40 / 73
四十、客人
しおりを挟む
毎晩明玲は偉仁に胸をいじられたり、秘められた場所を舐められたりする。それが必要だと言われたら恥じらいながらも逆らうことはできない。だって明玲は偉仁が好きでどうしようもないのだから。
そうして明日には皇都を離れるという夜、偉仁は珍しく客人を連れて帰ってきた。
「お邪魔するよ」
「薊王、ようこそいらっしゃいました」
迎えたのは趙山琴である。優美な所作で挨拶をする山琴を見習わなければと、いつも明玲は思う。
気軽な雰囲気を醸し出しながらやってきた客人は、皇帝の弟である薊王だった。彼は皇帝のように顔は丸くなく、すらりとした美丈夫だった。偉仁が年を重ねたらこんな風になるのだろうかと思うような、風采がとても瀟洒な男性である。
明玲は清明節の頃にこんな素敵な人がいただろうかと記憶を辿ったが、どうしても思い出せなかった。それ以前に緊張していたのと、やはり哥以外には視線を向けていなかったかもしれない。
どれだけ自分は哥が好きなのか。明玲はほんのりと頬を染めた。
「これが偉仁の愛妃か。生まれた時から目をつけていたとはとんでもない寵愛っぷりではないか」
薊王は明玲を見やると面白そうに言った。対する偉仁は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「叔叔(叔父さん)、明玲を誘惑しないでください」
「ははは……可愛い侄儿(甥)の愛妃を誘惑などするものか。……ただ私の魅力に逆らえない女性は多いかもしれないな」
そうおどけたように言い、薊王は片目を軽く閉じてみせた。明玲は内心「ありえない」と思った。明玲は偉仁を想って頬を染めたのだ。
(……うん、あの皇帝の血筋だわ)
変に納得してしまう。それを言ったら偉仁はその息子なのだけれども。
「ほほほ……薊王の後宮は今どうなのでしょう?」
「趙妃にはかなわぬな。哥(兄)ほどはおらぬよ。そうだな、妾妃が……」
薊王が指で数え始める。
「せいぜい十人ほどではないか? 今はあまりかまってやれぬのがつらいな」
「どうぞ妾妃と言わず、劉妃様も思いやってくださいまし」
「ははは……女にはかなわぬ」
薊王は共に夕食を取り、偉仁の部屋で何やら話をしてから帰っていった。てっきり泊まっていくのかと明玲は思っていたがそうではないらしい。近いから大丈夫だと帰っていったという。是非奥様方と仲良くしてほしいものだと明玲は思った。
すでに入浴を済ませていた明玲は哥に呼ばれる。
「薊王は帰られたのですか?」
「ああ、たまには妻たちにかまうそうだ。そろそろ相手をしないと追い出されそうだと言っていたな」
「まぁ……」
明玲は口に手を当てた。夫を追い出すなど剛毅なことである。明玲には到底できそうもないが、山琴ならできそうだとも思った。
何故皇帝の弟が来たのか明玲は少しだけ気になった。中秋で人が集まるからこの機会に交流を深めようという話なのかもしれない。けれど何かが引っかかる。喉の奥に小骨が刺さったような、そんな不快さがあった。
「明玲」
「はい」
「明日は領地に戻る」
「はい」
皇都は嫌いではない。嫌いになるほど皇都の中を巡ったこともない。明玲は皇城の後宮の中にいただけだ。だから皇都がどんなところなのか知らない。蘇王領だって、明玲はほとんど歩いていない。でも哥が少しだけ連れ歩いてくれたり、許可をもらって館の近くの街を散策したりもした。
たったそれだけと言われればそれだけだが、蘇王領の方が明玲にはなじみがある。そう、早く帰りたいなと思うほどに。
「……もしかしたら、明日皇上から声がかかるやもしれぬ」
「そうなのですか」
偉仁はなんとも言いずらそうにこんなことを言った。
「私が出かけている間に、皇城から迎えが来る可能性がある」
「?」
「そなたにだ」
「私に、ですか?」
わけがわからない。何故哥が出かけている間に明玲が呼ばれるのだろう。
「できれば山琴と共に行動してほしいが、迎えの者が難色を示すようなら侍女とそなただけで馬車に乗るといい」
「はい……」
「何も起こらぬならそれでかまわぬ。だがそうなる可能性が高いのだ。もし何も起こらなかったなら、私の言は忘れるように」
「はい」
何が起きているのだろう。明玲の目が不安に揺れた。
「大丈夫だ」
伝えることは伝えたというように偉仁の腕の中に囚われる。何も起こりませんようにと明玲は願った。
そうして明日には皇都を離れるという夜、偉仁は珍しく客人を連れて帰ってきた。
「お邪魔するよ」
「薊王、ようこそいらっしゃいました」
迎えたのは趙山琴である。優美な所作で挨拶をする山琴を見習わなければと、いつも明玲は思う。
気軽な雰囲気を醸し出しながらやってきた客人は、皇帝の弟である薊王だった。彼は皇帝のように顔は丸くなく、すらりとした美丈夫だった。偉仁が年を重ねたらこんな風になるのだろうかと思うような、風采がとても瀟洒な男性である。
明玲は清明節の頃にこんな素敵な人がいただろうかと記憶を辿ったが、どうしても思い出せなかった。それ以前に緊張していたのと、やはり哥以外には視線を向けていなかったかもしれない。
どれだけ自分は哥が好きなのか。明玲はほんのりと頬を染めた。
「これが偉仁の愛妃か。生まれた時から目をつけていたとはとんでもない寵愛っぷりではないか」
薊王は明玲を見やると面白そうに言った。対する偉仁は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「叔叔(叔父さん)、明玲を誘惑しないでください」
「ははは……可愛い侄儿(甥)の愛妃を誘惑などするものか。……ただ私の魅力に逆らえない女性は多いかもしれないな」
そうおどけたように言い、薊王は片目を軽く閉じてみせた。明玲は内心「ありえない」と思った。明玲は偉仁を想って頬を染めたのだ。
(……うん、あの皇帝の血筋だわ)
変に納得してしまう。それを言ったら偉仁はその息子なのだけれども。
「ほほほ……薊王の後宮は今どうなのでしょう?」
「趙妃にはかなわぬな。哥(兄)ほどはおらぬよ。そうだな、妾妃が……」
薊王が指で数え始める。
「せいぜい十人ほどではないか? 今はあまりかまってやれぬのがつらいな」
「どうぞ妾妃と言わず、劉妃様も思いやってくださいまし」
「ははは……女にはかなわぬ」
薊王は共に夕食を取り、偉仁の部屋で何やら話をしてから帰っていった。てっきり泊まっていくのかと明玲は思っていたがそうではないらしい。近いから大丈夫だと帰っていったという。是非奥様方と仲良くしてほしいものだと明玲は思った。
すでに入浴を済ませていた明玲は哥に呼ばれる。
「薊王は帰られたのですか?」
「ああ、たまには妻たちにかまうそうだ。そろそろ相手をしないと追い出されそうだと言っていたな」
「まぁ……」
明玲は口に手を当てた。夫を追い出すなど剛毅なことである。明玲には到底できそうもないが、山琴ならできそうだとも思った。
何故皇帝の弟が来たのか明玲は少しだけ気になった。中秋で人が集まるからこの機会に交流を深めようという話なのかもしれない。けれど何かが引っかかる。喉の奥に小骨が刺さったような、そんな不快さがあった。
「明玲」
「はい」
「明日は領地に戻る」
「はい」
皇都は嫌いではない。嫌いになるほど皇都の中を巡ったこともない。明玲は皇城の後宮の中にいただけだ。だから皇都がどんなところなのか知らない。蘇王領だって、明玲はほとんど歩いていない。でも哥が少しだけ連れ歩いてくれたり、許可をもらって館の近くの街を散策したりもした。
たったそれだけと言われればそれだけだが、蘇王領の方が明玲にはなじみがある。そう、早く帰りたいなと思うほどに。
「……もしかしたら、明日皇上から声がかかるやもしれぬ」
「そうなのですか」
偉仁はなんとも言いずらそうにこんなことを言った。
「私が出かけている間に、皇城から迎えが来る可能性がある」
「?」
「そなたにだ」
「私に、ですか?」
わけがわからない。何故哥が出かけている間に明玲が呼ばれるのだろう。
「できれば山琴と共に行動してほしいが、迎えの者が難色を示すようなら侍女とそなただけで馬車に乗るといい」
「はい……」
「何も起こらぬならそれでかまわぬ。だがそうなる可能性が高いのだ。もし何も起こらなかったなら、私の言は忘れるように」
「はい」
何が起きているのだろう。明玲の目が不安に揺れた。
「大丈夫だ」
伝えることは伝えたというように偉仁の腕の中に囚われる。何も起こりませんようにと明玲は願った。
2
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
契約結婚のススメ
文月 蓮
恋愛
研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる