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十七、過度緊張(極度に緊張する)
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曹家はいわゆる地主である。元々は農民であったが田畑と土地の開墾以外でも金を稼ぎ、どんどん土地を拡げて豪族と呼ばれるまでになった。ただそれはあくまでその地方では権力(のようなもの)があるというだけであり、中央にはあまり関わらなかったが故に貴族には封じられていない。だからこそ皇帝も無茶ができたのではないかというのが大方の理解である。
そこへ嫁いだ明妃の家である黄家は、かつては何人か官僚を出したこともある貴族であった。ただ貴族といっても当時はそれほど裕福ではなかったことから、曹家に請われればそう簡単に断ることはできなかった。明妃の生家ではあるがすでに嫁に出した娘なので、皇帝の妾妃になってからも特になんら恩恵は受けていない。
それらの知識は、明玲が偉仁と血の繋がりがないと聞いてから学んだことである。みなその件に関しては腫れ物に触るような扱いをしていたから、明玲に伝えようとはしていなかった。
「すでに文は送ってあるから、明日にはお会いできると思うわ。そんなにがちがちになっていては疲れてしまうわ。おいしいものでも食べて落ち着きなさい」
「……はい、ありがとうございます」
今日会うわけでもないのに明玲はすでに緊張していた。この辺りは麺が主流らしく、水餃よりも主食として出されたのは汁なしの麺であった。
「その土地によって食べ物が違うというのは面白いですね」
「そうね。土地が違えば育つ作物にも違いがあるのではないかしら。私は不勉強だけれども」
そんなことはないと明玲は思う。趙山琴はとても勉強熱心だ。偉仁を立て、政には決して口を出さないが王の後宮の采配は全て山琴が担っている。これで子さえ生まれれば向かうところ敵なしであろうと明玲には思われた。
「趙姐、そのう……」
「なぁに?」
「ええと、ええと……その……」
子供はいつなのかなんてそんな微妙な質問はしてはいけないのだろう。だが偉仁には妾妃もおり、その妾妃たちも未だ身籠っていないことを考えると、もしかしてと明玲は思ってしまった。
「……もしかして、偉仁哥は子を成せないのでしょうか?」
山琴は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。珍しいものを見たと明玲は思う。
「……そう考えられるというところはすごいわ」
「え……だって哥には妾妃が四人もいらっしゃるでしょう? なのに未だ一人も……」
「そうね。そう冷静に分析できるのは素晴らしいわ。でもね明玲」
山琴は苦笑した。
「子供というのは天からの授かりものなの。私たちがどうのこうのといったからって授かるものではないわ」
「……それは、そうですね」
「明日は昼過ぎにお伺いすることになっているの。体調を万全にして、心穏やかにお会いしましょうね」
「はい!」
この八日間で明玲は山琴といろいろな話をした。山琴は本当に知識が豊富で、もう家庭教師などいらないのではないかと思うほどである。皇子に嫁ぐのだからそれなりの教育は受けていて当たり前だと山琴は言っていたが、学んだからといって身になるとは限らない。聡明で美しい姐にかなう要素など全くないと明玲はしみじみ思った。
ただ、まだ偉仁に嫁ぐまでに時間はある。偉仁が明玲を欲しいと、何が何でも娶ると言っているのだ。
(この想いだけは負けない……)
明玲はぐっと拳を握りしめ、周梨にこっそり呆れられていた。
そこへ嫁いだ明妃の家である黄家は、かつては何人か官僚を出したこともある貴族であった。ただ貴族といっても当時はそれほど裕福ではなかったことから、曹家に請われればそう簡単に断ることはできなかった。明妃の生家ではあるがすでに嫁に出した娘なので、皇帝の妾妃になってからも特になんら恩恵は受けていない。
それらの知識は、明玲が偉仁と血の繋がりがないと聞いてから学んだことである。みなその件に関しては腫れ物に触るような扱いをしていたから、明玲に伝えようとはしていなかった。
「すでに文は送ってあるから、明日にはお会いできると思うわ。そんなにがちがちになっていては疲れてしまうわ。おいしいものでも食べて落ち着きなさい」
「……はい、ありがとうございます」
今日会うわけでもないのに明玲はすでに緊張していた。この辺りは麺が主流らしく、水餃よりも主食として出されたのは汁なしの麺であった。
「その土地によって食べ物が違うというのは面白いですね」
「そうね。土地が違えば育つ作物にも違いがあるのではないかしら。私は不勉強だけれども」
そんなことはないと明玲は思う。趙山琴はとても勉強熱心だ。偉仁を立て、政には決して口を出さないが王の後宮の采配は全て山琴が担っている。これで子さえ生まれれば向かうところ敵なしであろうと明玲には思われた。
「趙姐、そのう……」
「なぁに?」
「ええと、ええと……その……」
子供はいつなのかなんてそんな微妙な質問はしてはいけないのだろう。だが偉仁には妾妃もおり、その妾妃たちも未だ身籠っていないことを考えると、もしかしてと明玲は思ってしまった。
「……もしかして、偉仁哥は子を成せないのでしょうか?」
山琴は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。珍しいものを見たと明玲は思う。
「……そう考えられるというところはすごいわ」
「え……だって哥には妾妃が四人もいらっしゃるでしょう? なのに未だ一人も……」
「そうね。そう冷静に分析できるのは素晴らしいわ。でもね明玲」
山琴は苦笑した。
「子供というのは天からの授かりものなの。私たちがどうのこうのといったからって授かるものではないわ」
「……それは、そうですね」
「明日は昼過ぎにお伺いすることになっているの。体調を万全にして、心穏やかにお会いしましょうね」
「はい!」
この八日間で明玲は山琴といろいろな話をした。山琴は本当に知識が豊富で、もう家庭教師などいらないのではないかと思うほどである。皇子に嫁ぐのだからそれなりの教育は受けていて当たり前だと山琴は言っていたが、学んだからといって身になるとは限らない。聡明で美しい姐にかなう要素など全くないと明玲はしみじみ思った。
ただ、まだ偉仁に嫁ぐまでに時間はある。偉仁が明玲を欲しいと、何が何でも娶ると言っているのだ。
(この想いだけは負けない……)
明玲はぐっと拳を握りしめ、周梨にこっそり呆れられていた。
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