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エピローグ~それぞれの選択
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高校生のうちに免許を取って、卒業後は麓の町で調理師学校に通い始めた。
下宿先を探していたら、嵐山さんがチェシャ猫みたいな顔をして「家賃まけておくよー」とかすごいことを言った。どうやら麓の町でもアパートを経営していたらしくそこに住まわせてもらうことになった。どんだけ金持ってんだよ? 寮に住むのが嫌な生徒の為? あっそう。
休日は学校の手伝いをすることを条件に、家賃をまけてもらえた。(いろいろ認めてくれた両親にも感謝している。弟は上海で暮らすことが楽しくなり、今は生き生きとしているそうだ)
「いやー、やっぱ大林君がいなくなると僕の仕事が増えちゃうじゃない? いくら生物管理部とか作ったってさー、やっぱ大林君がいないとしまらないっていうかー」
「俺一応卒業生なんですからそんなに頼っちゃだめでしょ」
どうやら便利屋扱いされているらしい。
「ピー太君は大林君に会いたいんだからいーじゃん」
いーじゃんてアナタ、いい大人じゃないのか。
それでもピー太と共にいられる時間が増えるのは大歓迎だった。
免許は取ったけど、休みの日にここにくるだけだから麓の町からバスに乗って来ている。お昼ご飯はお金を払って寮で食べさせてもらっているのだから、甘えていると自分でも思う。
ピコーは村西に付いて山を下りた。やっぱり冬の寒さは厳しかったのだろう。それにけっこう太ってて飛ぶのがたいへんそうだったし。
「ちゃんと俺が健康管理するよ」
村西はそう言って、嬉しそうにピコーを連れていった。村西は地元の大学に入った。
さて、稲村はどうしたかというと、高校を卒業して地元の大学に通い始めた。ピーコに「一緒に行かない?」とアプローチしたがピーコはそっぽを向いた。
「ピーコちゃああ~ん!」とあの時は泣いていた。気持ちはわかる。
ピーコはピー太が好きで、一緒にいたかったのだろう。
「僕、教育学部に入りましたから! この学校で雇ってもらえるよう努力します!」
稲村は嵐山さんにそう宣言した。
「うんうん、いいよー。ちゃんといい成績で卒業してきてね。教師は何人いてもいいしね~」
嵐山さんはにこにこしていた。だから稲村は大学に普通に四年通って、教員免許を取ってから高校に戻ってくる予定だ。
「ごめーん、遅れたー」
「大丈夫か?」
稲村が走ってきた。どうにか朝早い電車に間に合ったらしい。
稲村はこうしてたまに高校を訪ねてくる。俺の休みに合わせて。今夜うちで一泊して、明日地元に帰るのだ。
「うん、へーき。バスは?」
「これから来るぞ」
バスに乗って山の中腹の高校へと向かう。
「三週間ぶりー。ピーコちゃん忘れてないといいなー」
「覚えてるだろ」
ちょっと見ない間にお互い背が伸びている。まだまだ成長期でいいかんじだ。俺もやっと身長が170cmに届いた。だがまだ稲村には届かない。高校に入学した当初はあんなにひょろひょろしてて俺より少し背が高い程度だったのに、今は筋肉もほどよくついてイケメンに見える。ムカつく。
「トモ君、背ぇ伸びた?」
「ああ、170になったぞ」
「おめでとー!」
「……稲村、お前もっと伸びただろ……」
「あ、わかる?」
睨むとへへへと笑われた。笑ったって誤魔化されないんだからな。座っていると感じないが、バス停に降り立った時ムッとした。
多分これ、180cmぐらいあるだろ。
「なんかここに降り立つとさー、初めてここに来た時のことを思い出すよー」
「そうだな」
稲村のしみじみとした物言いに頷いた。学校の入口にいる事務のおじさんに挨拶をして、寮へ向かう。相変わらず寮の入口に嵐山さんがいた。
「おー、稲村君も来てくれたんだねー。それじゃ力仕事も任せちゃおうか」
「えー? そんなの生徒に頼んでくださいよー」
嵐山さんと稲村がそんなことを言っていたら、バサバサと羽ばたく音がした。
振り向けば、寮の側の木の上にピー太たちが留まっていた。
「ピー太、ただいま」
「トモーノリー!」
ピー太はまっすぐ俺に向かって飛んできて、俺の肩に留まってくれた。いつだってこうしてピー太は俺を迎えてくれる。
調理師学校は二年間通うつもりだ。調理師免許を取ったら、ここで働かせてもらう予定である。その時には、寮に住まわせてももらえるらしい。だから平日はとにかく勉学に励んでいる。つっても実践で調理をするのは楽しいことでしかないんだけどな。
「ピー太、小屋の様子を見たいから案内してくれるか?」
「オッケー!」
「あ、トモ君ずるーい。僕も行くよー」
ピーコも飛んできて、稲村の胸に留まった。ピーコは胸に留まるのがお気に入りらしい。
「ピーコちゃん、久しぶり~」
稲村の顔が途端にデレデレになった。
「いいねぇ、青春だねえ」
嵐山さんがにこにこしながら言う。おじいちゃんかよと思った。
そうして嵐山さんと、生物管理部の後輩たちも一緒に林へと向かった。
ピー太は俺の腕に移って、嬉しそうに身体を揺らしている。まるで音楽にのって踊っているみたいだ。
この先何があるかなんてわからないけど、せっかくピー太の側にいられるのだから全力でかわいがろうと思う。
調理師学校卒業後の未来を想像して、俺もまた頬を緩ませたのだった。
おしまい。
最後までお付き合いありがとうございました。
感想などいただけると幸いです。
それではまた次の物語でお会いしましょう~
下宿先を探していたら、嵐山さんがチェシャ猫みたいな顔をして「家賃まけておくよー」とかすごいことを言った。どうやら麓の町でもアパートを経営していたらしくそこに住まわせてもらうことになった。どんだけ金持ってんだよ? 寮に住むのが嫌な生徒の為? あっそう。
休日は学校の手伝いをすることを条件に、家賃をまけてもらえた。(いろいろ認めてくれた両親にも感謝している。弟は上海で暮らすことが楽しくなり、今は生き生きとしているそうだ)
「いやー、やっぱ大林君がいなくなると僕の仕事が増えちゃうじゃない? いくら生物管理部とか作ったってさー、やっぱ大林君がいないとしまらないっていうかー」
「俺一応卒業生なんですからそんなに頼っちゃだめでしょ」
どうやら便利屋扱いされているらしい。
「ピー太君は大林君に会いたいんだからいーじゃん」
いーじゃんてアナタ、いい大人じゃないのか。
それでもピー太と共にいられる時間が増えるのは大歓迎だった。
免許は取ったけど、休みの日にここにくるだけだから麓の町からバスに乗って来ている。お昼ご飯はお金を払って寮で食べさせてもらっているのだから、甘えていると自分でも思う。
ピコーは村西に付いて山を下りた。やっぱり冬の寒さは厳しかったのだろう。それにけっこう太ってて飛ぶのがたいへんそうだったし。
「ちゃんと俺が健康管理するよ」
村西はそう言って、嬉しそうにピコーを連れていった。村西は地元の大学に入った。
さて、稲村はどうしたかというと、高校を卒業して地元の大学に通い始めた。ピーコに「一緒に行かない?」とアプローチしたがピーコはそっぽを向いた。
「ピーコちゃああ~ん!」とあの時は泣いていた。気持ちはわかる。
ピーコはピー太が好きで、一緒にいたかったのだろう。
「僕、教育学部に入りましたから! この学校で雇ってもらえるよう努力します!」
稲村は嵐山さんにそう宣言した。
「うんうん、いいよー。ちゃんといい成績で卒業してきてね。教師は何人いてもいいしね~」
嵐山さんはにこにこしていた。だから稲村は大学に普通に四年通って、教員免許を取ってから高校に戻ってくる予定だ。
「ごめーん、遅れたー」
「大丈夫か?」
稲村が走ってきた。どうにか朝早い電車に間に合ったらしい。
稲村はこうしてたまに高校を訪ねてくる。俺の休みに合わせて。今夜うちで一泊して、明日地元に帰るのだ。
「うん、へーき。バスは?」
「これから来るぞ」
バスに乗って山の中腹の高校へと向かう。
「三週間ぶりー。ピーコちゃん忘れてないといいなー」
「覚えてるだろ」
ちょっと見ない間にお互い背が伸びている。まだまだ成長期でいいかんじだ。俺もやっと身長が170cmに届いた。だがまだ稲村には届かない。高校に入学した当初はあんなにひょろひょろしてて俺より少し背が高い程度だったのに、今は筋肉もほどよくついてイケメンに見える。ムカつく。
「トモ君、背ぇ伸びた?」
「ああ、170になったぞ」
「おめでとー!」
「……稲村、お前もっと伸びただろ……」
「あ、わかる?」
睨むとへへへと笑われた。笑ったって誤魔化されないんだからな。座っていると感じないが、バス停に降り立った時ムッとした。
多分これ、180cmぐらいあるだろ。
「なんかここに降り立つとさー、初めてここに来た時のことを思い出すよー」
「そうだな」
稲村のしみじみとした物言いに頷いた。学校の入口にいる事務のおじさんに挨拶をして、寮へ向かう。相変わらず寮の入口に嵐山さんがいた。
「おー、稲村君も来てくれたんだねー。それじゃ力仕事も任せちゃおうか」
「えー? そんなの生徒に頼んでくださいよー」
嵐山さんと稲村がそんなことを言っていたら、バサバサと羽ばたく音がした。
振り向けば、寮の側の木の上にピー太たちが留まっていた。
「ピー太、ただいま」
「トモーノリー!」
ピー太はまっすぐ俺に向かって飛んできて、俺の肩に留まってくれた。いつだってこうしてピー太は俺を迎えてくれる。
調理師学校は二年間通うつもりだ。調理師免許を取ったら、ここで働かせてもらう予定である。その時には、寮に住まわせてももらえるらしい。だから平日はとにかく勉学に励んでいる。つっても実践で調理をするのは楽しいことでしかないんだけどな。
「ピー太、小屋の様子を見たいから案内してくれるか?」
「オッケー!」
「あ、トモ君ずるーい。僕も行くよー」
ピーコも飛んできて、稲村の胸に留まった。ピーコは胸に留まるのがお気に入りらしい。
「ピーコちゃん、久しぶり~」
稲村の顔が途端にデレデレになった。
「いいねぇ、青春だねえ」
嵐山さんがにこにこしながら言う。おじいちゃんかよと思った。
そうして嵐山さんと、生物管理部の後輩たちも一緒に林へと向かった。
ピー太は俺の腕に移って、嬉しそうに身体を揺らしている。まるで音楽にのって踊っているみたいだ。
この先何があるかなんてわからないけど、せっかくピー太の側にいられるのだから全力でかわいがろうと思う。
調理師学校卒業後の未来を想像して、俺もまた頬を緩ませたのだった。
おしまい。
最後までお付き合いありがとうございました。
感想などいただけると幸いです。
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