が探し人なのでしょうか?」
「おそらくそうではないかと思っています。本人を見たわけではないので確信はありませんが」
そういえば昨日猫紙が運命を司る神だと知ってからパンズの口調が丁寧になった。猫紙の加護を受けているからだろうか。信仰していれば加護は与えられるらしいが。
「なるほどなるほど。それではその冒険者についても尋ねてみましょう。王城を去ったということであれば冒険者ゴンフイなどを通じて依頼をするという方法もあります」
「お手数おかけします」
「いえいえ。できましたらこの館にいつまでも留まっていただきたいと考えておりますからな」
はっはっはっとパンズは腹を揺らして笑った。わかりやすくていいことだ。
お礼にもっと鳥を捕まえることにしよう。部屋のベッドも上等ですごくよく眠れたし。羽毛布団サイコーでした。
そしてその日の夕方、俺たちは馬車に乗って王城へ向かったのだった。
ーーーー
冒険者のランクについては21話を参照してください。
夜は商人のパンズと夕食を共にした。広い食堂の、普段ならパンズが腰掛けるだろう場所に俺と猫紙の席が用意されていたので、ちょっとびびった。ミンメイは従者の扱いで離れた席を用意されたことから、俺たちもそちらに移動することにした。ミンメイのおかげでここまでこれたのだ。それを伝えたらミンメイの席は俺の隣になった。俺は忘恩の徒にはなりたくない。ミンメイはやたらと恐縮していたがこればっかりは譲れなかったのだ。
夕飯はやっぱり中華料理だった。とはいっても油ギッシュなものではなく全てが上品に盛り付けられた贅沢なものだった。フカヒレの煮物とか初めて食べた。うおう、口の中で溶ける~。生きててよかった。
翌日、朝のうちに王城から返答があった。夕方王に謁見できることになったらしい。衣裳などはパンズが用意してくれるという。いずれお返しをしなければなるまい。
昼は料理大会のことを聞いたついでに炒飯を作らせてもらった。
「油は少なめでけっこうです」
野菜類は人参、玉ねぎ、ピーマンなどをみじん切りにしたものと、俺が捕った鳥の肉を細かく切って用意してもらう。(かなり贅沢だと言われた。俺が捕る鳥はどれも貴重らしい)卵を先に炒め、炊き立ての米を使って作った。油はチー油、塩、胡椒に、鶏がらスープの素のようなものもあった。中華鍋を持てば作り方はわかる。ミンメイの村で作ったように作る。
「ほうほう……これは一般的に言われる炒飯とは違いますな。裏が適度に焦げているというのは新鮮です」
パンズはさっそく味見をしに来てそんな感想を言った。そんなこと言われても俺にはこれしか作れるものはないんだけどな。
「タツキさんの炒飯おいしいです!」
ミンメイが嬉しそうに食べてくれた。後ろがおこげのようになっていて固まっている部分も、「かりかりしておいしい!」と言いながら。パンズも何度もおかわりして食べてくれたからおいしかったのだろう。よかったよかった。
「料理大会と言いますと……二月程前にありましたな」
というと元の世界の時間換算だと五日ぐらい前か。あの幼女一応仕事してたんだな。
ちょっとだけ見直した。
「その優勝者について何か知りませんか?」
「確か若い女性でしたかな。冒険者をしていると聞いたように思います」
「冒険者、ですか」
俺はなったばかりだからランクは六だ。ただこのまま薬草などを納め続ければすぐに五に上がるとは聞いていた。
「彼女のランクとかわかります?」
「……確か、二か三ぐらいだと聞いたように思います」
「二か三!?」
三以上になるには試験があるはずだ。ということは美鈴はそれの試験に合格したということである。
あ、でも、と思い直した。
「二か三って、基準としてはどうなんでしょう。どういうことができるランクなんですか?」
「三であれば行商の際の護衛を頼むのに遜色はないですな。二であれば魔物討伐を頼まれることも多いかと」
「はー……そしたらけっこういいランクなんですかね」
「かと思われます」
元々反射神経はよくスポーツも得意だった美鈴だ。ランクが二と言われても不思議ではないが、そうなるまでにどれほどの苦労をしたのだろう。
二年だ。俺が美鈴を失ってぼーっとしていた二か月間、どんな風に生きてきたのだろうか。
「その冒険者って今どこにいるんですかね?」
「確か、一月ほど前は王子が引き留めていると耳にしましたがその後は音沙汰がないですな」
〈猫紙さま、囚われている可能性ってあるかな〉
心の中で話しかける。
〈……わからぬ。ただ、王城にいるならば王城に行けばいるかいないかはわかるはずじゃ〉
〈……そっか〉
神さまといっても役割ごとにいるんじゃ万能ではないわな。あーでも信仰心の有無だっけ? 俺とミンメイだけじゃとても足りないか。
〈……そなた、今また失礼なことを考えなんだか?〉
〈ヤダナー、猫紙さまのキノセイデスヨー〉
このやりとりいつまで続けるんだろーか。
「じゃあ王都を出ている可能性もあるわけですね」
「失礼ですが、その冒険者が探し人なのでしょうか?」
「おそらくそうではないかと思っています。本人を見たわけではないので確信はありませんが」
そういえば昨日猫紙が運命を司る神だと知ってからパンズの口調が丁寧になった。猫紙の加護を受けているからだろうか。信仰していれば加護は与えられるらしいが。
「なるほどなるほど。それではその冒険者についても尋ねてみましょう。王城を去ったということであれば冒険者ゴンフイなどを通じて依頼をするという方法もあります」
「お手数おかけします」
「いえいえ。できましたらこの館にいつまでも留まっていただきたいと考えておりますからな」
はっはっはっとパンズは腹を揺らして笑った。わかりやすくていいことだ。
お礼にもっと鳥を捕まえることにしよう。部屋のベッドも上等ですごくよく眠れたし。羽毛布団サイコーでした。
そしてその日の夕方、俺たちは馬車に乗って王城へ向かったのだった。
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冒険者のランクについては21話を参照してください。
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