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本編
96.習慣
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借りた物と己の物に分けた後、紅児は侍女たちから袋をもらい、言われた通りにした。
大部屋を出、侍女頭の陳秀美を探す。今の時間は食堂の方にいるようだった。おそらくは花嫁の昼食の準備だろう。
四神宮を出るとほどなくして陳は見つかった。
「紅児! 体は大丈夫なの?」
ここでも同じことを聞かれて紅児はあいまいに笑んだ。さすがに陳はあ、と口に手を当てる。
「ごめんなさいね。でも、その……わかるでしょう?」
「はい、大丈夫です」
お互い頬を染めて小さい声で話しているというのも奇妙なものである。
「お迎えが来たのですって? よかったわね……」
「まだいろいろあって、今回帰るかどうかはわからないのですけど……」
「そう……」
陳はそこで一旦言葉を切った。
「紅児が……帰国できるのはとても喜ばしいことなんだけど、いなくなると思ったら少し寂しいわ。だって貴女は私たちの”妹”なのだから」
「陳さん……」
紅児は目を見開いた。まさかそんな風に思っていてくれていたなんて。
「だから、今回もし帰れなくても気にせず戻ってきてね。もちろん帰国したって貴女は大事な私たちの”妹”よ」
「はい……」
紅児は涙ぐんだ。
彼女には兄弟がいない。兄弟がどういうものなのかは想像することしかできない。けれどここで、四神宮でいつのまにか沢山の義姉を手に入れていたらしい。
「侍女頭」
後ろから控えめに声をかけられ、陳は仕事の途中であったことを思い出したようだった。
「ごめんなさいね。また後で話せたら話しましょう?」
「はい、ありがとうございます」
時間がとれるかどうかはわからない。けれどその優しさに紅児は頭を深く下げた。
己の荷物を抱え紅夏の室に運ぶ。すでに紅夏と契りを交わした紅児は特別に彼の室に移動するように言われたのだった。もちろん本来ならそういうことは許されないが、相手は四神の眷属である。独占欲の強い彼らに部屋を分けるなどできようはずもなかった。
花嫁には昼食後改めて挨拶に行くことになっている。
紅児用の衣装棚は後で運んでもらうことになった。おそらく紅夏が持ってきてくれるのだろう。
室の主である紅夏はまだ戻ってこない。花嫁の食事の時間になれば戻ってくるはずである。
椅子に腰かけ自分でお茶を淹れる。
ほうっと一息ついたところで侍女たちに聞いたことを思い出し、紅児は顔をしかめた。
こればかりは昼食に行く前に問い詰めなければ。
そうしているうちに紅夏が戻ってきた。紅児は憮然とした表情を向ける。
彼は少し首を傾げた。
「エリーザ、どうした?」
「……侍女たちに聞きました。その……昨夜の……」
実際聞こうと思うと恥ずかしさが先にきて紅児は赤くなった。
「昨夜の?」
促されて紅児はぎゅっと目を閉じた。
「昨夜のっ……後の……床単の話ですっ!!」
勢いこんで言う。
「床単がどうかしたのか?」
なのに紅夏が平然としているそのことに、紅児はカーッと頭に熱が上るのを感じた。
「血のついた床単をそのまま出すなんて! いったい何を考えているんですか!?」
紅夏はそれに一瞬眉をひそめ、それから合点がいったというような表情をした。そして諭すように話してくれた。
「そなたはこの国の習慣をあまり知らぬのであったな。そなたの国ではどうだか知らぬが、婚姻を結んだ娘が処女であるかどうかはとても重要なことなのだ。もちろん四神や我ら眷属は気にせぬ。だがこの国の習慣として、初夜を終えた後それに使用した床単を出し、娘が処女であったということを証明するというのはおかしいことではない」
「…………」
衝撃だった。
「それは……みなすることなのですか……?」
「良家の子女であればするやもしれぬ。少なくとも王城内では当然のことと受け止められているようだ」
「……そうなのですか」
紅児はぐったりした。
己の国では結婚前に処女や童貞を失っていても全くおかしくない。むしろ結婚時に妻が処女であると知ったことで離縁されてしまうケースもあるぐらいだ。
「ってことは、女性が処女でなかった場合は……」
「離縁ぐらいならまだいいが、最悪その場で不貞を理由に殺されてもおかしくはない」
ゾッとした。この国はやはり男尊女卑が徹底されているのだ。
「相手が再婚であるとわかっているなら話は別だ。我らからすれば処女かそうでないかは結婚の条件にはならぬ」
「はい……」
「……恥ずかしい思いをさせてすまなかった」
紅児は赤くなった。そんなことを紅夏に言わせてしまったことを申し訳なく思う。
「ごめんなさい、私……」
「習慣というのはそう簡単に理解できるものでもない。幸い我らに与えられた時間は長い。ゆっくりお互いを知っていけばよい」
「はい……」
こういうことを言ってくれるから、紅夏を惚れ直してしまうのだ。
抱き寄せられて素直に身を委ねる。
この方に会えて本当によかった。
紅児はしみじみと思う。
「……だが、そなたにとって我が”初めて”であったのは……嬉しくてならぬ」
紅児は真っ赤になった。
大部屋を出、侍女頭の陳秀美を探す。今の時間は食堂の方にいるようだった。おそらくは花嫁の昼食の準備だろう。
四神宮を出るとほどなくして陳は見つかった。
「紅児! 体は大丈夫なの?」
ここでも同じことを聞かれて紅児はあいまいに笑んだ。さすがに陳はあ、と口に手を当てる。
「ごめんなさいね。でも、その……わかるでしょう?」
「はい、大丈夫です」
お互い頬を染めて小さい声で話しているというのも奇妙なものである。
「お迎えが来たのですって? よかったわね……」
「まだいろいろあって、今回帰るかどうかはわからないのですけど……」
「そう……」
陳はそこで一旦言葉を切った。
「紅児が……帰国できるのはとても喜ばしいことなんだけど、いなくなると思ったら少し寂しいわ。だって貴女は私たちの”妹”なのだから」
「陳さん……」
紅児は目を見開いた。まさかそんな風に思っていてくれていたなんて。
「だから、今回もし帰れなくても気にせず戻ってきてね。もちろん帰国したって貴女は大事な私たちの”妹”よ」
「はい……」
紅児は涙ぐんだ。
彼女には兄弟がいない。兄弟がどういうものなのかは想像することしかできない。けれどここで、四神宮でいつのまにか沢山の義姉を手に入れていたらしい。
「侍女頭」
後ろから控えめに声をかけられ、陳は仕事の途中であったことを思い出したようだった。
「ごめんなさいね。また後で話せたら話しましょう?」
「はい、ありがとうございます」
時間がとれるかどうかはわからない。けれどその優しさに紅児は頭を深く下げた。
己の荷物を抱え紅夏の室に運ぶ。すでに紅夏と契りを交わした紅児は特別に彼の室に移動するように言われたのだった。もちろん本来ならそういうことは許されないが、相手は四神の眷属である。独占欲の強い彼らに部屋を分けるなどできようはずもなかった。
花嫁には昼食後改めて挨拶に行くことになっている。
紅児用の衣装棚は後で運んでもらうことになった。おそらく紅夏が持ってきてくれるのだろう。
室の主である紅夏はまだ戻ってこない。花嫁の食事の時間になれば戻ってくるはずである。
椅子に腰かけ自分でお茶を淹れる。
ほうっと一息ついたところで侍女たちに聞いたことを思い出し、紅児は顔をしかめた。
こればかりは昼食に行く前に問い詰めなければ。
そうしているうちに紅夏が戻ってきた。紅児は憮然とした表情を向ける。
彼は少し首を傾げた。
「エリーザ、どうした?」
「……侍女たちに聞きました。その……昨夜の……」
実際聞こうと思うと恥ずかしさが先にきて紅児は赤くなった。
「昨夜の?」
促されて紅児はぎゅっと目を閉じた。
「昨夜のっ……後の……床単の話ですっ!!」
勢いこんで言う。
「床単がどうかしたのか?」
なのに紅夏が平然としているそのことに、紅児はカーッと頭に熱が上るのを感じた。
「血のついた床単をそのまま出すなんて! いったい何を考えているんですか!?」
紅夏はそれに一瞬眉をひそめ、それから合点がいったというような表情をした。そして諭すように話してくれた。
「そなたはこの国の習慣をあまり知らぬのであったな。そなたの国ではどうだか知らぬが、婚姻を結んだ娘が処女であるかどうかはとても重要なことなのだ。もちろん四神や我ら眷属は気にせぬ。だがこの国の習慣として、初夜を終えた後それに使用した床単を出し、娘が処女であったということを証明するというのはおかしいことではない」
「…………」
衝撃だった。
「それは……みなすることなのですか……?」
「良家の子女であればするやもしれぬ。少なくとも王城内では当然のことと受け止められているようだ」
「……そうなのですか」
紅児はぐったりした。
己の国では結婚前に処女や童貞を失っていても全くおかしくない。むしろ結婚時に妻が処女であると知ったことで離縁されてしまうケースもあるぐらいだ。
「ってことは、女性が処女でなかった場合は……」
「離縁ぐらいならまだいいが、最悪その場で不貞を理由に殺されてもおかしくはない」
ゾッとした。この国はやはり男尊女卑が徹底されているのだ。
「相手が再婚であるとわかっているなら話は別だ。我らからすれば処女かそうでないかは結婚の条件にはならぬ」
「はい……」
「……恥ずかしい思いをさせてすまなかった」
紅児は赤くなった。そんなことを紅夏に言わせてしまったことを申し訳なく思う。
「ごめんなさい、私……」
「習慣というのはそう簡単に理解できるものでもない。幸い我らに与えられた時間は長い。ゆっくりお互いを知っていけばよい」
「はい……」
こういうことを言ってくれるから、紅夏を惚れ直してしまうのだ。
抱き寄せられて素直に身を委ねる。
この方に会えて本当によかった。
紅児はしみじみと思う。
「……だが、そなたにとって我が”初めて”であったのは……嬉しくてならぬ」
紅児は真っ赤になった。
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