義兄皇子に囚われて溺愛されてます

浅葱

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四四、眼泪(涙)

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 夜になって、やっと偉仁が後宮を訪れた。
 明玲は不安でたまらなかったが、母たちを困らせてはならないと気丈に振舞っていた。だがそれも偉仁の顔を見たことで崩れてしまった。泣きそうになるのをどうにかこらえる。

「遅くなりまして申し訳ございません」

 兵士に扉を開けさせて扉の前で礼をとった偉仁に、芳妃は呆れたような顔をした。

「……まずこちらに少しでも早く顔を出すのが筋ではなくて? ……まぁいいわ。明玲ミンリンを抱きしめてあげなさい。ずっと貴方が来るのを待っていたのよ」
「ありがとうございます。失礼します」

 偉仁はそう断って芳妃の部屋に入ると、まっすぐ明玲の前まで来た。立ち上がろうとする明玲を制し、偉仁は跪くとそのまま彼女を抱きしめた。

「明玲、すまなかった」

 明玲は震える手で偉仁の肩に手を回した。

「……グァ……信じていました……だから……」

 私は大丈夫ですと明玲は言おうとしたけれど、それはかなわなかった。偉仁がもう言わなくてもいいというように明玲を更にきつく抱きしめたから。

「……うう……」

 泣いてしまう。こんな風に抱きしめられたら。そうしたら哥を困らせてしまう。
 明玲は目の奥がツンとするのを感じた。抑えなければと思うのに、目がどんどん潤んできて一粒落ちたら止まらなくなってしまった。

「……うううーっ……!」

 本当はとても怖かった。哥に、何かが起こるかもしれないと事前に言われていたからそれほど動揺しないですんだとは思う。でもまさか聖旨を出されるなんて。そんな、とんでもないものを出してまで明玲を呼びつけるなんてありえないと思った。後宮に連れて来られて皇帝の妾妃になれなんて、なんの間違いなのかと、皇帝は何を考えているのかと叫び出しそうになった。
 明玲は哥のものだ。それは皇帝にだって覆せない。
 そう、それこそ天と地が合わさることでもない限り。

「……哥……哥……」
「……本当にすまなかった。そなたにつらい思いをさせた」
「……言い訳はしないのね。そこは評価してあげるわ」

 芳妃が面白そうに言った。

「何が起きているのか、説明できることはしますが言い訳はできません」
「そうね。じゃあ、明玲を抱いたままでいいから説明してもらえる? それとも一度帰る?」
「明玲」

 偉仁は明玲に声をかけた。自分に選ばせるなんてひどい人だと明玲は思った。でも有無を言わさず決められるよりはいいとも思うから複雑ではある。

「……教えてください。何が起きているのか……」
「わかった、話そう」

 偉仁は一度明玲を離すと、自分が椅子に腰かけた。そして明玲を当たり前のように横抱きにした。

「っっ!? 哥っ……」
「こうすればそなたの顔が見える」
「あー、熱い熱い。お茶を淹れてちょうだい」

 芳妃が扇で自分を仰いだ。明妃はにこにこしながら明玲と偉仁を眺めている。ある意味母が一番強いのではないかと明玲は思った。
 偉仁が明玲の目元に軽く布を押し当て、涙を拭く。そうされることでまた涙が止まらなくなった。まるで涙腺が壊れてしまったようである。それも泣き止まなければと思っているのに、後から後から流れていく。

「あらあら……」
「ご、ごめんなさ……」
「謝るな。全て私が悪いのだ」

 しばらく涙は止まらなかった。



ーーーーー
天と地が合わさる 九話の古楽府を参照してください。
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