もふもふ天国

浅葱

文字の大きさ
3 / 11

3.もふもふは癒しなのです

しおりを挟む
 そして、私と大きな猫の穏やかな生活が始まった。
 いろいろ調べてみたが虎やライオンよりも大きな猫は存在しないらしい。アメリカにメインクーンというじゃがいもみたいな名前の大きな家猫がいるらしいが、それでも体長1メートルぐらい。しかしうちの家主猫は3メートルぐらいあるように見える。
 メジャーで測ろうとしたらさすがに怒られた。ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
 ごめんなさいと謝った。
 もしかしたらこの大きな猫は精霊とか妖怪のたぐいなのかもしれない。
 朝訪ねると大概寝ているので、大学が終って帰宅してから顔を出すようにしたら一緒に居間に出てくるようになった。これ幸いと猫の部屋に掃除機をかけると今度は居間が毛だらけになっていたりと困ることはあるが、目の前で後頭部を後ろ足でかかれる衝撃よりはましだった。毛が飛ぶ飛ぶ飛ぶ。さすがに「きゃああああーーーーっっ!」と叫んだらそれ以来私の前ではしなくなった。
 叫んでしまったのは悪かったと思う。でも目の前を舞う大量の毛に絶望したのだ、あの時は。(掃除したばかりだった)
 猫ってけっこう毛が抜けるんだなと再認識した。
 もしかしたら二人きりになったら人語を話してくれるかなと思ったけどそんなことはない。
 でも食事も必要なければトイレの準備もいらないので不思議ではあった。
 たまたま魚を買ってきて食べていたらじーっと見られていたので「食べます?」と聞いたらすごい早さで掻っ攫われた。
 やっぱり猫だ、とその時は冷汗をかいた。
  大学では顔見知りぐらいはできたが友だちはできなかった。私はサークルに入らずバイトしていたから。サークルに入らないで何のための大学生活なのか! と思う人もいるかもしれないが、生活に余裕のない私にとってお金を稼ぐのは何よりも重要だった。ただ猫が家にいて毎日顔を出さなければいけなかったからそんなに長い時間を働こうと思わなかった。
 

「あー……」

 その日私は沈んでいた。
 大学から少し離れた喫茶店でバイトをしているのだが、そこに同学年の子たちが来たのだ。どっかで見た顔だな、やだなぁと思っていたら向こうもそうだったらしく、

「あれ? あの人同じ大学じゃない? やだー」

 と普通の声で言っていた。思っても口に出すなよ、ととても嫌な気分になった。
 そりゃあお互い様かもしれないけど、そこは……とかもやもやしながら帰宅し、こんな気分のまま猫に会うのは嫌だなと思った。
 水を一杯飲み、両頬に手を当てる。

「……大丈夫。茶々さんを見れば元気になる」

 そう自分に言い聞かせて猫の部屋の扉を開いた。

「茶々さん、ただいま……」

 声をかけると、猫はのっそりと立ち上がり珍しく自分から私の近くまで来た。

「茶々さん?」

 そのままその大きい頭をすりすりと擦り付けてきて、私は戸惑った。そして、泣きたくなった。
 もしかしたら猫は私を慰めてくれているのかもしれない。
 猫に抱きついておいおい泣いた。そんな泣くようなことではなかったけど、猫の優しさが嬉しかった。
 それ以来、私は毎日帰宅してから猫にダイブするようになった。
 猫はそんな私を優しく受け止めてくれた。

「茶々さんが彼氏だったらいいのに」

 そんなバカなことを呟いてしまうぐらい、私はこの大きな猫をすっかり気に入ってしまった。
 それからは、食べ物は与えなくてもいいとは言われていたがたまにお刺身を買ってきて分けたりするようになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...